12話 君ッテバ、ダヨネ?


「それでコカトリスってどんな生き物なの?」


その私の質問にシュレッケは足を止める。


「ここにどんな生き物がいるか、ほんとに知らないんだな?」


「ええ。キャラはコカトリスって分かる?」


キャラは久しぶりに私から話を振られて嬉しそうに答える。


「いえ、よく知りません!」


「あ、そう」


「でも確か石化させるのだったか?」


とキャラはシュレッケに向けて問いかけた。おっと、キャラの方が詳しいだと?

しかしシュレッケは静かに首を横に振る。やーい、間違えてやんの。


「確かにそういう伝承は多いが、それはデマだ。

ただ、噛まれると毒で似たような症状になる。筋肉や皮膚が硬化して石みたいになるんだ」


「シュレッケは観た事あるの?」


「昔仲間が噛まれた。その時は患部が小さかったからその箇所だけ削り取った」


「薬とかないの?」


「ない。一応国の機関で研究は続けられてるらしいけど……必要なくなるかもしれないし」


「?どういうこと?」


「今コカトリスは7000羽いると言われていて、この森にはそのうち200羽生息してるんだ」


「へぇ、そんなにいるんだ……え、ちょっと待って、世界で?」


「そう、世界で。あ。あれがそうだ。ちょっと隠れて」


シュレッケが見つけたらしく、私たちは近くの藪に隠れる。


「この辺はコカトリスが多く住み着いてる。アレはフリーのオスだ」

そうシュレッケが小声で説明する。

「……大きなニワトリだ」

トサカがあり、クチバシがあり、翼があり、白い羽毛に包まれた二本足でこちらにゆっくり歩いてくる生き物。

ただ、大きい。視点の高さが私と同じくらいだ。毒がなくてもあの大きな嘴に突かれるのは勘弁して欲しい。

と、急に進路を変えたので横から体を確認する事ができた。

正面からは分からなかったけど、下半身は鱗で覆われていて太くて長いシッポが生えていた。


「……あれ、鳥なの?トカゲなの?」


「コカトリスだ。ちなみに牙もあるぞ?」


うん。だからどっちだ。なんてどっちつかずな生き物なんだ。私たちが隠れていると、やがてコカトリスはどこかに去って行った。

私たちは藪から姿を出る。地面には足跡が残っており、手を重ねると私の手の平より大きかった。


「鳥なのかな?トカゲなのかな?……食べたら分かるかな?」


「お前、保護官を前によくそんな事言えるな?」


「冗談だって。というか、シュレッケって冗談通じないよね?」


「言って善い冗談と悪い冗談があるだろ?ちなみに今向かってるのはコカトリスの巣。ヒナが観れるぞ?」






「ケェェェエエエエエエエエエ!!」


「あーーーー、うるさいっ!!」


シュレッケってなんか、クール振ろうとしてるけどいっつも叫んでるよなぁ。


草や枝が敷き詰められた巣の中にシュレッケが入ると、コカトリスの親鳥がけたたましく鳴き続けて羽をバタつかせた。その親鳥の様子にヒナも興奮して巣の中を走り回っている。でもその走り回るヒナはなんだか楽しそうだった。

シュレッケは今、黒い外套を身にまとい、分厚い手袋をしている。

それでも威嚇されてもシュレッケが突かれそうな様子はない。普通は逆そうなものだが、子育て中のコカトリスはナワバリに入ってきたコカトリスの方を警戒するらしく白より黒の方が安全らしい。

分厚い手袋は噛まれないようにするためだとか。でもそのせいでシュレッケは作業がし辛そうだった。

私たちがまたもや藪に隠れて観察している間シュレッケは、まず巣の中の食べかすやフンなどを掃除して。次にヒナを一匹一匹捕まえて巻き尺でサイズを測っていった。


「ポエナ!!」


突然、シュレッケが私の名前を呼んだ。そして手招きをする。


何故呼ばれたのか分からなかったが、藪から出てシュレッケの元に走る。キャラも呼ばれてないが付いてきた。


「なに?」


「手、出して」


私は素直に彼の前に手のひらを拡げると、そこにポンとコカトリスのヒナが置かれた。


「わぁ~~~」


フワフワモコモコの羽毛に覆われた黄色いヒナ。この頃はまだ手のひらサイズだった。

目をつぶってるそのヒナはとても温かった。


「こいつが一番大人しいヤツだから抱っこしても大丈夫だ」


「おい、危険ではないのか?毒は?」


キャラがシュレッケを睨む。


「ヒナに毒はない、大丈夫だ」


「そうか。ならば私も触らせて貰おう」


「あー、好きにしなよ?」


そう言ってシュレッケはまた巣に戻って行った。


「わーわー、可愛い。キャラ見て可愛いよ!」


「お嬢様、私も!私も!」


「はい」

私はゆっくりヒナを彼女の手の上に下ろす。


「おー、可愛いです」


キャラも手の上のヒナに感激していた。

よくヒナを観察すると、鱗は細かくシッポもヒョロヒョロだった。でもヒナの時期があるって事は鳥寄りなんだろうなぁ。


「そろそろ帰るぞ。そいつも返してやってくれ」


「あー」

と、キャラは名残惜しそうにしながらも大人しくヒナを地面に下ろした。地面に下りたヒナはスクっと立ち上がるとトコトコと巣に戻って行った。


「で、その手に持ってるのは何?」


「ん?卵」

戻ってきた彼の手には7,8個の卵があった。


「持ってきちゃっていいの?」


「いいんだ。これ、産まれないヤツだから。逆に置いとくと割れて不衛生になるんだよ」


「ふーん……それ、美味しいの?」


そこで初めて彼は私から視線を外した。

「あー、やっぱりそうなるよな。悪い、コレ、先約あるんだ」


「あ、そうなんだ。じゃあ」


「だから許可取るまでちょっと待っててくれないか?」


諦めようとしたらシュレッケはそんな事を言うのだった。


「ア」


「あ?」


「アハハハハハ」


そんな事を言うものだから、遂、声に出して笑ってしまった。


「あー、おかしかった」


「なんなんだよ、ったく」

一方私の訳の分からない反応にシュレッケは不機嫌だった。私は目の端に浮かんだ涙を拭う。


「ねえ、シュレッケ?あなたって、本当に真面目だよね?あんなにイヤそうだったのにさ、ちゃんと案内してくれて」


「何だよ?悪いかよ」


「ううん、逆だよ。イイヨって言いたかったの。ありがとう、嬉しかった。食べれなくても文句なんて言えないよ」



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