01話 書を捨て、森に行こう

疲れたー、と私は心の奥底から叫んだ。


「遠くに行きたい」


それにキャラが感情の籠らない声で答える。


「なりません」


「えー、いいじゃない?」

「なりません。1時間前にも同じことを仰いました。ほら、次の先生が御目見えになりますよ。教科書を開かれてください」

「はいはい」


私は本棚からこれからの授業で使う本を抜き取ると机の上に広げる。

次の先生は、確かウチの地理についてだっけ。

でもさ。正直思う訳よ。私別に勉強しなくてよくね?だって、どうせ周囲の頭のいい人たちがアレコレ良くやってくれるでしょ?

私はタダ、その結果に判を押すだけ。私、正直いなくても良いと思うんだよね。

「正直私頭良くないと思うんだよね?」

「左様ですか」

「正直私頭悪くても周りが頭良ければそれで良くない?」

「良くないですよ?はいはい、勉強しましょうね」

キャラは平然と言ってのける。ああ、このコったら、本当に私に対する敬意が足りない!

その時、ようやく私の私室の扉が開いた。

そして、ややくたびれた感じの初老に入りかかった私の先生は、私に対して敬しく挨拶をした。


「姫様、このたびもご機嫌麗しゅうございます。それでは、授業の続きをしましょうか」

「ええ、お願いしますわ?」

まあ、興味ないのでとっとと終わらせて欲しいのですけど。


「ミナモア大森林公園、ですか」

「ええ、そうです」


興味なかったのですが、今回の授業はそこそこ面白かったのです。

「我が国土にそのような場所があったのですね」

「ええ、姫様。他国とも吟味した結果、我が国土が一番適していたのです。

我が国の6%という膨大な面積を占める大森林、それがミナモア大森林公園です。

そこには、世界中のあらゆる稀少な生物が集められて保護されています。

これは、世界に誇れることなのです」

そう、先生はまるで自分の手柄のように語る。

「なるほど。……ところで先生は、どのようにこの森林に携わっているのですか?」

その私の質問に、先生はやや詰る。

「日々の運用の結果をまとめています」

「なるほど。それはそれで必要なお仕事ですね。今後も励まれてください」

すると、先生は少しだけ嬉しそうに表情を崩すと「勿体なきお言葉」と、私に大きく頭を頭を下げるのだった。


授業が終わり、


母上との夕餉も済ませ、


ココには、私とキャラだけ。


「私、頑張ってると思うの」


「ええ、姫様。姫様は頑張っておられてます。でももう少し頑張られてください」


「頑張るとね、疲れるのよ。疲れたって事は頑張ったって事よね。私ね、頑張ってたのよ。だから疲れたわ。だから、休もうと思うの」


するとキャラは困惑の表情を浮かべる。

「……ちょーっと、お待ちください。確かに姫様は頑張られてます。

ですが、予定より、ちょっと。……ちょっとちょっと、えーと、少なからずというには大幅に予定より引き離されてる感じでありまして?

その、つまりは、もっと頑張りましょうよ姫さま?」

それに私は力強く答える。

「いいえ!!これは決定事項!!休みを取るわ!!旅行よ!!行き先は……」


「ポエナ様!?」


「ミナモア大森林公園よ」



運命なんて陳腐な出来事は、所詮気まぐれの中に紛れて起こる事なのだと、少し大人になった先の私は振り返るのだけど。

たくさんの出来事が待ち構えてる私にはまだまだ全然分からない事だらけだった。

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