奇譚0005 わたしの完璧な親友

 彼女はわたしの親友だ。小学校の5年の時に同じクラスになって席も近かったし家も近いのですぐに仲良くなった。中学に上がってもその仲は変わらなかった。でも成長するにつれて見えてきたのは彼女が完璧だということだ。隣にいると眩しすぎるくらいに輝いている。勉強もスポーツもできて話は面白いし顔も綺麗だ。わたしはといえばブスだとは思わないがまぁ普通だ。勉強もスポーツもそれほど得意じゃない。これまでは彼女との差をそれほど気にしなかった。彼女が親しみやすいからというのもあるだろう。人柄も抜群にいいのだ。でも周りの特に男子たちの目が中学になってから明らかに変わった。彼女と一緒にいるとそれを痛いほど感じる。でもそれでわたしが彼女を嫌いになったりとか嫉妬したりとかは全くない。むしろ彼女の隣にいられることが誇らしい。恥ずかしいので言ったことはないけれどわたしはずっとおばあちゃんになっても彼女と一緒にいたいとか思ってる。学力レベルが全然違うのできっと高校からは違う学校になるだろうし大学とか就職とかも別々だろうけれどそれでも休みの日は一緒に遊んだりお互い結婚して子供とかできて子供同士も仲良くなったりしてみたいなことを夢想してる。もしかして子供同士が男の子と女の子とかだったら子供同士で付き合ったり結婚しちゃったりして!キャキャキャ!そしたらわたしと彼女は家族じゃん!とかとか妄想が止まらない。

とにかく彼女はわたしの完璧な親友だ。そしてその親友から大きな封筒を手渡される。

「恥ずかしいんだけどミーちゃんに最初に読んで欲しくて、わたしが描いた漫画なんだけど」と彼女は照れくさそうにわたしに渡してくれた。なんて可愛いんだろう!「漫画を描いてるなんて全然知らなかったよ」「初めて描いたんだ。ちょっと興味があって、よかったら感想聞かせてね」

わたしは家に帰ると早速読み始めた。それほど長い話ではないのですぐに読み終わった。読み終わった感想。クソつまんねー。話の展開も意味不明。絵も下手くそ。これはひどい。でももちろんそんなことは親友に言えないのでなんて言おうか考えた。まぁでも実際初めて描いたんだしまだ中学生なんだし絵も話も描いていけばきっと彼女なら上達するはずだ。まずはやってみることが大事なんだしそのチャレンジ精神はやっぱりすごいんじゃないかな?親友とはいえ誰かに自分の描いたものを見せるのはきっと勇気がいることだ。それにわたしは彼女の完璧ではない一面を見ることができてますます彼女が好きになった。やっぱりわたしの親友は最高だ!

 次の日に、妙に体が重たいしちょっと休みたい気もしたけど彼女に感想を言わなきゃというのもあって頑張って起きた。いつも通り一緒に登校しようと彼女の家に行ったが誰もいなかった。先に行ったのかな?でも教室に彼女の姿がなく今日は体調不良で休むということだった。心配になってメッセージを送ったが既読にならない。大丈夫かな。帰りにも寄ってみたがインターフォンを押しても誰も出ない。メッセージも何度か送ったが既読にならない。次の日も彼女は学校へ来なかった。

「あんたあれはさすがにやりすぎじゃない?」

とクラスメイトの一人が言った。「え?何のこと?」「はぁ?何言ってんの?これよこれ」

そう言って見せてきたのはスマホの画面だった。そこにはわたしのSNSのアカウントページが表示されている。そこには彼女の漫画の画像と作品についての感想がめちゃクソに書かれていた。果ては彼女の人格を完全に否定するようなことまで書いてある。

「何これ?何これ!?私こんなの書いてない!」

大体わたしは普段そんなにSNSなんてやってないし見てもいないのだ。彼女に勧められて登録しただけなのだ。どういうことなんだろう?誰かがわたしのアカウントを乗っ取ったのか?でも漫画の画像も載ってるし、このことはわたしと彼女しか知らないんじゃないだろうか?

