第147話 これが……宇宙の大悪魔!

 一夜明け、いよいよあの大悪魔とやらがここに突っ込んでくるみたい。

 朝日が眩しいんだけど、夕べ遅くに大雪が降った影響で地上は真っ白な雪に覆われている。

 その白い大地に朝日が反射して、より眩しさを強めているみたいだ。

 気温は氷点下、吐く息は白く、冷気は容赦なく体温を奪っていく。

 でも、それを上回る程、私達は熱気を放っている感じで寒さは感じないんだ。

 

 私達は広大な盆地を見渡せる場所で待機している。

 来るとしたらこのあたり、とはアルテミスさんの予測だ。

 12,000年前のメテオインパクトによる大クレーターが複数ある場所。

 その先に、トンネルの入り口がある。


 「見えてきたよ。あと1時間もすれば落ちてくるね。」

 「ここからだとまだ全然視認できないな。」

 「ま、大気圏に突入すれば見えるだろうよ。隕石みたいな感じでな。」

 「こんなに明るいのに、ですか?」

 「ああ、隕石ってのは流れ星と違ってな、すんげぇ明るく輝くんだぜ。」

 「近ければ音も衝撃波も凄い。あの小屋など吹っ飛ぶかもな。」

 「まぁ、そうなったらまた移設しますよ。イワセにはまだストックがあるそうですからね。」

 

 そんな話をしている内に時間は流れる。

 もうすぐ目視できるだろうという事で、私とシャルルは真の姿へと変化した。

 タカとヒロも本当の姿(と言っていた)に変わった。

 ルナ様もウリエル様もアズライール様もアルテミスさんも戦闘体形といっていたけど、それに変わった。

 ルシファー様に至っては、おじいちゃんの姿から、禍々しくもカッコいい強そうな妙齢の女の人になってた。

 これには少し驚いたけど


 「ムフ、カッコいいじゃろぅ?」


 とか言ってた。

 アフラさんもヌエさんもグリペンさんも、あのトンネル内で見た戦闘に特化した体に変化している。

 ナイナさんも大きな9本の尻尾を持つ狐に戻っていた。


 全員が、戦いに備えた完全な戦闘形態になった、という事よね。

 何もしなくても放たれている闘気は尋常じゃないような気がするね、コレ。


 「来るよ!」


 アルテミスさんが叫んだと同時、上空に一つの光が見えた。

 それからほんの数秒だった。

 地表付近でその光るモノは速度を落とし、ゆっくりと着地した。

 とはいえ、それまでの衝撃波が消える訳でもないので激しい音と暴風のようなものが吹き荒れた。


 「あ、あれが!」

 「けっこうでけぇな……」

 「金属の空飛ぶ船……」

 

 宇宙船、という乗り物だよね、アレ。

 キューキさん達が乗ってきたという船よりも少し小さいけど、あれが空どころか宇宙まで行ける乗り物なんだなぁと、少し感心してしまった。


 着地した宇宙船は、そこから動かない。

 アルテミスさんが言うには、船外の環境の分析を行っているんだろう、との事だ。

 それと、生命体の捜索、殺戮の準備とかも。


 「よし、近づいてみるか。」

 「そうですね。行きましょう。」

 「私達が先行します。」

 「俺達も姉ちゃん達と先行するよ。」


 私達は宇宙船に向かって歩き出した。

 距離にして1キロもない。

 と、20メートルくらいまで近づいた時に、宇宙船のドアらしきものが開いた。


 「「 !! 」」


 緊張と警戒とで、少し喉が渇く。

 ヴァイパーを握る手に汗がにじんできているのが分かる。


 「で、出てくるのかな?」

 「どんな相手なんだろう……」


 開いたドアらしき所から、1体の何かが出てきた。

 漆黒の甲冑?みたいなものを着込んだ、少し歪な人間に近い体。

 腕は4本?あるみたいで、脚部は昆虫の様な、それでいて強靭なバネをもっているかのような、変わった形だ。

 頭部は何かを被っているみたいで、その下にあるであろう本当の顔を見る事はできない。


 その何か、は外に出てきた所で、私達に気付いたみたいだ。


 「こ、これが大悪魔……」

 「ちょっと、形はアレだけど……」

 「なぁ、姉ちゃん、これって……」

 「これがそうなのか?」


 私達に気付いた、大悪魔であろう存在は。

 30秒ほど全く動かずにじっとこちらを見ている。

 何というか、驚いて固まっているみたいだ。


 と、少し、後ずさりを始めた。

 と思ったら、脱兎のごとく船内へと逃げ出した。

 そこにアルテミスさんが


 「逃げるつもりだ!逃がしちゃダメだ!」


 そう叫んだと同時、私とシャルル、タカとヒロはその1体を追いかけ船内へと突入する。

 何か焦っているような大悪魔らしき存在は、船内の通路を脇目も振らずに走って行き、一つの部屋みたいなところに逃げ込むとそのドアを固く閉じた。

 

