奇譚領域
アシッドジャム
奇譚0001 梅雨
梅雨明けしたはずなのに雨が降っていると思ったら夢の中だった。家の中に娘も妻の姿も見えない。まぁ夢の中だからか。ここが夢だと気がついてもなんでも出来るわけじゃなくて実際どうすることもできない。きっと常識とか物理法則とかに縛られてるから何でも出来るはずなのに自然とストッパーがかかっちゃうんだな。と思いながら外を見ると女が立っている。傘をさしていないのでずぶ濡れになっている。俺は傘を持って外に出て傘をさしてあげると女は微笑んだ。タイとかそっち系の顔立ちだ。実際日本語ではない言葉を女は喋った。どこの言葉なのかもわからないのに何故か言っていることがわかった。「久しぶりね」と女は言った。「そうだっけ?」と俺が言うと女はまた微笑んだ。それから俺たちは自然と家の中に入って一緒に生活を始めた。女の名前もどこから来たのかも何も知らないまま40年が経ち子供も産まれてその子も成人して家を出てまた女と二人になった。その40年の間ずっと雨は降り続けていた。ある夜、隣で眠っているはずの女の姿がなかった。女がいたベッドはぐしょぐしょに濡れていた。外は雨が止んでいた。いつまで経っても女は帰ってこなかった。テレビでは雨が止まない国のニュースが流れていた。俺はそこに女がいると直感で理解して適当に身支度をして飛行機に乗ってその国へ行き雨の中を探し回ったが見つけることが出来ずに疲れ果ててホテルのベッドの上に倒れ込んで深く眠った。身体をゆすられて起きると目の前には妻と娘がいた。「ずいぶん熟睡してたみたいだけど飛行機で疲れちゃった?」そこはタイのホテルだった。俺は家族旅行に来てホテルのベッドでやたら長い夢を見ていたらしい。外ではやはり雨が降っていた。ホテルの窓から外を見ると女が傘もささずに立っている。
了
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