第1話
「えっと.....どなたですか?」
顔を上げた私の前に立っていたのは私より少し小柄で金色の髪をゆるく巻いている美少女だった。
「どなたって酷くない?」
少女はくすっと笑うと私の正面の席に腰を下ろした。座る姿でさえ見惚れてしまいそうなほど絵になる美少女だ。」
「初めまして、AYASEちゃん。私がルミネです。」
少女がお辞儀をした。くるくるとまとめられた髪が一束肩からすり落ちおちた。
「あ、貴方がルミネなの....?」
にわかには信じられない。声は確かにルミネだけど想像していたルミネとはかけ離れている。
「びっくりしたー?」
「そりゃあもう。」
「じゃあドッキリ大成功だね。」
ルミネは満足そうに笑うとテーブルの上にあるベルを鳴らしてオレンジジュースを注文した。
「じゃあ改めましてAYASEちゃん。
店員さんが持ってきたオレンジジュースを飲みながらルミネが言う。
「えーと、ルミネって呼んだ方がいい?それとも本名の方がいい?」
「本名で!」
ルミネが即答した。
「じゃあ速水さ。「シリウス。」
ルミネが食い気味に被せてきた。
「.....シリウスさん。」
「なに?AYASEちゃん。」
ルミネはにこにこしながら私をじっと見つめてくる。
「どうして私が女だってわかったの?それにできる限り男っぽい言動してたはずなんだけど。」
「最初は男の子かなって思ってたけどたまに一人称が私になってたし、ボイチェンもたまに外れてたよ。」
「まじで?」
「まじまじ。」
ルミネは首を縦に振る。それでかぁ...昔まではボイチェンがかかってるか確認してたけどルミネとやるようになってから確認してないときもあったからその時かなぁ。いつ頃からばれてたのかな。
「気づいてたなら言ってよー。」
「いやぁ....いつ気づくのかなぁって思ってたら1年過ぎちゃった。」
「......」
「ごめんて。」
「別にいいけどさぁ。」
やっぱりこの子はルミネだ。いつもパソコンに向かってしゃべっているのと同じように話せる。すこし口調は違うけれども。
「そういえばもう住むところ見てきたの?」
「いいや、これからだよ。」
「そうなんだ。」
「てかそれよりもAYASEちゃんは名前教えてくれないの?」
「あ、忘れてた。甘木文星です。」
慌てて自己紹介をする。
「あやせって本名だったんだ。」
「そうだよー。」
私はコーヒーに口をつける。口の中に広がる苦みがやっぱりこれは現実なんだと教えてくれる。
「それであやせちゃん。お願いがあるんだけど。」
「なんだい?」
「物件行くの一緒に見てほしいなぁって。」
「いいよ。」
「ほんと!?」
慣れない土地で一人で歩くのは怖いだろう。それにルミネが住むところは気になるし。
「でも私に住所ばれちゃうけどいいの?」
「NP(no problemの略称)だよ!」
「じゃあもう行く?」
「行こ!」
私たちはカフェから出て電車に乗って席に座った。
「どんな家なんだろうなぁ。」
「ついてからのお楽しみだよ。あやせちゃんもきっと気に入ると思う。」
「私が気に入ってどうするの。」
「えーとここだね。」
「え。間違えてない?一人暮らしだよね?」
「ここだよ。ほら。」
そう言ってルミネは家の門の鍵を開けた。なんで戸建ての家を持ってるの?大学に行くのにわざわざ買ったの?
