第5話

震える手からマウスを一度離して深呼吸をする。一度気持ちをリセットする。

まずは最初のラウンドだ。ここを取れるかでゲームの勝敗は大きく変わる。さらにここは攻撃に特化したスキルを持つ私のキャラクターは前に出て打ち合わなければならない。

ラウンドが始まって私を先頭にして進んでいく。スキルを使ってもらって敵が隠れていないのか確認しつつ私は爆弾を設置する場所を確保した。

このマップは爆弾を置けるスペースが2か所あって敵はそっちを固めていたようだ。爆弾を設置できたので私は敵を削りに行く。爆弾を解除するために走って来た敵を2人倒して私を倒しに来た敵も返り討ちにした。私の体力が少なくなったので隠れていると味方が全員やられていた。

「ごめん裏からきてる。」

「了解。」

私はポジションを変えて爆弾を解除している敵の頭を打ちぬいた。これで私の位置もばれたけど敵は爆弾が爆発する前に敵を倒さなければならないので少し慌てているだろう。

敵が爆弾を解除する音が聞こえたが私は遮蔽物に隠れて動かない。これはフェイクだ。音をわざと鳴らして出てきた敵を倒す初心者から上級者までみんな使う小技だ。

私はもう一度解除の音が鳴ったタイミングで遮蔽から飛び出すと敵が爆弾を解除してたので落ち着いてエイムを定めて撃ちぬいた。

「quintet」

ゲーム内の無機質な音声がそう言った。quintetは敵の5人を倒してラウンドを取得したときの演出だ。

「nc」

「nc!」

「nccccc」

野良のチームメイトもテキストチャットで褒めてくれた。

「ナイス!!!!」

「良かったー。心臓バクバクだよー。」

心臓の音はうるさいけど手の震えも取れたしエイムの調子も悪くない。私は武器を購入して次のラウンドに臨んだ。

・えっぐ

・マジでばけものだろ

・AYASEさん視点くれ!



