第04話 安土周辺


 昔、剣戟音から始まる白虎に乗る少女が印象的なOPの作品があった。

アイヌ文化とファンタジー要素が印象的な良作で、描写される世界観に胸が躍った。


 その後10数年を経て発表された『黄金の神』によるアイヌ文化の描写には劣るものの、その後発表された『秦王国』や『偽りの仮面』、『逃げる若君』『絶対魔獣戦線』等の歴史・風俗感に特徴がある作品に受け継がれていると思う。


 それはそれぞれの作品における世界観の構築であり、リアリティラインを上げるための要素として用いられた「こんなかんじなのか……」と見る者に感じさせる疑似的共通認識のはずだ。


 なにが言いたいのかと言うとそれらの作品はあくまでフィクションであることを視聴者が理解し、納得した上で楽しんでいたということだ。



  歴史とは記され、うたわれるから存在するのだ。


  なんの痕跡もなければ存在しないのと同じだ。



】というのはどうやら本当のようだ。


………………………………

……………………

…………


「そろそろ目的地、安土城周辺です」


 ブレザー姿に警備の誰何すらなかった…ってカーナビか!


「どうなってるんだ?」


 声を潜めて天狗に問いただす。


「今の小田さまは、清州三奉行の一つ藤左衛門家の分家筋で右大将の小姓ということになっています」


 【清州三奉行】とは、尾張守護代(室町幕府草創期の重鎮で三管領家の【斯波・武衛家】家臣)の一つ清洲織田氏(大和守家)の配下の三家のことで、岩倉織田氏(伊勢守家)を含む全てが織田性を名乗っている。


 信長の生家も【清州三奉行】の一つ勝幡織田氏(弾正忠家)の出身であり、同じ【清州三奉行】の一つである藤左衛門家とは比較的関係が良かったと記憶している。


 ……とは言ってもこれもネット辞書の知識のため、弥助問題のように長い年月をかけて出典元から書き換えられていれば、間違った知識しか得られない。


 なるほどこうやって不確実で曖昧な事実が積み重なって、歴史改変に繋がるのかもしれない。



 閑話休題。



 それよりも小姓ってのが不味い!

秘書とボディーガードが昼の仕事とすれば、夜の仕事が衆道つまり男性武士同士の性愛の相手をすることになる。


 僕にそのケはないし、挿入るのも挿入られるのも嫌だ。

 ただでさえ切れ痔なんだ。

 これ以上ケツに負担をかけさせないでくれ……



 古代ローマの罵倒に『挿入するのはいいけど、挿入されるのは女々しい』というのがあったらしい。

LGBTQIA+的にどうなのかはコメントを控える。




 十四世紀頃までは、戦場にも女子をつれて行った。

便女びんじょ』と呼ばれる武将の側で身の回りの世話(性行為もその中に含まれる)をする侍女が存在していた。


 『便女びんじょ』と言っても性的な意味はない。

「便利な女」あるいは「美女」が語源とされる。

音に漢字を当ただけで、女性蔑視ではないことを強調したい。



 女傑の代名詞【巴板額ともえはんがく】として知られる『巴御前ともえごぜん』や『板額御前はんがくごぜん』が『便女びんじょ』としては有名で、「逃げ若」だとメイドさん程度に濁されている。少年漫画だから多少はね。


 無論、衆道(機会的同性愛)文化も存在していたが、これをもって配慮していると言うのはどうなのだろうか?

 性欲処理とコミュニケーションを兼ねているため、門外漢の僕が無理に当てはめるとすれば、古代ギリシアで最強と謳われたテーベの神聖隊などがそれに当てはまるだろう。


 常備軍で士気も高く、オマケに戦場を共にする恋人のために戦うのだから少数でも精鋭だったのは理解できる。


 テーベは少年愛で知られる大英雄【ヘラクレス】崇拝が盛んで、なおかつ彼の甥であり従者であり愛人だったイオラウスの墓所と言う、永遠の愛を誓いあう格好の場所が伝説の木下のように存在したことも影響しているのではないだろうか?


 コンピューター科学と人工知能父であるアラン・チューリングはホルモン注射の影響で、精神を病み死んだと言われているぐらいだから。

 まあどちらにせよ中近世の同性愛を精神病扱いするよりはマシだとは思う。




 閑話休題。



「いや僕、織田じゃなくて小田なんだけど……いいのか? 歴史を修正する側が歴史を破壊して……」


「織田と尾田をローマ字で書くと共に『Oda』となるからと言って勘違いする奴らですから、そこに小田を一つまみ入れたところで彼奴らのガバが一つ増えるだけです。それに……ここは特異点ですから問題は薄いのです」


 特異点……つまり僕は特別と言うことだろうか。

 そう言う割れるとなんだかワクワクする。

 しかし、一瞬『天国に至るための14の言葉』と昔読んだ作品内に出て来るオスマントルコ×織田家のキメラ地域『P.A.ODA』が脳裏を過ったのは秘密だ。


「だったらいいんだけど……」


「それと一つ細かいことですができるだけ信長と呼ばないようにしてください。ガバの修正は大変なので……この明治頃までは、名前は殆ど呼ばないのです。その代わりに官位や地位、仇名で呼ぶのです。例えば信長であれば、たいら 朝臣あそんみ 織田 上総介かずさのすけ 三郎 信長 となります」


「織田弾正忠だんじょうちゅう信長が本名だと思ってた……」


「かなり正確な理解ですが間違いです。

今申し上げたのは帝にご挨拶する際などに用いるものですので、織田上総介三郎信長が右大将が名乗って名前となります。なので上総介さま、三郎さま合わせて上総介三郎さま。面倒ならお館様や上様でも構いません」


「判ったよ……」


 一応僕は歴史を改変させないためにここに居るのだ。

 無用な混乱を産むべきではない。




 天狗の説明によると、苗字と氏と姓は現代では同一のものとされているが明治ごろまでは細かく分かれていたそうだ。

 そう言えば小学生の頃に、『八色やくさかばね』だのを習った記憶がある。


 『うじ』とは、血縁を中心としたコミュニティのことで、「源平藤橘げんぺいふじたちばな」が有名だ。


 『かばね』とは氏ごとに与えられる地位や役職で『八色やくさかばね』再度規定された。

 最上位の真人は皇族専用であり、事実上の最高位は朝臣だったため、自称・僭称含め朝臣が増え区別が付かなくなったことが苗字の発生に繋がったのだとか。



氏(本姓)姓 苗字 官職名 仮名(通称)諱(本名)

平   朝臣 織田 上総介 三郎  信長 



 そして最も面白かったのは官職名は僭称するものが多かったため、全然関係ない土地に関連する役職を名乗ったり与えられたりすることが良くあったそうだ。




 ぶっちゃけ実に面倒だ。

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