第5話



『速報です。昨日午後5:00頃、静岡県第3副都心で大規模爆発により800名以上の死傷者が出ている模様です』

東京都心の高級タワーマンション27Fにある1室。外国籍の男に4ヶ月程前、1フロアごと買い占められていた。

「昨日だあ?報道遅えだろ…おい全っ然、間に合ってねえじゃねえか」

悠人は壁に寄り掛かり煙草の煙を吐き出しながら、文句を言った。

「てめえの副流煙のせいだっ、15で煙草吸うなよ、この害虫が」

悠人の目の前で椅子に座りパソコンを叩く男が、ヒステリックに声を上げる。

「うるせえ童貞。早くやれ。俺はいつ仕事すりゃ良いんだ?」

高速ブラインドタッチとマウスパッドを、かれこれ14時間は革命のエチュードを弾くショパンのように操っている男、ディオスはこしあんぱんを齧りながら喚いた。

「テメーだって童貞だろっ。そんな簡単に解るかよ、こんな短期間で俺じゃなきゃ70TFLOPS…スパコンレベルの浮動小数点演算が必要なんだぞっ。人間の記憶を素子と電気信号まで分解してから、重力波に向かうベクトルを割り出して阿頼耶識(あらやしき)を算出する…それからがオマエの出番だ」

悠人が煙草を吸い終わる頃、ディオスの手が止まった。

「どうした?」

訊ねる悠人にディオスは呟く。

「やべえな…出た」

「次の災厄天はどこだ?」

珍しく真顔の悠人へディオスは答えた。

「ロンドン、アントワープ、ニューヨークPM6:20、東京中央新都心PM8:03…同時多発だ。それに信号が普通じゃない。何だこれ?」

「…それ今日か?」

訊ねる悠人にディオスは囁いた。

「明日見る夢を予測できるか?そういう事なんだよ…」

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