第4話

「ねぇそっち行ってもいい?」

「いいよ。」

「じゃあ通話抜けるね。」

ピコンという通話相手が退出する音がしたので私も通話を切って椅子を180度回転させて待つ。ドアの奥でドアが開く音がしたと思ったらすぐに私の部屋のドアが開かれた。

「ねえええ!やばいって。」

「わっ。」

ルミネが椅子に座ったままの私に抱きついてきた。体勢を崩しそうになる。

「危ないから。ベッドに座って。」

「はーい。」

ルミネは私のベッドにダイブした。寝転がっていいとは言ってない。

「今日だけでめっちゃチャンネル登録者増えた!」

ルミネはそういうと私にスマホを投げてきた。なんとかキャッチするとそこにはチャンネル登録者:1288人と表示されていた。

「もう1000人超えたんだ。」

「ね!やばくない?」

「やばいね。」

ルミネはベッドの上でゴロゴロと左右に暴れまわった。私の毛布がぐちゃぐちゃだ。

「そういえばなんでそのLIzさんって人は配信にきてくれたの?」

「前から知っててくれてたみたい。それでたまたま配信してたのを見つけてくれてSNSで宣伝してくれたんだって。」

「はえー。いい人だね。」

「ん!今度一緒にやらないですか、だって。」

SNSのLIzさんとのDMを見せてきた。

「私はどっちでもいいよ。」

「じゃあ承諾するよ。」

ルミネはスマホで文字を入力しだした。スマホのタップ音だけが部屋に響く。

「あ、そうだ。」

私はパソコンを操作して私のSNSを作った。アイコンは適当に私の推しのフリーアイコンにしておく。通話アプリのアイコンと同じものだ。そこにいくつかクリップを投稿しておく。ついでにルミネもフォローしておく。

「あ、アカウント作ったんだフォロバしとくね。」

「うん。」

通知が行ったようでそれに気づいたルミネからフォローが返って来た。なんか不思議な感覚だな。私は今まで自己満足のために貯めに貯めたクリップをすべて投稿した。

「ごめんシリウス。私眠いからねていい?」

「んー。」

シリウスはベッドの真ん中から端に移動した。

「部屋出るとき電気消してね。」

「はーい。」

「おやすみ。」

「おやすみ。」

引っ越しの疲れが今でてきたのか、ルミネが乗っている毛布を奪い取るとすぐに眠ってしまった。







「知らない天井だ。」

私は呟く。いや寝ぼけてるわけじゃなくて本当に知らない天井なんだけど。遮光カーテンなので外の明るさはわからないけど多分朝だろう。時間を見ようとスマホを手に取ると大量の通知が来ていた。昨日スマホにも入れておいたSNSのアプリからの通知だ。スマホのロックを外すとアプリのマークには+99と表示されていた。

「えぇ......」

開いてみると通知のほとんどはいいねやフォローの通知だった。Remuさんパワーすごいな。いくつかコメントもあって褒められているコメントも多くてうれしい。感謝を伝えようとホーム画面に戻った私は驚愕した。

フォロー中1 フォロワー12,433

「えええええええええ。」

少し大きめな声を出してしまった。隣のルミネには聞こえてないだろうか。そう心配していると私の布団の中で何かが動いた。がばっと布団をめくるとそこにはルミネがすやすやと寝ていた。

「なにしてんの?」

聞いてみてもまだ寝ている。とりあえず布団をかけて元の状態に戻した。見て見ぬふりだ。

とりあえず震える手でフォローありがとうございます。ここにいることが多いのでチャンネル登録お願いします。とルミネのチャンネルとルミネのアカウントのリンクを貼って投稿した。

