第2話
ルミネと出会った日の夕方、私に電話がかかってきた。
「もしもし、お父さん?」
「ああ、久しぶりだな文星。」
お父さんはいつも通りの優しく落ち着いた声色だった。
「それでメッセージ読んでくれた?」
「ああ、母さんとも話し合ったが....是非こちらからもお願いしたい。」
「本当?いいの?」
「ああ、今まで1人で残してきたことも不安だったから、近くに人がいた方が安心出来る。ただ少し連絡を取りたいから私のメールアドレスを教えておいてくれるかい?」
「わかった。送っとく。」
「うん。一応卒業式の時に1度そっちに戻るからその時までに荷物はまとめておいてくれ。」
「はーい」
「じゃあこれで切るぞ。」
「じゃあね。」
電話が切れたのでルミネに連絡をする。直ぐに既読がついて了解!と敬礼をしているキャラクターのスタンプが送られてきた。
「1組1番 甘木 文星。」
「はい!」
あれから早いもので卒業式の日になった。私立の大学の受験者はもう決まっている人が大半であとは国公立の受験者の合否待ちだそうだ。
「「卒業おめでとう。文星。」」
「お父さん。お母さん。」
最後のクラス会を終えて学校から出ると私の両親が正門で待っていた。
「答辞立派だったわよ。」
「ありがと。めっちゃ緊張したけどね。」
「高校は楽しかったか?」
「うん。いっぱい友達もできたし。」
2人と話していると後ろから声をかけられた。
「あの、文先輩。」
「どうしたの?」
この子は今の生徒会長だ。私が先代の生徒会長なので部活に入っていなかった私の数少ない後輩だ。
「第2ボタン頂けませんか?」
「あの文化って存在したんだ。」
ボタンを取って渡す。
「ありがとうございます。先輩も大学頑張ってください。」
「ありがと。文化祭行くからね。」
「はい!」
私はその子の頭を軽くぽんぽんとして振り返った。いろいろあったけど楽しかったな。そんなことを思いながら親のところに戻った。
「向こうに車停めてあるから行こうか。」
お父さんについて行くとコインパーキングにお父さんの車が停まっていたので乗り込む。向かう先はルミネの家だ。
ルミネの家に到着すると車が1台停まっていた。お父さんはその車の横に駐車した。
「お待ちしておりましたー。」
車から降りると家の中から梓さんが出てきた。
「お久しぶりです。梓さん。」
「あやせちゃんお久しぶりー。卒業式の後なのにごめんね。」
「いえいえ、大丈夫です。」
「お父様もお母様もどうぞ中にお入りください。」
みんなでテーブルを囲んで席に着く。ルミネもいて梓さんの横に座っていた。
「初めまして。私は速水 梓と申します。」
「私はシリウスです。よろしくお願いします。」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は甘木 樹です。」
「妻の結と申します。」
「この度はお時間を取らせてしまって申し訳ないです。」
「いえいえ。大事なことは実際に話し合うべきなので。」
親同士での話し合いが始まった。内容は食費や光熱費などの私たちはどうしようもないものばかりだったので正直私とルミネは蚊帳の外だった。なので途中で抜け出してルミネの部屋に行くことにした。私の荷物はまだだけどルミネの荷物はもう運ばれていた。ベッドや絨毯も置いてあって机にはしっかりパソコンにつながれたモニターが置かれていた。
「もうネットつながってるの?」
「うん。ゲームする?」
ルミネは大人気の家庭用ゲーム機を段ボールから取り出した。
「いいね。対戦しよ。」
「オンラインではあやせが勝ち越してたけど私はオフラインでは無敗だから。」
「それってCPUか誰ともやってないだけでしょ。」
「ばれた?」
親が話し終わって私たちを呼びに来るまでゲームをして遊んだ。
「文星の荷物は明日業者に運んでもらうことになったから。」
お父さんがそう言ったので今日は帰って引っ越しの準備をすることになった。
「今日は夜できないかも。」
「りょー。」
家に帰って来た。この家に人が来るのは年末ぶりだろうか。
「さ、文ちゃん。早めに支度してらっしゃい。」
