39話 初めてのライブ 4

 マオ先輩のセンター曲が始まる前に椅子が出てきた。その椅子にマオ先輩が座り、我とミツ先輩は右と左に立ち背中を合わせる。


「さあ聞いてくれ。『START Step』」


そして始まった。

 始まったというとこの曲だ。もう四曲目だからライブとしては全然始まりではないのだけれど。

 この曲は曲名通り一歩目を踏み出すための勇気が出るようにと歌うもの。自分ではそう思っているけれど、これを聞いても勇気が出ない人だっているかもしれない。それでも、少しでも勇気づけられたらなと思うのだ。


「ただそこに座り笑うだけ それは楽しくない」

「ただその場で口を閉じておくだけ それも楽しくない」

「ただ立ち止まり待つだけ そんなの楽しいわけない」


一人ずつに照明が当てられ歌ったあと、また雰囲気が変わる。

 まだマオ先輩は椅子に座ったままではあるが、我とミツ先輩は椅子から離れ少し前に立った。


「抗ってみようか 進みたいなら」

「手を引いてあげよう 歩く力は残っているだろう」

「さあ、いこうか」


二人で手を差し出すと、マオ先輩がその手をとり立ち上がって隣に並んだ。

 ここから最後になるのだ。


「「どこに行くかなんて決まっていないさ」」

「気ままに進むのもいいよね」

「「たとえ迷ってしまったとしても」」

「置いて行くことはしない」

「「光は見えているかい」」


「今、踏み出す時さ」


 ここからも続いていき、魔王様ワールド全開の中終わった。

 我も闇の雰囲気を纏いながら感情を入れて頑張ったので少し体力の限界は近いが、コメントを見ればそんなものはどこかに消えてゆく。


:魔王様かっけー!

:最初の椅子カッコ良すぎ!ずっる‼︎

:やみちゃんとミッツーが魔王様の右腕と左腕みたいな感じで良きでした

:どっかのボスみたいだったぞ

:魔王様だからな‼︎

:めっちゃ勇気づけられた!ありがとな‼︎

:一歩進んでみたらスパイシーに出会えましたありがとう


「色々な感想をどうもありがとう」

「誰かを勇気づけることができたなら、この曲で成し遂げたいことはできたね!」

「うむ。誰かのための歌を、と言ったのはマオ先輩じゃったからの。それに、一歩進んだことで我らに出会えたと言ってくれているのなら十分何かを成し遂げることはできたと思うぞい」

「そうだと嬉しいね」


 いつも冷静にしている先輩が輝くような笑顔を浮かべている。

 余程嬉しいと思ったのだろうか。いや、聞かなくても分かる。嬉しかったのだ。誰かを勇気づけられたことが。

 もちろん我だって嬉しい。嬉しいという言葉では足りない程に、感慨深い。


 カラーズの先輩たちの歌で勇気をもらった自分が、別の誰かの背中を押すことができているのだから。

 

「みんなで想い届けられて良かったね!」


ミツ先輩が私たち二人を抱き締めてくる。ニッコニコ笑顔で。


「ちょっと⁈抱きつくならマオ先輩だけにしてください!」

「えーやみっち……いや、あかっちも含めてスパイシーなんだよ?だったら二人とも大切なんだもん!」

「魔王様だって二人とも大切だ。もちろんあかもね」

「そ、そんなこと言ったら私だって二人とも大切に思ってるんですからね!」


:何見せられてんだろ俺ら

:さっきまでのしんみりはどこにいった?

:泣いてるよりはいいだろ

:それはそう

:わちゃわちゃしてる方がスパイシーっぽくて好き

:もうずっとわちゃわちゃしててくれ

:てかまたあかちゃん出てきたな

:あかちゃんも大事なんだよ‼︎


 わちゃわちゃしてる方がいい、か。私もそう思う。しんみりしてるのは似合わないからね。どれだけ暗い感じの歌を歌っても、しんみりすることはない。

 それが私たちだから。

 

「そうだ、言うのが遅れてしまったけれど実は次の曲が最後なんだ」

「ミニライブだからね」

「あっという間じゃったな」


:まじで⁈

:早いと思ったけどミニライブなら妥当な時間か

:結構時間経ってるしな

:MCもあるとそりゃ時間経つわ

:楽しかったぞー!


「こうやって皆に歌を届けることができて良かった。これからも魔王様たちについてきておくれ」

「みんなのおかげで元気に踊り切ることができたよ!これからもよろしくねー!」

「また想いを届けられるように頑張っていくので、よろしくなのじゃ」


みんなで挨拶をして、このライブの最後の曲に移る。

 また次に進めるようにと願いを込めて。


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