16話 初めてのエルフの女の子、初めてのヒューマンの女の子


「シュレッケ、湯が沸いた。茶葉をよこせ。ポットはどこだ?」


 キャラが嬉々としている。私じゃなかったら見逃しちゃうね。

 その様子を初めて見るシュレッケは戸惑っていたけど大人しく戸棚から茶葉の缶を差し出す。ポットは洗い物を乾かすところに逆さまになって置かれていた。


「うむ♪」


 今朝飲んでたお茶が気になっていたらしい。缶の蓋を開けると鼻を近づけて大きく息を吸う。その後アレコレとシュレッケに聞いていた。

 まあ、アッチの事情はいい。こっちの事だ。


「あのー、お話、いいかな?」


 私に声を掛けられると彼女は肩を震わせる。しかし顔を上げるとコクンと頷いた。


「私はポエナ。さきほどは恐い思いをさせてごめんなさい。あなたに会えて舞い上がっちゃって」


 彼女はフルフルと首を振った。

「わ、私はサナ。こちらこそごめんなさい。初対面の人がいてビックリしちゃって。その、慣れてないの。同じ年ぐらいの人ってこれまでシュレッケしかいなかったの」


「そうなの?近くの村にここの人の家族がいるって聞いたけど」


 彼女はコクコクと頷く。

「うん……そこの人たち、ココまで来ないから。女の子って、見たの初めて。ヒューマンでいいんだよね?」


 その聞きなれない言葉に私は目をしばたかせる。

「ヒューマン?」


「ヒューマンじゃないの?」

 彼女はキョトンとした表情で小首を傾げる。


「ごめん、わかんない」


「ねぇーシュレッケ?この子たちってヒューマン?」

 サナは身体を捻って台所のシュレッケに身体を向ける。シュレッケは手を止めて振り返ると、頷いた。


「合ってる。オレ達と同じヒューマンだよ」

 答えるとまた調理に戻った。


「サナは違うの?」


 私の問いに、相変わらず不思議そうだった。

「私はエルフだよ。知ってて会いに来たんじゃないの?」


「ううん。知らない。ねえ、エルフって私たちと何が違うの?あ、やっぱり耳?耳なの?他のエルフも耳、長いのっ!?」

 私は好奇心に任せるままに興奮して質問する。


 サナは身体を捻ってもう一度台所のシュレッケに声を掛ける。

「ねぇーシュレッケ?この子ってば変じゃない?ヒューマンの女の子って、みんな変なの?」


 シュレッケは手を止めて振り返ると、迷惑そうな表情で頷いた。

「俺も他を知らないけど、たぶんソイツだけだ」


 横のキャラが手を止めて、シュレッケに向けて抗議する。

「お前たち、お嬢様は変でも素敵であろうが!」


 うん、私に味方はいなかった。


「あー、さっきのポエナさんの質問だけど。そうだね、私たちはみんな耳、長いよ。他には……ねえ?なんでエルフって知らなかったのに、私に会いたかったの?」


「え、この森にお姫様がいるって聞いて。あ、ポエナでいいから」


「ちょっと!?シュレッケ!?」

 勢いよく体を捩じるとシュレッケに向けて怒鳴る。


「言ったのオレじゃねーよ!ユシュフィナのヤツだよ!」


「だとしても!!」


「サナ、姫って言われれるのイヤなの?」


「えぇぇぇ、だって恥ずかしいじゃない。私、何でもない平民だよ?恐れ多いよ?本物のお姫様に平謝りだよ?」


 シュレッケの横でキャラがウンウンと頷いている。お前は隠す気あるのか?


「うーん、むしろ本物よりキレイでお姫様な見た目だと思うけど?」


 キャラが無言でウウン、ウウンと首を横に振る。私は無言で見なかった事にする。


「さすがにそんな事ないよ。って、ポエナは本物のお姫様見たことあったんだ?どうだった?って、そういえば名前も同じだもんね」


 うーん、どう答えたものか。

「どうって言われても、普通かな?よく街中を歩いてるのを見かけるよ。まあ、私もお姫様と同じ年の生まれだからね。もう、周りポエナだらけだよ」

 そう言って私は笑った。ま、珍しい名前じゃない。特に私と同じ年ぐらいなら。特に決まってる訳じゃないけど、王族に子供が生まれるとそれにあやかって同じ名前をつけるのは珍しい事じゃない。

 サナは心底羨ましそうにぼやく。


「いいなぁ、本物のお姫様見れて。王都、羨ましい」


「サナも来てみる?案内するよ」

 私は気軽に誘った。でもサナは悲しそうに首を振った。


「ううん、私は王都に行けないから」


「え、それってど」

 ドンっ!と、乱暴にテーブルに皿を置いた。


「メシ」


「あ、シュレッケ。ありがとう」


「本物の姫さんなんて見てもしょうがないさ。きっとつまらないヤツに違いないって」

「お「キャラ、お茶は?」……できてます」

 何か言いかけたキャラを遮ると、少しだけ冷静になれたようで、言いかけた言葉を引っ込めた。


「ねえ、シュレッケはこの国のお姫様、嫌いなの?」


 シュレッケは忌々しそうに言った。

「ああ、嫌いだ。王族はみんな嫌いだ」


「そうなんだ」

 私は平静な声で答えた。でも、そっか。シュレッケはこの国のお姫様のことが嫌いなのか。残念だなぁ。





…そっか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る