第3話

「次長、QCCから連絡が来てます」

徹夜疲れの胃に、朝食であるサンドウィッチを詰め込んでいる最中の、嫌な相手からの電話。

「またか!」

競歩のような滑稽な足取りで深町警視監はズカズカと専用回線へ向かい受話器を取った。

「ええ…ええ…ええ…そうです。被害はまだメディアには出していません。無関係の事故として報道されると確認しています。死者は…こちらで現在600名前後が確認されています。え?アメリカ軍が支援に?」

先日、豊島区の記憶改ざん事件後に第3副都心で発生した大規模爆発が原因とされる犠牲者。関連性の無いものとして報道されるが、現場には目撃者が多数いた為、メディアには緻密な情報操作が要求される事になるだろう。国としては、その間に被害拡大を防ぐ事が最優先だが、QCCが既にアメリカ軍による協力を取りつけている以上、メディアにも限界がある。真実が白日の下に晒されるのは時間の問題だ。

「QCCって何でそんなに顔が利くんでしょうね?ただの研究機関でしょ?」

深町が話し終え受話器を置くとB94W61H86、自称モンローバディで部下の和泉が聞いてきた。

「まあ、外資系だからなあ…色々あるんだろ。娘の学校の母体だから悪く言えんよ」

「元気なんですか?優子ちゃん。12歳でしたっけ?」

「先月で13だな…寂しいよ」

2人のやりとりに、部下達がいる特別対策室内の、緊張感に支配された空気が緩む。

QCC。正式名称、量子コントロールセンター。セキュリティ上の観点という名目で、重力システムの他、PGE-Systemにより任意に人々から提供される、記憶情報の一元管理をする独占権に留まらず、兵器の研究開発、人材育成、付帯する諜報活動など多くの部門を抱える巨大組織だが、その中核について一般的には知られていない。

「600人か…ひでえなぁ」

天井を見上げ呟く、万年女日照りの遊び人である部下、田嶋を見て深町は朝食で出たゴミを処理しながら言った。

「いや、もう倍は出るだろう」

「倍⁉︎1200人すか…これ、人災ってハナシ本当なんすかね?」

田嶋の疑問を聞いた、周囲にいる部下達の視線が深町へ注がれている。深町は静かに応えた。

「…人災でも無ければ爆発でも無い。まだ詳しくは言えないが外には洩らすなよ」

静まり返る部下達を背に、深町は足早に室内を後にした。

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