ルミネを起こさないように足をゆっくりと引き抜いてベッドから抜け出した。お腹が空いたので朝ご飯を作るためにキッチンまで足音を立てないように移動した。

朝ご飯はレンジで温めるご飯を使っておにぎりをいくつか作った。そのあとお味噌汁を作っているとルミネが降りてきた。

「おはよう。」

「おはよ。」

ルミネは目を擦りながら椅子に座ると私をじっと見つめてきた。

「なに?」

視線が少し気になる。

「なんでもない。」

「そ、ご飯もう少しでできるから待ってて。緑茶飲める?」

「うん。」

先に湯呑にお茶を淹れてルミネに渡す。

「熱いから気を付けて。」

ルミネはふーふーと冷ましながらお茶を飲んでいた。お味噌汁が沸騰する前に火を止めてお椀によそう。それとおにぎりと切った海苔を一緒にお盆に乗せてテーブルまで持って行った。

「海苔食べれるかわからなかったからセルフで。」

「はーい。ありがと。」

ルミネは海苔を巻かずにおにぎりが巻かれたラップを掴んでおにぎりを食べた。やっぱり海外の人は海苔を食べないのかな。

「んー。パパは食べるけどね。私はあまりすきじゃないだけ。」

「思考を読まないで!?怖いよ!」

肝が冷えた。なんなら凍った。

「それよりなんで私のベッドで寝てたの?」

「あー、あやせちゃんが寝てから私も寝ようと思ったんだけどあやせちゃんの体温があったかくて寝ちゃったみたい。」

「寝ちゃったみたいって。まあいいけど。」

「いいなら毎晩お邪魔するけど。」

「それはやめて。夏は暑苦しいから。」

「うーい。」

ご飯を食べ終わった後はどうしようか迷ったけどルミネが配信したいと言ったのでゲームをすることになった。

「あー、あー、聞こえてる?」

「うん。大丈夫。じゃあ配信始めるよ。」

エイム練習をしながらゲームを始める。配信をしてるとは言えいつも通りゲームをするだけだ。今日も勝てるといいなー。

スマホをリビングに置いてきてしまったのでルミネの配信を見ることはできない。少しコメントが気になるな。たまにルミネが静かになるのは配信でなにか喋ってるのだろうか。いつもより口数が少ない気がする。ゲームのプレイもいつもはしないようなミスを連発している。

「ルミネ、大丈夫?」

「ちょっと緊張で手が震えてる。」

「なんかあったの?」

「配信見てほしい。」

「スマホ今ないから無理。」

「えーっとね。いま視聴者が5000人超えたの。」

「は!?」

5000人?なんでそんなにいるの?いや私のフォロワーが一夜で10000人増えたからありえなくないと言われればありえなくないけど。

「さっきから手が震えてるんだよー。」

「もう......配信してパフォーマンス下がるなら本末転倒でしょ。」

「むう....」

「一旦配信の同接とか見るの禁止。ゲームモニターだけ見て。」

「はい......」

だから口数も少なかったのか。まぁ自分のプレイを人に見られるのは緊張するよね。ましてやそれが5000人なんて相当だろう。

しばらくするとミスも減り始めていつものルミネに戻った。

「ナイス勝利~。」

「ナイス~。あやせちゃんに救われたよ。」

「んー。」

次のマッチメイキング中にスマホを取りにリビングに戻った。通知はあれからも入り続けていたようでスマホの画面に通知が表示されていた。配信サイトを開きながら部屋に入るともうマッチングしていた。

「ごめんお待たせ。」

「みんなキャラピックしてるからあやせちゃんはコンバットだね。

「まじでか。」

このゲームにはキャラごとに役割ロールがあって、アタッカー的な役割を持つコンバットのほかに防衛的な役職のガーディアン、相手の妨害をしつつ味方が戦いやすいようにサポートするストラテジスト、味方に有利な状況を作れるヴァンガードの4つがある。コンバットはチームの中で最も上手い人がやることが多い役職だ。そのためチームを背負う必要があるからできる限り避けてきた役職だ。

「みんなピックしてるし、仕方ないかぁ。」

「背負ってね。」

「自信ないなぁ。」

「あやせちゃんのコンバットはレアだからみんな期待しててね!」

「.....やめて。」

「そう言って前も無双してたじゃん。」

・期待!

・さっきのストラテジストの時も強かったから楽しみだ。

・めっちゃハードル上げてて草。

少しコメントを見るとみんなの期待が高すぎる。私本職ストラテジストだからね!?

私の手をちらりと見ると手が震えていた。


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