「あやせちゃーん。早く来てー。」
困惑して門のところで立ち止まっていた私を先に家のドアまで歩いていったルミネが呼んだ。
「お邪魔します。」
そう言って玄関に入ると壁が外壁と同じようにコンクリートの打ちっぱなしだった。おしゃれだ。
「なんで戸建てなの?普通マンションとかじゃないの?」
「あはは、親が買ってくれたんだ。」
「ええ......」
娘が東京に出るから戸建ての家を与えるなんてどんな親だ。
「私も家の中を生で見るのは初めてなんだー。」
「そうなんだ。」
ルミネが家の中を探索していくのに私はついて行く。お風呂は大きいし、部屋も無駄に多いし、テレビとか冷蔵庫とかの家電製品もそろっていた。まさに理想の家って感じだ。スマホで調べた感じコンクリートの打ちっぱなしは防音性も高いらしい。
「すごい家だね。」
「気に入ってくれた?」
「一度はこんな家に住んでみたいよ。」
ゲームもできて私の行く大学にも近い。ん?大学?ルミネも大学進学でこっちに来たんじゃないっけ。
「あのシリウスさん?」
「なに?」
「大学進学でこっちに来たって言ってたけどそれって駅前の大学?」
私は窓から少し見える建物を指さして聞いた。
「そう。あそこの。」
あれは私の進学予定の大学だ。やっぱりか。ここから一番近い大学はあそこだしな。
「やっぱり。私もあの大学だよ。」
「本当?学部は?」
「経済学部。シリウスさんは?」
「私も経済!」
うん。なんかそんな気がしてた。これが第六感か。こわ。
「いろいろ偶然だね。」
なんか引っかかる気がするけど気のせいだろう。
「それでもう一つお願いがあるんだけどいいかな。」
「ん?まだあるの?」
「うん。私の親と話してほしくて。」
「えええええええ。」
ネッ友の親て、気まずさレベルMAXだよ!
「ちょっとでいいから。5分くらいでいいから!」
「えー、じゃあ5分だけだからね。」
「うん。」
ルミネは鞄からタブレットを取り出すとテーブルに置いた。私はその前に置かれた椅子に座る。するとタブレットから声がした。
「あなたがAYASEちゃん?」
「え。」
画面を見ると女性が映っていた。こっちに手を振っている。
「やっほー。ママ。聞こえてる?」
「ずっと聞こえてたわよー。」
ずっと?さっきまでの会話は聞かれてたのか?
「じゃあ紹介します。こちらが甘木 文星ちゃんです!」
ルミネが画面に向かって言う。
「あ、はじめまして、甘木 文星です。」
一応自分でも挨拶をしておく。
「初めまして~あやせちゃん。私の名前は速水
私はぺこりと頭を下げてお辞儀をする。ルミネはお母さん似なのかな。目元がそっくりだ。違うのは目の色と髪色くらいだ。
「聞いてた通りいい子そうで良かったわ。これならシリウスを任せても大丈夫そうね。」
「どういうことですか?」
「あやせちゃん。貴方にはシリウスと一緒にその家で暮らしてほしいの。シリウスは一人暮らしは初めてで東京には知り合いもいないからあなただけが頼りなの。」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は親にも確認取らなきゃだし、ネットで知り合った人といきなり同棲って親御さん的にも大丈夫なんですか。」
「この家は大学とも近いし、貴方にもメリットはあると思うの。それにさっきのシリウスとの話を聞いてればあなたが悪い子じゃないのは分かるわ。」
「そうですか....」
正直あの大学には今の家からじゃ二駅分離れているから行くの大変なんだよな。ルミネも同性だったし。あれ?これ別に私にデメリットなくない?どうせ家にいる時はこもってゲームしてるし。
「親と相談させてください。結果はシリウスさんに連絡します。」
「ええ!それでお願いします。ありがとう。」
「早めに連絡しますね。」
「ありがとう。じゃあそろそろ切るわね。シリウスも帰りの新幹線間違えないようにね。」
「はーい。」
「じゃあね。あやせちゃん。また話しましょう。」
「は、はい。」
通話が切れた。
「ありがと。」
隣に座ってたルミネがカバンにタブレットをしまった。
「これがお願い?」
「そう。無理だったら無理って言ってくれていいから。」
「一応前向きな方向ではあるけどね。」
「やった。もしこっち来たらいっぱいゲームしようね。」
ニコニコと楽しそうに話すルミネを横目に私は親にメッセージを送信するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます