第11話
猿渡准教授は一息ついてお茶に手を伸ばす。
終始頑張ってペンを走らせたが、結局追い付けず、諦めてティファの記憶を頼ることにした。
そして迷いながら猿渡准教授に訊ねた。
「猿渡さんの読んだ論文って、もしかしてですけど……僕のですか?」
猿渡准教授はほほっと笑いながら「そうですよ、とても参考になりました」と答える。
猿渡准教授の言葉が嬉しくて、僕はその場で暫く静かに悶えてしまった。
気を取り直して考え込んでいると、猿渡准教授は思い出したように再び話し始めた。
「そう言えば、彼がいなくなる前日、ではないのですが、いなくなる三日前あたり、私には理解できない言葉を話していたのを思い出しました」
「え」
思わず声を漏らす僕。
「どんな言葉ですか」
テーブルの真ん中に紙きれが一枚置かれた。
「私には理解できませんでしたが、気になって仕方がなかったので彼がいなくなった後、紙に書き留めておいたんです」
僕はその紙きれをじっと眺めた。
――本のしおりは、群青が枯れ果てる間際の姿
紙きれにはそう書かれてあった。ティファの頭にもこの文章をインプットさせておこう。
「覚えました」
僕は記憶力があまり良くないから、ティファの存在はとても役に立つのである。
「ええと、これって所謂、暗号ってやつですか?」
直感で僕は訊いてみた。
「さて……どうなんでしょうね、でも、私も暗号だと思いました」
僕たちはこの怪文章を暗号だととらえて調査を進めることにした。
「それじゃあ、この文章を解読するべく、暫く力を貸していただけないでしょうか」
「かまいませんが、本当にこの謎めいた文章を解読できるのですか?」
「まあ、調べてみないと何もわかりませんのでね。調べるだけ調べてみます。後日また伺ってもよろしいですか」
僕はできる風を装って言いながら席を後にすることにした。
「ええ是非。それではよろしくお願いします」
猿渡准教授は僕たちを大学の門の前まで送ってくれた。
「あぁ、疲れたよ」
猿渡准教授がちゃんと見えなくなってから僕は我慢していた弱音を吐いた。
「お疲れ様です。さて、本格的な推理の始まりですね。真剣に調査をしましょう」
案外乗り気な様子を見せるティファは僕に小さく圧をかけた。
「はいは~い」
僕はティファの言葉を聞き流しながら、途中にあるコンビニでストロング缶を三本買ってホテルへの道のりを急いだ。
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