03話 森にお店はないけれど


「ねー、キャラー。これ買っていい?」


「ダメです」


「キャラ、考える事を放棄してはいけませんよ?」


「姫様に言われたくありませんよ?

いいですか?旅に持っていくんですよ?せめて生ものではなく干したものにしてください」


「ちぇー、ちょっとぐらいいいじゃん」

しょうがなく私は棚にリンゴを戻す。

それを店員のお姉さんが口元を手で隠してくすくすと笑っていた。

私はそれをジト目で睨む。

「なによ?」

「いえ、余りに名残惜しそうで」

「だって本当に美味しそうだったのだもの」

「あら?それは光栄ですね」

「本当に美味しいかは、私は確かめられないのだけどね。ねえ、キャラ。じゃあ、何買うの?」

聞かれてキャラは、店先に並んだ商品に目を通す。

「そうですね……、店員さん、そこの豆を一袋頼む。その横にある芋は一かご分だ。そこに吊るしてある乾燥させた香草の束も一つ。あ、違う。右から二つ目ので頼む。あと……」

キャラはチラリとコチラを見た。

「……そこのドライフルーツを全種類、2つずつくれ」

店員のお姉さんは、口元を手で隠しながらクスクスと笑う。

キャラはそれをジト目で睨んだ。

「なんだ?」

「いえいえ、毎度~」

そう言って店員のお姉さんは手際よく食料を鞄に詰めていった。

最後に、ヒョイヒョイとリンゴを4つ鞄に入れた。

「あ」

「サービスです。早めに食べてくださいね」

そう言ってニコリと微笑む。

「おおー、ありがとうお姉さん!」

「え……」

私の横で何やらショックを受けたキャラが寂しそうに声を詰まらせた。


「ウソウソ。キャラもありがとう。あとでドライフルーツも一緒に食べようね」



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