参考作品の感想「夏とあたしと天花粉。/豆ははこ選者」

 豆ははこさんも参考作品を書いてくださいました。ありがとうございます。公募の方を頑張っておられるのに嬉しい限りです。

 

 豆ははこさんに「どういうテイストの感想が良いとか希望はありますか?」と伺ったのですが、ご希望の細目はあるのですが、大枠としては「ホメホメとボコボコの間」ということでした。ですので、感想プラス公募に出すとしたら、みたいな感じで書かせていただこうかと思います。


 まず感想なのですが、もうめちゃくちゃ面白かったです。しかもめちゃくちゃではなく、めちゃくちゃ面白かったです! 

 話の内容ももちろんなのですが、このテイストを豆ははこさんが書いたというのがまたジワるといいますか、「あ、こういうテイストやぶっちゃっけ感、豆ははこさんの中でアリなんだ」という新しい価値観を目の前にした感動のようなものまで覚えました。いやあ。後半はもう(・∀・)ニヤニヤが止まらず、だらしない顔で読んでましたよwww


 しかもですね。ラストがいつも以上に引き締まっていて、これまた良かったです。夏の蝉とおっぱいと天花粉(ベビーパウダー)を上手に使って話を通していましたね。あまり思わしくない(察せ)おっぱいの犀川には、巨乳の気持ちがわからないので少しだけ悲しい気持ちになりましたが、わかったことは豆ははこさんはななじゅうのえ(検閲削除)

 

 相手側もいい味出してましたね。まさか豆ははこさんの作品からこういう展開が来るとは思わなかったので、(これを書いている出稼ぎ先のクリーンルームで)ひとり大笑いしてしまいましたよ笑。気色悪いおばさんになってしまったではありませんか。Σ(゚Д゚)


 話は最初の方に戻りますけれど、冒頭部の電動蚊取り本体の話があまりにも冗長なのですが、これがまた結果的に良い意味で「巨乳ネタへの助走」になってまして、なんというかこの作風を上手く「創り出し」ているんですよね。正直最初は長いなぁと思っていたのですが、その長さでうまく読者を「あたし」の身の上に引き摺りこんでいるので、巨乳の話への接続がスムーズになったと思います。


 キャラクターですが、サバサバ系を通り越したガサガサ系な女性を書き出すのがうまいなあと思いました。おそらく上品な人柄がメインの作風の人が書く「ガサガサ」なんで、少しだけ非現実的な感じがする分、逆にリアルなんだと思います。わたしが書いたらふつうにになるだけですもの。

 あと、サマーダッシュの時や他の作品もそうですが、「人と人が出会うシーン」が非常に上手だなと思います。さほど突発的でもドラマチックでもないのにうまく特徴のある出会いを描いているんですよね。惣山さんもそうですが、「シチュエーションもの」を書けるというのは作家の大きな強みだと思います。わたしや大隅さんはどちらかというと「内容」メインで話を固めていくタイプなのですが、豆ははこさんや惣山さんはシチュエーションメインなような気がします。


 大変失礼な言い方ですが、予想をはるかに上回る面白さだったのでつい感想が長くなってしまいました。参考作品として立派な出来栄えですし、夏のテーマもうまく使えていると思います。わたしとしては文句なしの作品でした。参りました! と思ったくらいです。



 さてさて、「公募に出すとしたら」のアドバイスというか話になるのですが、正直わたしの中ではこれはこれで完結しているので、手を入れてもいいものやらと思いますが、「豆ははこさんを知らない人が読んだら」とう公募目線で見たらということを書いてみようかと思います。


 まずこれは本作以外にも豆ははこさんの作品にあるのですが、「(批判やツッコミを受けないようする)先回り文章が多い」という点です。


>これが春か秋だったら、もう会社かあ、とか思うのに。暑くない晴れか曇りか小雨の日だけだけどさ。


>今は汗腺につまるから避けたほうがいいという説もあるらしいけれど、


 こういうところ「丁寧な性格のキャラ」であればまだ良いのですが、今回みたいなキャラですと、読む側の気持ちがちょっと「とまってしまう」んですね。急に現実に戻されると言いますか。このあたりは丁寧さをアピールしたい場合以外、批判覚悟で「書かない」というもの一考されてみてはどうかと思います。結局、どんな予防線や常識的なカバーをしたとしても、ツッコむ人はツッコんでくるので、スパッと切り捨てて作品の世界感を大事にした方が良いかなとわたしは思います。キャラを書き分ける上でも「丁寧な人」「ガサツな人」では価値観も生活様式も違いますので一律に書いてしまうと書き分けができませんよね。キャラに凹凸をつける意味でも書ききってしまう、言いきってしまうというのは大事かなと。


>「逃がすな、その代わり直帰可!」

>すると、指示が返ってきた。これは、要約。至極丁寧な言葉遣いだった。


 こういうのも、チャンスを逃すまいという上司の気持ちや勢いを表すためにも、


「逃がすな、その代わり直帰可!」

 普段の上司からでは考えられないような、直截的な言葉が返ってきた。


 みたいにすると、この後に「二人はなにかデートみたいな感じになるんだろな」という読者の期待感がアップすると思います。これはまあ「演出」なのでどこまでも好みの話なのですが、全てを同じ語調で書くのではなく、そのキャラ、その状況に応じて乱暴に書くのもアリという意味です。「あたし」は結構ざっくばらんに書けている分、地の方でもバランスを求めたいという感じです。


 あと、わたしたちは「豆ははこ作品」になじみがあるので、むしろこの世界を楽しませてもらっていますが、公募であるのなら読点をもっとしぼってつけた方が良いと思います。特に今回みたいな一人称小説の場合は詩的表現よりもずんずんと文字を進ませた方が読者も立ち止まらずについてくると思います。語感とリズムを「しみじみ噛み締めさせる」から「どんどん先を読ませたくなる」風にした方が長い小説であればあるほど良いかと思います。テンポが遅すぎると読者の目線と気持ちが浮気しかねませんので。


 正直、枝葉な部分しか指摘するところがないくらい面白いので、書くのがちょっと憚られますが、序盤でもう少し「あたし」の外面や年齢などを描くと読者はイメージしやすいと思います。ほぼほぼおっぱいしか情報がありませんので、序盤であたしの輪郭を描いてもいいかなと思います。公募ですと描写不足や5W1H不足(そんな日本語があるかは置いておいて)はかなりマイナス要素ですので。

 あと、巨乳あるあるの「男性からだけでなく、女性からもジーと見られる」という表現も入れておくとよりリアリティが増すといいますか、「あたし」の迷惑がっている巨乳への一表現になると思います。いや、これはわたしが見られないからとか僻みから言っているわけではありませんからね!(;´∀`)


 焼肉屋での二人の会話はうまく下ネタをギリでかわしながらスムーズに会話ができていて、ここは非常にポイント高いと思います。


>高級店の二重硝子。蝉のあの鳴き声は、これも突き破るんだな。


>だいたい半分、それぞれの陣地。


 こういう表現、読者はすごくイメージできるのでいいですね! できれば序盤にこういうのを2、3か所あるとプロ作家っぽい感じがしますよ。


 全体的にチャレンジ精神と面白さが釣り合っている面白い作品でした。今までの豆ははこさん作品ファンから見るとびっくりしてしまうでしょうが、色々な作風を書けることは作家にとって強力なアドバンテージです。これからも色々模索しながら小説を書いていってくださいませ。

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