 「逃げられた?」

 「というかこの船ごと逃げるつもりかも!」

 「よし!ぶっ壊そうぜ!」

 「だな!」


 何かが起動する音が聞こえた。

 閉じ込められるかも知れないので、タカとヒロが真っ先に入り口のドア付近を粉々に破壊しておいた。

 と、ルナ様達も中になだれ込んできた。


 「ひとまずこの船の動力部を破壊するぞ。」

 「アルテミス、場所はわかるか?」

 「たぶんこの辺だね!行くよ!」


 みるみる間にスクラップにされていく宇宙船。

 これではもはや動く事は出来ないと思う。

 そして、固く閉ざされた、アルテミスさんは操縦席だろうと言っていた所のドアを破壊した。

 すると……


 「くぇrちゅいおp@6sdfghjkl;!!!」


 大悪魔らしき存在が、鉄らしきものでできた筒だか棒みたいな何かを構え、何かを叫んだんだ。

 でも、何を言っているのかさっぱりわからない。

 構えた何かから、光の線が私めがけて発射された。

 あ、これ、レーザーとかビームとかいう奴よね。

 そのレーザーだかビームだかは、私の肌が弾く。

 シャルルに向けても撃ってくるけど、結果は同じだ。


 茫然と立ち尽くしている感じになった大悪魔らしき存在。

 するとアルテミスさんが


 「!”#$%&’()=あsdfghyjk!!」


 これまた何かへんな言葉を発したんだ。

 どうも、この大悪魔らしき存在と会話できているみたいだ。

 何度かそう言う会話らしき事をやりとりしている。

 そういや、アルテミスさんは宇宙人?だったね。

 その会話が途絶えた時、大悪魔らしき存在はガクガクブルブルと震えていた。


 「お、おい、アルテミス、言葉が通じるのか?」

 「うん。こいつはあの大悪魔で間違いないね。やっぱり、この星の生命を狩り取りにきたんだって。」

 「いやしかし、大悪魔って相当強いヤツなんじゃ……」

 「まー、この星の人間にとっては、だね。こいつ、ディーナとシャルルとタカとヒロを見てビビったみたいだよ。」

 「「「「 は? 」」」」

 「で、やっぱり逃げようとしたみたいだ。」


 「$) ノД‵  OIJBBV&Pobjanfrgwu8#”!!」


 「何だって?」

 「見逃してくれ、だって。ここに自分と似た存在がいるんで、そいつの方が悪い奴だぞ、とも言ってるね。」

 「見逃すわきゃねぇだろ。アホか。」

 

 「 ;゚Д゚ !? >×< Mjsdaptupヽ(`Д´)ノはp率@課shdふぁ?」


 「で、何だって?」

 「オマエラは血も涙もない悪魔か!だってさ。」

 「何だ、自己紹介か?」

 「おまいう、だよね?」

 「ブ、ブーメラン……」

 「ちょっと何言ってるかわからないな。」

 「大悪魔はこいつだし、ルシファーはマジで悪魔だしな。」


 「!”#$%YUIKO<+xrcv4びゅにおks~‘+*」


 「何だって?」

 「えーっとね、我は四天王の中でも最弱、我を討った所でどうのこうの、だって。」

 「何言ってんだコイツ?」

 

 「いずれにしても放っておくわけには行かないね。情報ならこの船から抽出できるし、こいつはここで殲滅しないと他の星に行くだけだろうしね。」

 「私がやります。」

 「私も。」

 「ディーナ、シャルル、お前達……」

 「聞いた限りではこの大悪魔は命乞いをしているんですよね?」

 「でも、この大悪魔は、これまでそうして命乞いをしてきたはずの生命を摘んできたんですよね?」

 「ああ、そういう事だろうな。」

 「なら……」


 そう言った途端、大悪魔らしき存在はボロきれのように切り刻まれ、光の魔法によって消滅された。


 「タカ!?」

 「ヒロ!?」

 「情け無用だよな。これで、だ。」

 「ああ、問題の一つは片付いたってことさ。」


 私達よりも先に、タカとヒロは大悪魔を屠った。

 私達が逡巡している事を察知したんだろうな。

 心中を察したんだろう、タカとヒロは私達に向かってウインクをした。

 少し、二人に申し訳ない、かな。


 「タカ、ヒロ……」

 「ごめんね、ありがとう……」

 「んー?何が?」

 「へへ、こりゃオレらが自分で判断した事だよ。な?」

 「そうだぜ!」


 この子達、もしかして私達よりもずっと大人なのかも知れないなぁ。

 そんな私達のやり取りを、やっぱり微笑ましそうに見つめているルナ様達。


 ヒロの言う通り、これで一つの問題は解決した、と言っていいんだよね。


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