05話 森での焚火は格別
「どう?煮えた?もういい?」
「もうちょっと待ちましょうよー?なんでそんな食いしん坊なんですか。お城でもっと美味しいもの食べてますよね?」
「違うでしょ?そうじゃないでしょ!?この雰囲気が代えがたいの!!」
私は鍋の中をじーっと覗き込み続ける。
ぐつぐつと煮立っているが、まだダメだとキャラは言う。でもさっきから美味しそうな匂いが止まらないのだ。
焚火の熱が私の顔の表面を熱し続ける。
「姫様、もっと離れてください。髪が焼けてしまいますよ?」
さすがに髪が焼けるのは嫌だったので大人しく焚火から距離を取る。
しかしすっかり煙りの匂いが私の服、肌、髪に移ってしまった。すっかり燻製のようになっている。
お城の人が近くにいたら、すぐに卒倒することだろう。
「まっだかな、まっだかなー♪」
そう歌いながら、スプーンで空の器を叩く。
「さすがにお行儀が悪過ぎますよ?」
「いいのよ。今だけだし、ココだけよ。誰も見てないじゃない」
「私がいますよ」
「キャラはいいのよ。キャラは」
「まったくもー」
と言いつつも、キャラも笑っていた。
「そろそろいいですね。器、貸してください」
とキャラが言うので器を渡す。キャラはアッツアツのそのスープを私の器に装う。
「熱いですよ?よく冷まして食べてくださいね」
「分かってるわよ」
と、返事をして器を受け取るとフーフーと念入りに吹き冷ました。
そしてスープと、大きな芋の固まりを口の中に放り込む。
「!!美味しいわ、キャラ!!」
「それはようございました」
と、キャラも微笑んだ。
結局草原を抜けたのは夕方ごろで、道に出る前に夜が更けそうだったので、森林の浅いところで野営する事にした。
スープを食べながら周囲を伺う。
この辺はまだ木々がまばらで、枝葉の間から空を伺う事が出来た。
闇の合間から覗く夜空には星が瞬いていて、案外と明るかった。
至る所で虫が鳴いており、時折、どこかの樹上で鳥も不思議な声で鳴いていた。
時折、馬たちも鳴いてたがだいたいは黙々と草を食んでいた。
「ねえ、キャラ?」
「ええ、姫様」
「夜の森は案外と賑やかなのね」
「今日、ココはそうですね。でもいつでもどこでもそうとは限りません」
「そうなの?」
「雪の日はとても静かですよ。静かすぎて耳鳴りがします」
「そうなの。それも見てみたいなぁ」
「さすがにそんな日はお連れできませんよ?」
と、キャラは苦笑いを浮かべた。
「この辺は安全なの?」
そう問われたキャラは少し考えた。
「さあ、どうでしょう。まだ王都から離れてないのでゴブリンはいないでしょうが、狼はいるかもしれません」
「え、大丈夫なの?」
「火は絶えず燃やしておきますし、私も番をしてますので問題ありません」
「こ、交代はいつ頃?」
「は?」
「交代よ!夜の番の!ずっと寝ずに一人で番はできないでしょ?」
するとキャラは大きな声で笑い出した。
「な、なによ!!」
彼女は目の端に浮かぶ涙を指先で払いながら答えた。
「アハハハい、いえ。ハハッ。そ、それでは交代の時間になりましたら起こしますので、その時はお願いしますね?」
「任せて頂戴!」
---------Side キャラ----------------
姫様が寝付かれたので、改めて毛布を掛け直す。
夏とはいえ、夜風で風邪でもひかれては大変だ。
毛布を掛け直すついでに、顔に掛かっていた髪を払う。するりと地面に流れていった。
初めての長旅に随分とお疲れだったのだろう、横になられたらすぐに寝てしまわれた。
眉根を寄せて、ややしかめっ面の寝顔なのが如何にも姫様らしい。
そういえば、と姫様の寝顔を見て思う。私が姫様に仕え始めたのは今の姫様ぐらいの頃か。
あの頃も今も変わらずのおてんば振りだが、いつ淑女らしくなることやら。
その日が待ち遠しいような、しばらくはまだいいような。
そう思うとすっかりこの姫様に私も毒されたようである。
結構、苦労したはずなのにな?料理を学んだり、洗濯を覚えたり、着付けを習ったり……。
色々な技術を身につけた。いや、ほんと私頑張ったと思う。
「んむぅ?」
「ふふ」
姫様の眉間の皺を指先で伸ばしながら、いつまで私は姫様の世話を焼けるのだろうかと残りの時間に想いを馳せるのだった。
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