第20話 違法栽培
定期テストが終わった。実力テストといった中間のテストで、前期試験としてもろに成績に響くのは七月にある。今の自分の実力を測るための前フリみたいなものだ。
ま、王子のお陰で高得点はとれた。まずまずの結果だ。
「シルヴィア、また風紀関係の仕事で僕が軽く出ていかなければならないんだ」
「そうなんですか」
「といっても、最後の最後に雑談をしに行くだけなんだけどさ」
「意味の分からないお仕事ですね」
最近は少しだけ不満だ。定期テストのための勉強を頑張っていたら、いつの間にか少しだけ距離ができた気がする。あれから一度も唇どころか頬にもどこにもキスしてもらっていない。期待させるだけさせておいて、酷すぎるだろ。
もう、オレ……末期だな。完全にこれはあれだ。恋というやつだ。
「実はさ……言っちゃいけないんだけど、学園でとある草がひっそりと違法栽培されていたんだ。生徒によって」
「……ここ、頭いい学生しかいないんじゃないんですか」
「うーん。資格のある人だけが栽培できるんだけど、使用自体も十六歳から可能なんだよね。そのへんで簡単に実も買えるんだ。違法性も低い。どこかから種を入手して、軽い気持ちで栽培しちゃったんだろうね」
うーむ?
「それならわざわざ育てなくても、買えばよかったのに……」
「ああ。ただ、貴族だと護衛がつくから買うのも恥ずかしかったのかもしれないな。若気の至りでといえばそれまでなんだけど……この学園で栽培者がいたとなるのはまずいんだよ。もみ消す方向に動くことにした。どこの誰が何人関わっているのか正確に割り出すのも大変だったんだけど、どうにかね」
「そ、そうなんですか……」
「まだ実もなっていないし、個人で楽しむつもりのようで販売しようという気もないようだ。見つからないように、よく似た植物に紛れ込ませるように育てていた。もみ消せる範囲内に留まっていてよかったよ」
恥ずかしいとか個人で楽しむって、どんな植物だよ。聞いていいのかは分からないな。知らない方がいいのかもしれないし、やめとくか。
「で、もみ消しに僕が関わっていると表に出るのは当然まずい。学園側がもみ消したことが出るのもまずい。学生にうっかり『捕まっちゃってさー』なんて雑談でもされたら、漏れるのも時間のうちだ。それなりの脅しをしてでも強く口外禁止にしないといけない。でも、大事にもしないでやりたい。表に出ると彼らの家にも影響が出る」
「うわー」
王子が悩んでいたのは、この件か。確かに、プールでの捕り物の話も翌朝には友人まで知っていた。強い口止めをしないと、すぐに外へと漏れそうだ。
「そんなわけで、完全に証拠隠滅をして風紀委員も学園も関係ないような形で裏側から脅して口外禁止も徹底することにしたんだ」
「裏側……」
「平たくいえば、ここに出入りする製造業者がたまたま見つけて、独自調査して一斉にとある場所に転移させてお仕置きをするというていだ。信じないかもしれないけど、建前はそんな感じだ。ついでに偽の記憶も埋め込む」
「偽の……記憶……」
こえーよ。
業者のふりをした奴らが「今回は黙っておいてやる」のような形でお仕置きするってことか。
「ベルナードしか使えない催眠魔法だ。栽培をする前に見つかってお仕置きをされた記憶に置き換える。実際に起きたことと似た記憶なら簡単には解けないんだが……何かのきっかけで解けることもある。だから、その場合に備えて実際の記憶を思い出しても口外できないようにしっかりと脅す。口にした瞬間に裏ルートで牢獄行きかと思わせるようなね。で、こっちに戻した時に僕が偶然通りかかる」
「な、なるほど……」
何も知らないふうを装いながらも、タイミングがよすぎて一枚噛んでいるはずだと思わせるわけか。
「で、シルヴィアも一緒に通りかかる?」
「え」
どーゆー意味だ?
一緒に通りかかった方がいいのか?
「えっと……」
なんでそんな試すような視線なんだ。
うーん……これは口外禁止事項。当事者として表に出れば出るほど、どんどんと後戻りできなくなっていく。愛を試されてるってやつか?
「隣にいるとしたら、オレのすべきことはなんですか」
「特にないな。でも、一緒に通りかかってくれるなら、そろそろ君にもしっかりとした護衛をつけたい」
「万が一逆恨みされた時に備えてです?」
「ああ。僕の弱点は君だからね」
そうだよな……。オレを人質にとられたら困るよな。
そうか。そういえば、前にも似たようなことを言っていた。護衛の必要性をオレに説くために、こんな話をしたのかな。
「護衛、今すぐでつけてもいいですよ」
「ありがとう。悪いな」
「バロン様こそいいんですか?」
「ん?」
色気たっぷりにくすりと笑ってみせる。
「外に漏れたら困ることまで私に言って――、もう私を離せませんよ? 野放しにしたらまずいですよね」
王子が嬉しそうに笑うからほっとした。最近……ほんとに何もないからな。
「そうだな、離れられない。離れることなんてもうできないよ、シルヴィア」
「そうですよ、バロン様。覚悟してくださいね」
「そんなものはとうの昔に済ませてある。……もう君のメイドは呼んでいいかな」
「はい。いつでも」
王子の息のかかった護衛メイドか。少し緊張するな。
王子がスタスタと鏡まで歩き、手を乗せた。
「ロダン、エーテルを呼んできて」
……もうどこかに待機させていたんだな。さっきの話をしてオレが受け入れることを前提に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます