奇譚0017 真夏の夜のドライブ

 真夏の深夜にAとBと3人でドライブに出掛けた。高校からの友達で卒業してからもしょっちゅうつるんでいた。特に目的地もなかったが免許取り立てというのもありどこでもいいからドライブしたい気分のままに適当に海岸線を走っていた。それほど広い道ではなかったけれど車も全く走っていないのでそこそこ飛ばしていると前方に車が見えた。やけにノロノロしている。見るとこちらと同じ車種でボディカラーも同じだった。追越車線で追い越す時にちらっと見ると向こうもこちらを向いて思わず叫んだ。他の二人も気がついたようで同時に叫んでいた。顔が俺たち3人にそっくりだった。服装も髪型も似ている。違うのは白髪で顔が皺だらけの爺さんのようだった。「やばいやばい」「なんじゃあれ?!」「きも!」追い抜いてスピードを上げるとさっきまでノロノロ運転だったのに後ろの車もスピードを上げて追いかけてきた。


このままだと追いつかれる。


「そこの山道入ろう」と言ってハンドルを切り山を登る細い道に車を隠した。後ろの車は気が付かなかったのかそのまま海岸線を走って行った。

「マジでなんだよあれ?」

「マジでこえー」

「どうする?引き返すか?」

「でもガソリンがやばいんだよな。本当はこの先にあるスタンドで入れるつもりだったからさ」

「戻ってもスタンドなかったよな」

「この道で山越えれば国道に出れんじゃね?」

とりあえず少し進んでみることにした。しかし国道に出られそうな気配がない。

「ちょっとしょんべん」と一人が言って車を停め「じゃあ俺も」と言って結局3人で森の中へ入り用を足して車に戻ろうとするとBが叫んだ。

「いった!」「どうした?」「いってー、なんかに咬まれた。うわ!何だ!?」スマホのライトを向けると何かがいた。猫くらいの大きさの毛のない動物だった。痩せた豚か?「うわー!嘘だろ!」そう言ってAが走り出した。俺もよくわからなかったが咄嗟に走って車の中へ逃げ込んだ。

「何だ?どうした?」

「お前見なかったのかよ?顔が」

「顔?」

「あのよくわからん、毛のない猫みたいなやつの顔が人の顔っていうか、あれお前の顔だったぞ」

「は?」

「あれ?Bは?」

そう言われて外を見るとBが倒れている様だった。

「おい!大丈夫か?」と叫んだが声が届いていない。さっきの動物はいない。Aと俺は外に出て急いでBを車に運び走り出した。後部座席でうずくまりながらBがうなされている。

「あのわけわかんない獣に咬まれたせいかな?」

Bの腕には噛み傷ができていた。

「とにかく病院に行こう」

そう言って山道を走りようやく道が開けると思ったらさっきの海岸線だった。

「あれ?結局ぐるっと回っただけか?」

バックミラーを見るとBが起き上がっていた。振り返って息が止まりそうになった。Bの頭は真っ白になっていた。この短時間で50歳くらい歳をとっている様だった。Bが口を開くと獣のような臭いがした。そのままBがAの首筋に噛み付くのを呆然と眺めていた。



 気がつくと俺たちは海岸線を車で走っていた。誰も何も言わなかった。何かを考えたり言おうとしても全てが曖昧になって言葉が出てこなかった。そして無言のまま永遠と真夜中の海岸線を走り続けた。




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