07話 教えて欲しいことだらけ
「で、お住まいは?」
「お、王都です……」
「へぇ?随分遠くから来たんだ。それで、お仕事は?」
「む、無職です」
「身分を証明できるもの、ありますか?」
「持って……ない、です」
彼はメモを取る手を止めて、鉛筆の後ろで頭をポリポリと掻く。
「まあ、仕方ないか。それで、ここに来た目的は?」
剣吞とした空気を醸し出している目の前の男の子に、私は気まず気に答える。
「その……観光、です」
その返事に、彼は微妙な顔になる。
少し離れたところではキャラも、同じようにおじさんから質問を受けていた。
こういうのを職務質問だというのだと、後に王都に戻ってから質屋の店主に私は教えて貰った。
それは森に入った直後だった。
突然、色んな方角から落ち葉の上を何かが駆けてくる音が聞こえてきた。
「姫様っ!」
キャラはいつでも抜けるようにベルトに差していたナイフの柄に手を掛けると、守るために私の前に出た。
足音が更に私たちに近づいてくる。
もう視界に入ってきそうな距離になった時、急に足音が止まった。
「女が二人?」
声のした方を向くと、木の後ろから男がゆっくりと現れた。
よく馴染んでいる革製の防具を身にまとった、中年の男だった。彼は持っていた剣を鞘に納めると両手を上げる。
「すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。警戒を解いてくれないか?」
キャラはまだ臨戦態勢のままだった。
「隠れている仲間も姿を現して貰おうか」
彼は周りに目配せすると軽く手で合図を送る。すると、他にも3人の男が現れた。
「もう一人いるだろ?」
そのキャラの問いに男はもう一度周りを見渡すと溜息を吐いた。
「シュレッケ!!」
すると、遅れて渋々といった様子でもう一人男の子が姿を現した。うん、全然私はわからなかった。5人もいたんだ。
「これでいいか?少し話がしたいんだ。近づいてもいいか?」
男が近寄る素振りを見せると、キャラのナイフを握る手に力が入った。
「近づくな。信用できない」
男は軽く肩を竦めると、半歩下がった。
私は見かねてキャラの服を引っ張る。
(キャラ、大丈夫よ。話を聞きましょう?)
(姫様。ですが)
(キャラ、気を張り過ぎ。私のために頑張ってくれてるんだろうけど、態度は紳士だしひとまず大丈夫だと思うの)
(そう、でしょうか?)
本当はそれ以外にも理由はあるのだけど。装備が整った大人の男4人相手にナイフ一本ではさすがに分が悪過ぎる。
でもまったく的外れな事を言ったつもりもない。素性は分からないが、物取りというわけでもないらしいし。様子見でも大丈夫だろう。
(ええ。でも、念のため私の事は名前かお嬢様って呼びましょうか)
(わかりました、お嬢様)
できれば呼び捨てが良かったけど、柔軟性に乏しいキャラだから、妥協しどころかな。
キャラはゆっくりとナイフから手を離した。
「話はついたかな?」
「ああ。いいだろう」
「よかった。あー、ちなみに個別に話をさせて貰っても良いかな?」
「なにっ!?」
離した手がまたすぐナイフを握った。
私はキャラの服を引っ張って諫める。
「キャラ、大丈夫だから」
「しかし」
私はキャラの前に出るとキャラにではなく、男にむかって話しかける。
「いいわ。でもその前に。あなたたちが何者か、うかがっても良いかしら?」
すると私の声に男は背筋を伸ばして畏まると丁寧な口調でこう答えた。
「これは失礼しました。我々は、この森の保護官を務めるものです。しばしご協力をお願いします」
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