そのあとのラウンドも私の調子は崩れずに無双して勝利を飾った。

「あやせちゃんやっぱ強いね。」

「たまたまだよ。でもちょっと疲れた。」

一マッチ平均40分くらいかかるので頭がくたくただ。特にコンバットは考えることが多くて疲れる。

「どうする?もう終わる?」

「うーん。一旦落ちようかな。ルミネはまだやる?」

「私も疲れたから終わるー。すこし短いかもだけど終わります。来ていただいた方ありがとうございました。」

「ありがとうございましたー。」

パソコンの電源を落として椅子の背もたれに寄りかかる。最近腰とか肩が凝って痛いなぁ。

椅子からベッドに移動して横になっているとルミネが私の部屋に入って来た。

「おつかれー。」

「んー。」

「とうっ!」

部屋に入って来たルミネにうつ伏せになったまま返事だけする。

「ぐはぁっ。」

うつ伏せになった私の上にルミネが乗りかかって来た。

「重い......」

「そう?」

ルミネは私の上に乗ったまま体を起こした。

嘘だよ軽いよ。なんでそんなに軽いんだよ。そこまで私と身長変わらないだろ。

「どいてー。」

「はーい。」

ルミネが体を浮かせたところで仰向けになる。まだ腰が疲れていて横になっていたい。

「そんなに疲れたの?」

「うん。最近疲労がすごくて。ゲームした後とか腰と肩が痛いんだよー。」

「じゃあマッサージしてあげる。」

「じゃあお願い。」

「はーい。じゃあうつ伏せになって。」

私がもう一度うつ伏せになるとルミネがマッサージを始めた。腰や、背中、肩甲骨のところも入念に指で押してくれる。

「どう?」

「最高。」

私はしばらくされるがままにされていて、何度か寝落ちしそうになったところを何とかこらえた。

「ありがとー。楽になったよ。」

私は体を起こして肩を回す。肩が軽い。

「どういたしまして。」

ルミネは再び後ろに倒れて横になった私の隣に座って来た。

「どした?」

「あの、あやせちゃん。お出かけに行きたいんだけど。」

「いいんじゃない?」

「それはまだ決めてない......あやせちゃんとどこか行きたいなって。」

「いいよ!」

「本当?」

「うん。行きたい場所とかある?」

「実はこれ気になってるんだけど....」

ルミネがスマホを手渡してきた。それはネカフェのサイトだった。

「ネカフェ?」

「うん。最近できたらしくて設備もいいらしいんだよ。」

「いいね。えっと場所は.....」

場所を確認すると歩いても行ける距離だった。

「お昼もここで食べれるらしいけどもう行っちゃう?」

「うん!着替えてくるね。」

「私も着替えるー。」

ルミネが部屋から出て行ってから私はパジャマから外行き用の服に着替えた。もう3月とはいえまだ寒いので少し暖かい格好で行こうかな。

着替えて部屋で待っているとルミネが部屋に入って来た。

「お、おまたせ。」

ルミネは長くて綺麗だった金髪を編み込んでとてもかわいらしくなった。服はパーカーとタイト目なパンツだった。ふわふわな雰囲気でかわいい。

「準備はできた?」

「うん。」

「じゃあ出発ー。」

しっかり戸締りしてから家を出る。やっぱりまだ外は寒かった。

「寒くない?」

「うん。大丈夫。」

少し歩いたところに目的のネカフェの看板が見えた。今までの家から遠かったから全く知らなかった。

「いらっしゃいませー。」

建物に入ると受付があったのでそこに行く。

「お二人様ですね。シングルルームかお二人用のダブルルームにご案内ができますがどちらになさいますか?」

「ダブルルームでいい?」

「あやせちゃんがいいなら。」

「じゃあダブルルームでお願いします。」

「かしこまりました。時間ごとの料金プランがこちらになります。」

店員さんが表を見せてきた。

「どれくらいいたい?」

「夜までには帰るから8時間くらい?」

「私は泊まってみてもいいけど。」

ネカフェは初めてでテンションが上がっている。ルミネが良いなら泊まってみたい。

「私着替えとか持ってきてないよ。」

「途中で一度家に帰ってもいいですか?」

「はい。リストバンドをつけていただく形にはなりますが。」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

「下着の販売や寝間着の貸し出しもございますので是非お使いください。」

「ありがとうございます。じゃあ24時間プランで。」

「ありがとうございます。お二人様なので12000円です。」

「あの、これを。」

ルミネが自分の財布から紙を一枚出した。

「ご来店ありがとうございます。お支払いは結構です。部屋は5階にございますのでそちらのエレベーターをお使いください。」

「ありがとうございます。」

ルミネは困惑する私の手を取ってエレベーターまで引っ張って行った。

「どういうこと?」

「実はパパがここの経営の人と仲がいいらしくて割引券もらってたんだ。」

「割引券どころかお会計全部引かれてたけど。」

「まぁ気にしなくていいよ!」

5階に着いた後は壁に置かれているマップを見ながら部屋までたどり着いた。

「ここだ。」

「早く入ろ!」

ルミネは少しテンションがあがっているようだ。鍵を刺しこんで開ける。

「わぁ!」

「意外と広いね。」

私たち二人が横になっても十分なほど広くてリクライニングができるタイプの椅子とあとはクッションとpcのセットが2セット置かれていた。

「まずは暖房つけよ。」

テーブルに置かれていたリモコンで暖房をつけてコートを脱いでハンガーにかけておく。

「ドリンクとかは廊下にあるらしいよ。」

ルミネがネカフェのガイドブックを見ながら言う。

「見せて。」

ガイドブックを覗きこむ。コンビニもあるし、シャワーもあるしコインランドリーまであるのか。もはやホテルだな。

「何して過ごそうか。」

「ゆっくりしたいから食べ物とか持ち込んでアニメとか見ない?」

「いいね。」

私たちは一度部屋から出て売店に向かった。おにぎりやサンドウィッチ、麺類等いろいろあったけど私たちは4種類の味があるサンドウィッチにした。ドリンクバーでジュースをコップに注いで部屋に戻る。パソコンのモニターを横にスライドさせてどかすと家庭用のテレビくらいの大きなモニターが後ろに隠されていた。このモニターでアニメが見られるらしい。リモコンを使って起動した。

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