「うん。毛布とかはどうすればいい?」
「今使ってたやつは洗濯しちゃいましょう。使ってないのを持って行けばいいわ。」
「はーい。」
一応持って行くものはまとめて置いたので私はベッドのシーツを外したりパソコンの配線をまとめたりした。
その日の夜ご飯は卒業の日ということでお母さんがお寿司を買ってきてくれた。お腹いっぱい食べて私のベッドはもう使えないのでお父さんたちの寝室の大きなベッドで寝た。お父さんはリビングのソファにお母さんが追いやったけど。
「文ちゃん。起きなさい。」
数か月、いや数年ぶりに起こされて目を開けた。
「おあよう。」
「おはよう。顔洗ってきなさい。」
エプロン姿のお母さんを見るのは久しぶりだな。私は洗面台で顔を洗ってからリビングに向かうとお父さんはもう起きていた。
「いい匂い。」
リビングに入ると甘い匂いがした。この匂いは
「フレンチトースト?」
「正解。鼻が良いわね。」
「お母さんのフレンチトーストが世界一美味しいからね。」
「ふふ。たんと食べなさい。」
テーブルに並べられたサラダとフレンチトーストを食べた。朝だというのにおかわりまでしてしまった。
「美味しかった。ご馳走様。」
「お粗末様。食器洗うから流しに置いといて。」
「これくらい私がやるよ。お母さんは座ってて。」
朝ご飯も作ってもらってさらに洗い物もさせるのは流石に申し訳ない。
「そう?じゃあお願いするわ。」
私は洗剤をスポンジにつけてお皿やコップを洗った。
「忘れ物はない?」
「うん。」
私は少しの荷物だけもって車に乗った。他の荷物はもう業者に預けたので先に向こうに行っているお父さんが受け取っているはずだ。なのでお母さんの運転でルミネの家まで向かう。
「や。」
ルミネの家に着くとお父さんが外にいたので手を振りながら近づく。
「ちょうど運び終えたから確認してくれ。あとパソコンの配線は自分でできるな?」
「うん。ありがと。」
私は家に入る。私の部屋は二階にあるルミネの部屋の隣だ。ドアを開けるとベッドが奥にあってその隣に机とパソコンが置かれていた。この並びで大丈夫だろう。
「これでいいよ!」
一階にいるお父さんに伝えてから再び部屋に戻ってパソコンの設定を始めた。初回は少し時間がかかるがすぐ終わるだろう。
「あやせちゃん。入るよー?」
ルミネが部屋に入って来た。
「ノックくらいしなよ...」
「ごめんごめん。あ!そのマウス!」
ルミネは私の机の上に置かれているマウスに食いついた。
「え!これ買ったの?」
「うん。」
「早く言ってよ。それに限定色のピンクじゃん。めちゃかわ。」
ルミネは自他ともに認めるデバイスヲタクなのですごく興奮していた。ゲーマーとして私もこだわってはいるけどね。
そのあとルミネは私のセットアップが終わったパソコンでWifiをつないでくれた。
「これでゲームができる。」
「ESPELANZA以外にもいろんなゲームできるの楽しみ。」
「ね。オフラインゲームとかもやってみたかったんだ。」
「お母さんたちが帰ったらパーティだね。」
「いいね。」
私たちは一度一階に降りて部屋のことは終わったことを伝えた。
「じゃあこれで帰っても大丈夫そうね。樹さん、結ちゃん本当にありがとうございました。」
「いえいえこちらこそ。」
「じゃあね梓ちゃん。またお茶会しましょ。」
お母さん同士は仲良くなったようだ。
「じゃあ私たちは帰るけど何かあったら連絡するんだよ。」
「わかったよ。」
「じゃああやせちゃん。シリウスをよろしくね。」
「わかりました。」
「シリウスさん。うちのあやせをよろしくお願いします。」
「お任せください!」
お母さんたちは車に乗って帰って行った。
「じゃあ乾杯しよ!」
梓さんの車が出て行くのを確認してからルミネが行った。
「おっけー。」
冷蔵庫を開けると今日の分の食べ物とお茶しか入ってなかった。
「これは.....」
「コンビニ行こっか。」
「そだね。」
私たちは近くのコンビニに行くことにした。
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