第7話 赤ちゃん誕生、そして未来へ

「ねえ、赤ちゃんが今動いている。おなか触ってみて」


「でしょ。日中も良く動くのよ」


「もうすぐ予定日だから、連絡したらすぐに来れるようにしておいてね」


「パパが来た方がいいよねえ、私の赤ちゃん!」


「おなか、やさしくなでて」


「耳をお腹につけてもいいかって? いいよ。でもそれじゃ赤ちゃんの鼓動は聞こえないと思うよ」


「あん、パパの耳、冷たいよ」


「どう? 何か聞こえる?」


「でしょ。さすがに耳じゃ聞こえないよ」


(赤ちゃんが蹴る)

「ははは、耳がじゃまだって、赤ちゃんがけっとばしたね」


「可愛い子が生まれますように」



 ◇ ◇ ◇



//SE 赤ちゃんの泣き声が2回ほど


「女の子で良かったね」


「私達の子だよ」


「そう、可愛い顔だよね」


「ちがうよ。どう見ても私に似てるでしょ」


「はは、その言い方、私が無理やり納得させたみたいじゃない」


「ありがとうね。こんな可愛い子、産ませてくれて」


「ううん、こんな幸せな事は無いよ。あなたにまた会えて、子供までできて」


「この日々は絶対忘れない。あなたの優しさも、ぬくもりも」



 ◇ ◇ ◇



「今日、女神に会って来た。2回目」


「そう、あの秘密の場所。この首飾りが鍵なの。女神には1年に3度しか会えない」


「私、あと1か月で前の世界に帰らないといけないでしょ」


「もう1年経っちゃうのよ」


「どうにかならないかってまた女神に聞いたの。子供も無事生まれたから」


「そしたらね、子供は連れて行けるけど、やっぱりあなたは連れて行けないんだって」


「うん、ごめん。やっぱり前の世界で死んでしまった人は原則、戻れないんだって」


「仕方なくないよ。あなただって元は私と同じエーデルワイスに住んでいた人間なんだから。不公平だわ」


「……あなたがそばにいて欲しい」


「せっかく、せっかく子供もできたのに……」


「なぐさめてくれてありがとう。でも笑顔を作る事なんてできない」


(すすり泣く声)

「うっ うっ 離れたくない……」


「うっ ありがとう」


「どうしてそんなに優しい目で見つめてくれるの?」


「いつかその日が来ることは覚悟していたつもりだけど」


「耐えられない。やっぱりまだあなたが必要」


「抱いて。そしてキスして」


「あなたの事は忘れない。絶対に」


「永遠に……」 



 ◇ ◇ ◇



「え、私と一緒に女神のところに行きたいですって?」


「ええ、確かに。もう一度会う事はできるけど……」


「私を通じてなら、あなたも女神と話すこともできるわ」


「でも、どうすることもできないって……」


「ええ、わかった。あなたがそこまで言うなら…… 私もあなたと一緒にいたいのは同じ思いだから」


「一緒に行きましょう」


//BGM 


「ここよ。私の隣に座って」


「もうすぐ女神が現れるわ。会話は私しかできないから、私を通じて話してね」


「あなたは女神の声を聞くこともできないから」


「来たわ、見えるでしょ。目の前」


「いい? 話すね」


「女神様、最後のお願いに上がりました。今日は私達の切なる願いを聞いて欲しいんです」


「もうすぐ私は子供と元の世界、200年前のエーデルワイス村に戻りますが、どうしても彼とも一緒にいたいんです」


「ええ、わかっています。彼は普通なら直接戻れないんですよね」


「何か別の方法はありませんか?」


「そんな、困った顔なさらないでください」


「ほら、例えば人助けをすれば望みをかなえてくれるとか……」


「え、未来?」


「どういうことですか? 未来に行って何をするんですか? エーデルワイスは過去のヨーロッパですよ」


「戦争? 未来のですか?」


「そんな……」


(夫に向かって)

「あ、あの、女神が言うには100年後の戦争で重要な空中戦があって、そこで敵機を撃ち落として勝利すれば、あなたをエーデルワイスに転生させてくれるって」


「そうだよね。無理だよね」


「あの、女神様、彼は飛行機の操縦とかのスキルが無いので難しいと思いますが」


「え? アンドロイド? はい。 はい。 あ、そうなんですか」


(再び夫に向かって)

「なんか、アンドロイドがサポートしてくれるから大丈夫だって。私に似ているらしいよ」


「やってみる?」


「そうね。それしかチャンスが無いもんね」


「じゃあ、私はエーデルワイスに先に行って赤ちゃんと待っている。絶対チャンスをものにしてね」

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