【08-3】事件の結末(3)

「ふん、まあいいや。

あんたどうせ、もうすぐ死ぬんだし。

確かに畑野先生を殺したのも、生田を殺したのも僕でえす」


赤松は巫山戯ふざけた調子で、あっさりと殺人を告白する。

もはや鏡堂を生かしておく気など、さらさらないのだろう。


しかし鏡堂は、心中怒りに燃えながらも、冷静さを崩すことなく問い質した。

「どんな理由で二人を殺したんだ?

単に性欲を満たすためか?」


「性欲?は?何言ってんの?

あ、でも、畑野先生の場合は当たってるか。


あれって10年前だよね。

富〇町のゲーセンの二階に、<占いの館>ってあるの知ってる?

日替わりで色んな占い師が来て占いやってるやつ。


偶々ゲーセンの帰りに、正行君と行って見ようってことになったんだよね。

そしたら綺麗なお姉さんの占い師がいて。


僕と正行君がその時、心の中で強く望んでたのは、学校の先生とやることだって言ったんだよね。

でも実際にやるのは凶だとか言ってたっけ。

だったら最初から言うなよって感じなんだけど。


それ聞いて僕も正行君も、すぐに畑野先生思い浮かべたんだよね。

二人して先生とやりてえってなって。

それであの晩、正行君に泊った時、やっちゃおうかってなったんだよね。


後は簡単。

生田もそうだけどさ。

先生もセキュリティ掛かってない安アパートに住んでたから。

ガラス切りで窓の錠の周りを切ったら、すぐに窓開けて入れちゃうんだよ。


でも僕がちょっと興奮し過ぎて、先生を絞め殺しちゃったんだよね。

気が付いたら、ネックレスもなくなってたし。


それで、どうしようってなって。

結局僕が全部燃やして、証拠隠滅したらいいじゃんて言ったら、正行君も賛成したんだよね。


後はあんたの知ってる通りさ。

家を出てないことにして、アリバイ作って終わり。


あんたらしつこかったけど、結局正行君のお爺さんには敵わなかったんだよね。

権力には勝てなくて、残念でした」


鏡堂は赤松の告白を、吐き気のする思いを噛みしめながら聞いていた。

「占い師に言われたから、あんな残酷なことをやったというのか?」


「あれ、刑事さん怒ってる。

そりゃあ悔しいよね。

僕らが犯人だって分かってたのに、捕まえられなかったんだもんね」

そう言って赤松は、勝ち誇ったように笑った。


「それで?生田さんは何故殺したんだ?

さっきの口振りだと、単なる性欲じゃなかったと言いたいようだが」

鏡堂は込み上げる怒りを抑え込みながら訊いた。


「生田?あいつはねえ、余計なこと知っちゃったんだよね」

「余計なこと?」


「あいつ経理だったでしょ。

それで見てはいけない裏帳簿を見ちゃったんだよね。

刀祢のミスで。

これ本当は、あんたに言っちゃいけないんだけどね」


そう言いながらも、赤松の饒舌は止まらない。

そのへきはおそらく、彼の心の闇から発しているのではないかと、鏡堂は思った。


「うちの会社で受注した公共工事を、河本の会社に下請けさせた後に、裏でキックバックさせた金を、正行君のお爺さんに闇で献金してたんだよ。


その前提として、お爺さんの力で、役所から競合入札なしで、うちの会社に高額発注させてね。

浮いた分を献金に回してたってわけ。


その裏帳簿を管理してたのが刀祢だったんだけど、間違って生田の眼に触れるフォルダに入れちゃったんだよね。

それを生田が見つけて、騒ぎ出したんだよ。

告発するとか言い出してね。


馬鹿じゃないのって思ったよ。

正直な話。

だって生田は会社に雇われてる訳でしょ?


それを、会社に迷惑かけてどうすんのよ。

こいつ、頭おかしいんじゃないかと思ったね」


「頭おかしいのはお前らだよ。

生田さんは何一つ間違ってない」


鏡堂が抑えきれずに怒りを吐き出すと、赤松はムキになって反論する。

「何偉そうなこと言ってんの?

自分たちだって、権力には逆らえないくせに」


「確かに俺には、権力を覆すような力はないがな。

権力に咬みつくぐらいのことは出来るぞ。

お前みたいな、ヘタレ野郎と違ってな」


「誰がヘタレなんだよ!」

赤松はその言葉に激高したが、鏡堂の刺すような視線を受けて、その後の言葉を続けられなかった。


「まあいいや。どうせこの後あんた殺すし」

暫く睨み合った後、赤松は鏡堂から目を逸らしながら、ぽつりと呟いた。


「ええと、どこまで話したっけ?

ああ、そうだ。

生田の馬鹿女が騒ぎ出したところまでだったね。


生田に詰め寄られてビビった刀祢が、正行君に泣きついたんだよね。

それで正行君が僕に相談してくれたんで、任せてって言ったんだよ。

彼には世話になってるしね。


あの晩、杉谷君と河本君を連れて生田のアパートに行ったんだよね。

手口は畑野先生の時と同じ。


三人で回して、その後僕が生田の首絞めて。

刀祢から、生田が裏帳簿のコピーを隠してるって聞いてたから、部屋ごと燃やして証拠隠滅して。

はい、お終いって感じかな」


「生田さんの死因は焼死だ。

分かるか?

お前が火を点けた後も、彼女はまだ生きてたんだぞ」

鏡堂の声は低く掠れていたが、それが逆に、彼の怒りの大きさを物語っていた。


しかし赤松には反省の色は見えない。

「あらま、そうだったの?

きっちり止め刺しとけばよかったね」


その言葉を聞いた鏡堂の体が、怒りで膨れ上がった。

手足を拘束したテープを、引きちぎらんばかりの勢いである。


その様子を見た赤松が、彼を嘲笑う。

「ははは。そんなことしてもそのテープは切れないよ。

無駄なことは止めるんだね。

そんなことより続きを聞きたいでしょ?」

そう言うと赤松は、あらぬ方向を向いて、憑かれたように話し始める。


「次は刀祢ね。

あいつ、よりによって警察に保護求めたんでしょ?

ロビーであんたたちと話してるのを、通りかかった正行君の秘書が聞いてたんだよね。


それであいつも始末しようということになったのさ。

担当はまたしても僕。


あいつ騙すの簡単だったよ。

正行君から直接身を隠すように言われて、ほいほい従ったんだよね。

あいつ、自分を狙ってるのは、生田の関係者だと信じ込んでたから。


それで僕が会社の社用車使って、あいつを誘い出して、ここに連れて来て、刺し殺しましたと。

ここに連れて来た後、足がつかないように、すぐに社用車は返したけどね。

僕が会社に戻って、ここに取って返すまで、刀祢の馬鹿はじっと待ってたんだよね。


ここの鍵と、トラックのキーは何かの時に使えるように、河本君から預かってたのが、随分役にたったよね。

今日だって、あんたをここで殺せるんだからさ」


そう言って笑う赤松の表情は、自分の言葉に酔っているように見えた。

そして既に冷静さを取り戻した鏡堂は、次の質問を投げ掛ける。


「杉谷と河本を殺したのは、お前じゃないんだな?」

それを聞いた赤松は、少し困惑した表情で考え込んだ。

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