第03話 奇妙な日本②


 改めて辺りを見回すと山深く木々が鬱蒼としてる感じがする。


「景色が全然違うな、日本じゃない感じすらする。」


「恐らく小田さまが想像されているのは人の手が入った里山の風景なのでしょう。 

ところで日本がかなり改修されてることは御存知ですか?」


「知ってるよ。江戸の古地図検証番組が興味深かったな」


佃煮で有名な佃が島だったのは驚きだった。


「池沼や浅瀬を土砂で埋め立て平地にすることが、これからの三〇〇年で行われることなのです。」



 オランダには『世界は神が創ったが、オランダはオランダ人が造った。』なんて言葉があるらしいが、日本も負けてないのだ。




「本来、この時代の山林には人の手が入り小田さまの想像されたものに近くなっているはずでした。

しかし不埒者共が現在の地図を参考に作り出した強烈な共通幻想…ぷろもーしょんびでお…によって、ほら!」


 そう言って天狗が嫌そうに指さししたものは、伊勢神宮でしか見ないような巨木だった。


「……なあこの時代ってあんな巨木がぽんぽん生えてるのか?」


「もしそうなら城造りはもっと楽だったでしょうね。はあ~い」


 僕の質問にゲームっぽいエフェクトを残し空を移動する天狗。


「今はどのあたりなんだ?」


「現在いるのは関ケ原盆地の東北側でございます。

関ケ原の近くのランドマークとして語るべきは、国歌である君が代発祥の地である『さざれ石公園』を始め、古事記にも登場する『伊吹山』や日本の滝百選及び名水百選にも選ばれた『養老の滝』が有名ですが、観光していきますか?」


 物凄く素敵な提案だけれど、僕には時間がない。


「西へ東へ駆けずり回ることになるから、今回は諦めだな……」


「神仏の通力で時の流れを弄れますから、あきらめる必要はありませんよ?」


 科学的要因による環境汚染がされていない景色は是非見たいが、別の意味で汚染された日本を見るのはしのびないし、ぶっちゃけ個人的には早く帰りたい。


「残念だけど、今回は諦めることにするよ」


「そうですか……はぁ~い」


 本日二度目の垂れ耳。 本当にカワイイ。

 そう言えば前期のアニメに信長の血縁が居たなあ……。


 大河ドラマ『おんな城主直虎』で一気に有名になった井伊家の城の『彦根城』と、ゆるキャラのひこにゃんなんてものがいた事を思い出した。

 六角、京極、浅井の京都方面バリア三人衆も個人的には、忘れないで欲しいところだ。



「現代の舗道換算で10時間弱の道中となります。」


「じゅ、10時間……僕、運動とくいじゃないんだけど……」


「大丈夫ですよ。いざとなればわたしが天狗の術で運びます。

現在の青野原の現状をご覧いただきたいので足を進めましょう。」


 僕は天狗に促されるまま小一時間ほど山を歩き続けた。

 移動中にある程度の情報を天狗術で教えて貰った。

 これがあればテストも余裕なのに……


 開けた先には南北を山地に挟まれただだっ広い盆地があった。

三関の一つ、不破関が置かれていたことぐらいしか合戦以前のこの地の歴史は知らない。


 視力0.5の目を凝らして遠くを見て見ると、甲冑を着込んだ足軽が何人も居るのを発見した。

足軽は一般に戦国の世の半農半士の地侍や土豪以下の武士のことを言う。

 

 農民兵や傭兵、陣借りとの違いは従属関係で、太平の世となる江戸時代になり、初めて足軽は下級武士と認識されたのだ。



 つまり何がいいたいのかと言うと……


「合戦でもないのに武装した足軽がいるなんておかしいだろ!」

 つい声を荒げてしまった。


「全くもっておかしなことです」


 しかし明確におかしいと感じたのは、陣笠と呼ばれる鉄や革、貼り重ねた和紙で作られた被り物を被った足軽と思われる部隊を発見したことには留まらない。


 この時代国境警備隊もなければ、警察組織なども存在しない。

一般的に犯罪者は自警団が対応するはずである。



 それよりも一番おかしいのは……


「どうして関ケ原鉄砲隊って背旗に書いてあるんだよ! 

(教科書の)教えはどうなってるんだ教えは! 

そもそも18年後の『関所のある原っぱ』での戦いに由来する名前をこの時に使ってんじゃねぇぞクソったれが!」



有名な場所と歴史的事件の改変に思わず言葉が荒れてしまった。



「これが歴史の書き換えです。

先ほどの巨木や関ケ原鉄砲隊のように、合わなくなった辻褄を無理やり整合させるため、あり得ぬ物が表出するのです」



 誤った映像情報による多数の認知ほ歪みは本当に歴史を書き換えることが出来るようだ。


 なにそれ怖すぎるんですけど



「更に噴飯ものの改変がありますので、先に進みましょう」



 道中の山道にある石仏は逆袈裟で右手を上げ、凄くエスニックなお顔をしており、山で見た猿は尻尾が長い。

まぁ同じオナガザル科マカク属の猿ではあるが16世紀に外来種問題に直面するとは……



 まず見えて来たのは、まぁ確かに日本っぽくはあるよなって感じる岐阜の豪雪地白川郷にある茅葺屋根の合掌造り家屋の集落。


 ちなみに合掌造りの発祥は江戸時代中期以降。

つまり一〇〇年~二〇〇年ほど時代を先取りしている訳だ。


 電柱に始まりガードレールにトラロープ挙句の果てには軽トラックすら散見される! 春先に稲の収穫を行う集落だった。


「春先で稲刈りしながら豊作ってなんだよ! 二期作でもしてるのか!? 数百年後には地球温暖化で本土全域が亜熱帯になりそうだけどさ! それに喋ってる言語がミャンマーの言葉なんだけど! 『ごめん、同窓会には行けません。』ってか!!」


 感情に身を任せ喋っている間に、パパ活二毛作なんて言葉を思い出した。~パパ活でお金を稼ぎ、旬が過ぎた頃に性的被害で訴えるというもの~ そんなことは今はどうでもいい。



 閑話休題。



「城にもありますか楽しみにしていてください」


「まだあんのかよ……」


 一〇時間以上にも渡る移動に加え、ツッコミの連続に俺はほとほと疲れ果てていた。

歴史を書き換えた不埒者は悔い改めて……どうぞ。

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