第一回 さいかわ葉月賞 テーマは「夏」

二丁目スナックさいかわ さいかわママ編１

註：初見の方はこちらから読んでいただくと世界観がわかるかもしれません。

https://kakuyomu.jp/works/16818093078231847322/episodes/16818093079534739785

　いらっしゃいませ～って、あら、お久しぶりじゃない。元気してた？　アタシ？　あたしはもうダメよ。夏バテ。バテバテバッテンばってん荒川って、知らないわよね。アタシだって知らない世代だもの。

　あーもうどうしてこんなに暑いのかしらねえ。アタシ暑がりだからエアコンの設定温度は１６度の強風がいいんだけど、「お客様が風邪を引いたらどうするの」ってオーナーから言われて、リモコン取り上げられちゃっているのよ。いやねぇ。エアハラよエアハラ。わかる？　エアコンハラスメント。寒いのは着込めばいいけど、熱いのは脱ぐしかないのよ。アタシはいつでもフルフロンタルおっけーなんだけど、お巡りさんが来たらアウトだからって。いやねえ。夏、もう夏は嫌いよ。いい思い出がないのよ。暑いだけで何もする気にならないのよ。コミケの暑さもうんざりなのよ。

　一昨年なんてさぁ、旅行で行った京都の祇園で、あまりの風の通らない暑さに気持ち悪くなって吐いちゃったわよぉ。祇園のお姉さんたちに「さいかわはん、吐き倒れですなあ」なんて言われながら、四条通を歩いて高瀬川そばのファミマまで一緒だったはずなのに、いつの間にか放置されたからね。近くの公園兼喫煙所でもうぐったりよ。あ、え？　早く座らせたらって？　あーごめんごめん。あたし夏になるとカッとなってしまって。あ、そうそう、今カウンターの端から声かけてきた小説読みながらお酒飲んでいる若い男の子、狐ちゃんっていうの。歳はアンタとおなじくらいかしらね。まあ、気にしないでいいから狐ちゃんのいう通り座ってね。あらやだ、もう６００字も使っちゃったわ。メタでごめんね。でもアタシがどれだけ夏が嫌いかわかってもらえたかしら？

　さて、アンタがここに来たということは察しがつくけど、まずは何を飲む？　え、暑いときは何がいいかって？　そうねえ。本当はシャンパーニュがいいんだけどねえ……ちょっと手頃なのがないのよ。この前ミレジメのやつを何本か買ってセラーに寝かせてたら、オーナーに「なんでこんな高いの買ってるのかしら？」って詰められちゃってね。ちょっと目がマジっぽかったんで、「すいません。オーナーってホラお若いから、筆記体読めないんじゃないかなぁなんて思って、黙って買っちゃいましたぁごめんなさーい」なんて言いながらクネクネしてみたら、「……今度から気をつけてね」なんて言って、お咎めなしになったのよ笑　オンナなんて、年齢とおっぱい褒めときゃなんとかなるのよ笑　ねえ狐ちゃん？　え？　自分に振るなって？　あんた沙樹ちゃんと下ネタばっか言っているじゃないの。なによぉ。こんな若い女の子がいるから紳士ぶってるのかしら。いやねえ若いオスは。

　え？　始める気ないでしょうって？　わかる？　そうなのよぉ。正直、まだアタシのオカマテンションに火がつかないのよ。暑さのせいかしらね。ホントにいやねぇ。エアコンのリモコンが隠されててこれ以上涼しくできないからテンションも上がらないのかしらね。今度家電量販店で汎用のリモコン買ってきてやろうかしら。業務用のエアコンだけどなんとかなるでしょう。

　もうそろそろ？　ああ、しょうがないわね。手頃な白でも開けましょうか。グラス価格でいいわよ。どうせこの後来るだろうスミヲちゃんが払ってくれるだろうから。何か好きなブドウの種類あるかしら？　お任せで？　うーんじゃあ、アタシの気分でカベルネソーヴィニヨン。でもミネラルがあまり感じないやつがいいわねぇ。

　――ということで、狐ちゃんも飲むでしょ？　おっけぇりょーかい。みんなで乾杯しましょうか。あ、でもちょっと待ってね。実はオーナーがいいおつまみを用意してくれてるのよ。ワインととても合うやつ。

　ハイ！　「マスカルポーネと生ハムのミニサンドイッチ」よ。ちゃんとオーナーが一口サイズにカットまでしておいてくれていたのよ。おそらくパンもチーズも生ハムも結構良いもの使っているわね、白ワインには最高だわね！

　あ、あとね。これは内緒だけど、「サラダも添えて出してね」って言われてるんだけど、ぶっちゃけ面倒くさいじゃな～い？（笑）　アタシそんな小器用なことできないから、パセリをどーんと添えといたわよ？　でものこのパセリ、露地栽培の新鮮な生パセリなの。……え？　何処産だって？　そりゃもう――

「「「店前のガードレール下！」」」

まさかのつづく！