奇譚0002 エレベーター
同じマンションに住んでいて小学校のクラスも同じ奴ら3人でよく遊んでいた。
10階にあるケンの家でゲームしようということになってエレベーターに乗るとユウキが10階ゲームしようぜと言って5階のボタンを押した。
10階ゲームとは最近俺らの中で流行ってるエレベーターの階ボタンをそれぞれ押して10階を最後に押したやつが負けというものだ。
最初の人は5階のボタンを押す。次の人は5階に着く前に押さなければいけない。もうすでに着いた階のボタンは押せない。マルバツゲームみたいな感じもあるけれどエレベーターの上昇するタイミングを見ながらどの階のボタンを押すかという駆け引きによってゲームの勝敗は左右される。「今日はちょっとルール変えようぜ」とケンが言いながら1階のボタンを押した。もう着いてる下の階のボタンも押して良いというルールだった。
それだとどうなるんだろう?わからないけど面白そうだったのでやってみることにした。
最初にユウキが5階を押した。2階に来たあたりでケンが1階を押して3階に来たあたりでぼくが4階を押して4階に到着してユウキが3階を押す。5階まで来たらケンが4階を押す。そこからは下の階しか押されていないのでエレベーターは下へ降りていく。4階に着く前にぼくは9階を押して3階でユウキが8階、2階でケンが7階、1階でぼくが6階を押す。ここまできてこれだとずっと勝負がつかないしオヤツが食べたいぞという空気が流れてユウキが「ここからは1人2回以上押すルールな」と言って2階に着いた段階で543と押して「んだよ!ずりーよ」と言いながらケンが1階と10階のボタンを押して扉が閉まった。閉まる瞬間にエレベーターの外を見ると自分たち3人の姿が見えた。なぜかこちらをみて笑っている様に見えた。あれ?でもエレベーターの外に鏡なんてあったっけ?動き出したところでエレベーターがガタンと大きく揺れた。え?と思っているとエレベーターが止まった。
「え?なに?壊れた?」
「俺らのせいか?」
「そんなわけないっしょ」
「ボタン押しただけだし」
「地震?」
「そんな感じでもなかったけど」
階数表示は81になっていた。81階なんてないからこれはやっぱり故障だろう。しばらく待ってみたが動く気配はない。
「べー、怒られる」
「だーから俺らのせいじゃないって!」
「でもどうするよ?このまま動かなかったら?」
「しゃーない。これで助け呼ぶしかないか」そう言ってケンが電話の受話器のマークがついた「ひじょう」と書かれたボタンを押した。おお!躊躇なくそのボタンを押せるケンがちょっとすごいとおもった。
「すいません、誰かいますか?」
「あじゃきらいけろどそばしけ」と意味のわからない言葉で誰かがつぶやていた。おばあさんの様でもおじいさんの様でもあった。突然明かりが消えて何も見えなくなった。エレベーターが動き出す。「わぁぁぁ!」怖すぎて思わずしゃがんだ。
気がつくとエレベーターの電気がついて扉が開いていた。二人の姿がない。10階だった。先に降りたのか?ケンの家がある部屋に行ってみた。表札がついていない。インターフォンを押しても誰も出てこない。ユウキの家がある5階に行ってみた。怖いので階段で行った。同じ様に誰もいない。急いで自分の家がある1階に降りた。扉を開けると「あら、おかえり」とお母さんがいつも通り夕飯の支度をしているのを見て泣きそうになった。
「お母さん!ケンとユウキがいなくなっちゃったんだよ!」
「ん?誰のこと?」
「え?ケンとユウキだよ?同じマンションに昔から住んでるし何回もうちに来てるじゃん?」
「さぁ、覚えがないけど、それより買い忘れた物があるからちょっと留守番しててね?」そう言ってお母さんは出て行った。
ぐらぐらと地面が揺れている様な感じだ。気分が悪くなって洗面台にいく。鏡を見ると自分の顔が自分じゃない様な気がした。なぜか鏡の中の顔は笑っていた。
了
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