SNSにアップされた時間を見ると深夜2時45分だった。その時間はわたしは眠っている。夜中に誰かがわたしの部屋に侵入してわたしのスマホで勝手にSNSにアップしてるのか?そう考えるとわたしは吐き気が込み上げて急いでトイレに駆け込んだ。どうしようどうしよう。彼女はこれを見たんだろうか?とにかくこれはわたしが書いたんじゃないことを伝えないと。

帰りに彼女の家に寄ると彼女のお母さんが出てきた。「あら、ミーちゃん。久しぶりね」そういうおばさんの顔は妙にやつれている様に見える。「あのユキちゃん大丈夫ですか?」

「ユキはちょっと体調が悪くてね、ごめんなさい」「会うことはできないですか?」

「ごめんね、今日はちょっとダメみたいだからね。また今度ね」

 眠る時間になってもなかなか寝付けない。いろんなことが頭の中でぐるぐる回っている。眠る前に戸締りもチェックしてお母さんとお父さんにも最近物騒らしいからと適当なことを言って戸締りをしっかりしてもらうように釘をさす。SNSのことは言わなかった。念の為、SNSは退会してアプリも消してスマホも暗証番号を変えてベッドの下に隠した。誰かが眠ってる間に入って来てスマホでSNSアップするだけなんて本当にあり得るんだろうか?一応部屋の中にある物を調べたけど何も盗られてはいない様だった。でもやっぱり怖いので電気はつけたままにしてベッドに入った。布団をかぶっていたらそのうちうつらうつらして眠れそうだったけれど、気配を感じて目を開けた。いつの間にか部屋の電気が消えている。お母さんとかが消したのか?そう思っていると誰かがいる。息が止まる。影だけが見える。「なんで?」と影が言うその声はユキちゃんだ。わたしは上手く言葉が出てこない。呼吸が上手くできない。「なんで?」と言いながら影が近づくと暗闇の中で顔だけが浮かぶ。それはユキちゃんの顔だけれど何かがおかしい。歪んでいる。わたしはそれを見て気絶してしまう。

朝、お母さんに起こされた。

「早く起きなさい!遅刻するわよ!」

昨日のことは何だったの?夢でもみたの?やけに体が重たい。今日は休みたいと言うと「さっきユキちゃんが迎えに来てたわよ?なんか渡すものがあるって?」「ユキちゃんが?どんな様子だった?」「様子?別にいつも通り元気な感じだったけど、あんた起きる雰囲気ないから先に学校行ってもらったわよ!早くご飯食べちゃってよ!」

スマホを見たが前のメッセージは既読になっていない。もしかしてユキちゃんはスマホを失くしたか、もしくは壊れたかしてメッセージもSNSの記事も見ていないんじゃないだろうか?ユキちゃんは本当に体調が悪くて休んでいただけなんじゃないか?その楽観的な考えに全体重を乗せて学校へ向かった。この考えこそが答えなんじゃない?

人は信じたい事を信じるらしいけれど信じる者は救われるとも言うじゃん!

教室に入ったがユキちゃんの姿がない。どうしたんだろう?わたしは反射的にスマホを見て手が止まる。消したはずのSNSのアプリが入っている。どういうこと?なんで?アプリを開く。そこにはユキちゃんの写真が大量にアップされている。自宅の住所だとかの個人情報とこの子がいかにひどい人間かこいつを拉致して無茶苦茶に壊してほしいなど本当にとんでもない内容が大量に書いてある。フォロワーなんて全然いないのに1000いいねくらいついている。上手く呼吸ができない。担任教師が入ってくる。普段は割とふざけているのに今日はやけに神妙な顔をしている教師が口を開く。「昨夜アイザワユキが亡くなった」それ以降の言葉は聞こえてこなかった。

ユキちゃんが死んだ?え?昨夜?朝私の家に迎えに来たんだよ?そんな死んだわけないでしょ?意味がわからない。何言ってんだこのアホ担任は?わたしは口が閉じられず目や鼻や口からだらだらと水分が垂れ流されていた。止めることができない。

「あんたよくやったね」とクラスメイトが言った。「あの子は死んだ方がいい」「あんたその顔何?ちょーうけるw」「きったねー」「何泣いてんの?あんたが殺したんだよ?今更後悔?」「あんたもアホすぎる!あはははは」クラス中で笑いが起こった。何なの?何で?何がおかしいの?そう思ってクラスメイトの顔を見るとそれはみんなわたしの顔だった。顔の表情筋がプルプルと動いて歪んでいるが間違いなくわたしの顔だ。

わたしは叫ぼうとしたが声が出ない。教室を飛び出した。とにかく探さないと!そうだ!そうだよ!ユキちゃんを探すんだ!わたしの完璧な親友が死ぬはずないんだ!わたしは信じたいものを信じる!わたしはわたしの親友を信じてる!そうすれば救われる!それなのにわたしはトイレに逃げ込んだ。なんで逃げてんの?探さなきゃ。なんで?わたしは洗面台の鏡に映る顔を見た。それは昨夜見た顔だ。歪んだユキちゃんの顔だ。

「なんで?なんで?なんで!!!!!!」

わたしは叫び眼球が溢れそうなほど大きく目を見開きながら気絶する。そうかわたしはユキちゃんになったんだ。そうかこれでずっとわたしは親友と一緒にいられるんだと気を失いながら思った。




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