02話 ドレスを質に入れてでも

カランッと、扉を開くとドアベルが鳴った。

「へい、いらっしゃ……なんだ、姫様か」


私の姿を確認すると質屋の店主は姿勢を崩した。なんだとー、私は客だぞー。


「私、客なんだけど?」

私が店に入るとその後ろからキャラもペコペコしながら入ってきた。

「キャラ様もいらっしゃい。客というがな、姫様?もう常連じゃねーか。

飲食店ならともかく質屋の常連なんて碌なヤツいねーんだよ。

で、今日もそのドレスかい?」

「ええ、お願いするわ。いつもの服はある?」

「あるよ。いつも通り奥で着替えてくれ」

私は店主から平民の服を受け取る。

「すいません、店主。私もまたよろしいだろうか?」

「ええ、キャラ様。いつもの服、ご用意してますよ」

店主はにこやかに服をキャラに渡す。

「態度が違ーう」

「くだけた態度で相手しろと文句言ったの、姫様だろうが」

「でもー」

「ほら、いいからさっさと着替えた着替えた。その恰好でいられると迷惑なんでね」

店主はそう言うと、シッシと追い払う仕草をした。


私は城のドレスから一般的な服に着替えると、店主の元に戻ってきた。

「むー」

「どうしたんだ、姫様?」

「ちょっと、丈短いかも」

どうも、シャツの袖やらズボンの丈が寸足らずな感じなのだ。

「おっと、まだ成長してたのか?まあ、今日はそれで我慢してくれ。次は新しい服を用意しとくから」

「えー、これ結構気に入ってたのに」

生地は良くないし、地味な色だった。でも色の組み合わせ方が結構面白かったんだよな。

「さすがに商品なんで丈を直すのは勘弁してくれ」

「むー、わかった」

「胸元は?」

「え?」

「胸元は?教えて貰わねーと服用意できないだろうが」

「……何ともない」

「わかった。まあ、なるべく可愛いのを探しとくよ」

「お願い」

「ああ。じゃあ、その服代を差し引いた代金だ」

「あ。今回はあそこの野営道具一式も持ってくから、その分も引いて」

「ん?どっか遠出するのか?」

「うん、ちょっと旅行してくる」

「……それ、城の連中知ってるのか?」

「いいえ、まだ知らない」

「ま、だろうな。黙って行く気か?」

「いいえ、あなたが伝えるのよ?」

すると店主はすごくイヤな顔をした。

「マジかー」

「お願いね」

と、私はコロコロと笑った。



父上が王様をしているマタミニシア王国は、周辺諸国の中ではダントツに大きい。

と、地理の先生が言っていた。確かに地図を見る限り大きかったけど、私は国の端から端まで行ってみた事がないのでイマイチ実感が湧かない。

それでも大国なのは間違いないようで、周辺諸国には気を配りながらも脅かされる事なく今日まで至っている。おかげで私が生まれてから戦争は起きてない。父の手腕によるものか、それとも周囲が優秀なのか。何にせよ血生臭いのは嫌いだから、私としては嬉しい限りだ。


平和でイイ。平和がイイ。


治安だって悪くない。子供が一人で出歩いてても安全だと思われてるし。私も、キャラが常に一緒とはいえ城から抜け出す事は案外お目こぼしして貰ってるしね。まあ、怒られはするのだけど。どちらかというとそれは勉強をサボった事に対してだしね。


「で、姫様。どちらまで?」

「言わないから。さすがにすぐ追手が掛かると困るし。ま、森かな」

「森?うーん、森……」

そう店主が悩み始めたあたりで、部屋の奥からキャラの声がした。

「すまない、店主!この服、洗濯して縮んでないか?」

店主は店の奥に向かって返事を返す。

「そんな事ありませんよ。どうなさいましたか?」

「なんだか胸元が苦しいのだが!」


……あの女、私より4つも年上の分際でまだ成長しているとか、私に対して不敬じゃね?

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