第146話 落ちてくる脅威

 一夜明け、朝日が差している中、皆で食卓を囲んで朝食を食べている。


 何というか、だけど。

 いつもより言葉少ない感じなんだけど、すごく温かいというか、心が安らぐ感じを抱いた。

 ここに居る全員の、何といえば良いのかわからないけど、心がより強く繋がった気がしてならない。

 あんな会話の後でもアズライール様との気まずさは無かったし、今はより身近になった感じだ。

 絆がより強くなった、そんな感じだった。


 朝食は非番の私達が担当したんだ。

 ヌエさんもグリペンさんもアフラさんも、料理の腕前は日々上達している。

 私達もそこは見習わないといけない、と思って頑張ったんだ。

 ちなみに、意外な事にタカもヒロも料理の腕前が上達していっている。

 主にアフラさんに教えてもらっているみたいだ。

 そんな中。


 (よー、お前、置いてけぼりなんじゃね?)

 (い、いや、そんな事はない。うん。ないぞ。料理くらい私でも……)

 (お前、まだ一度も作った事ねぇだろうよ。アズラやルシファーも、あれでも料理は上手いぞ?)

 (ぐッ……)

 《すまぬのルナや。わっちも料理はできぬ。教えてあげられなんだ……》

 (こ、これは何とかしないといけない……のか?)

 (あ、あの、ウチも習いたい、かなー……)


 どうやらそんな話をしていたらしい。

 昨夜の手合いの影響は無いにしても、タカとヒロはまだ1日待機が残っている。

 それは少し申し訳ないなぁと思ったので、彼らが好きだって言った甘いゼリーをデザートに出した。

 甘味料の関係で、数が二つしかできなかったので、結果的に二人だけに出す事になったんだ。

 で、それを見たルナ様他全員が。

 何というか、ものすごーく微笑ましい感じの視線で私達を見ていた。


 「え?あ、あの、ルナ様?」

 「ウリエル様?」

 「気にするでないぞ。」

 「うむ、よきにはからえ。」

 「「 ?? 」」


 な、何だろう……

 と、朝食を済ませ後片付け、洗濯も終えて寛いでいた。


 昨日の夕方あたりから高気圧に覆われたのか、雲も少なく天気がいい。

 タカとヒロは外で雪合戦をしているけど、疲れないのかな?

 そんな事も思いつつ、疑問があったのでルナ様とアルテミスさんに聞いてみた。


 「大悪魔って、来るとしたらいつどの辺に来るんでしょうか?」

 「それがなぁ。私には皆目見当もつかない。」

 「私もね、予測はしようと思ったんだよ。でもさ、当の大悪魔が今現在どこに存在しているかがわかんないんだ。」

 「そうなるとだな、予測のしようがないんだ。」

 「そうなんですか。」

 「それに、これは勘だけどそいつは大気圏とかそんなの関係なく、一直線に大地に向かって突っ込んでくるような気がするなぁ。」

 「だとすると、だ……」


 初動の鍵となるのは、いかに早くそれを察知するか、にかかっている、という事らしい。

 現状、全国の兵士さん達は対モンスターに人手を割いているので、上空の監視はそれ程広範囲に展開されていない。

 かといって、目視での警戒監視になるので発見できるかどうかも不明なんだって。

 

 「例えば光学迷彩のようなステルス技術があったら、それこそ発見は不可能だろうしな。」

 「レーダー、という手もあるけどさ、今から作った所で間に合うかどうかだし、アレ結構コストがかかるしねー。」

 「というか、お前達のレーダーはどういうモノなんだ?」

 「私達が使っているのはね……」


 何か、ルナ様とアルテミスさんは難しい話に突入したみたいだ。

 結局は、やって来た事が判った時点で、こちらが対応しなければいけない、という感じなのかな?

 後手に回ってしまうのは仕方がないんだろうけど、できれば地上に到達する前に察知したいところだよね。


 「あ、そういえば。」

 「ん?」

 「アルテミスさん、ノアの船の他の3隻って、この星を回っているんですよね?」

 「そだね。」

 「夕べ、それらしき光を見ましたよ。」

 「へー!あの船たちはね、あれ以来衛星軌道に乗って……あ!」

 「アルテミスさん?」

 「どうしたアルテミス?」


 何かを思いついたような感じで、アルテミスさんは固まった。

 天井を見ながら、なにやらブツブツとこぼしている。


 「えーと、早期発見、とまでは行かないだろうけど、わりかし早めに察知する事は可能かも……」

 「まさか、その船の動力はまだ?」

 「うん、落ちていないと思う。それに光学的にも電子的にも探る機器もまだ生きてると思う。」

 

 アルテミスさんが言うには。

 その3隻の船にもはやノアの人は乗っていないはずだという。

 全員が亡くなった、というのは確認済なんだとか。

 それで、その3隻にもアルテミスさんの本体ような演算装置があって、それらは電源が生きていて故障していない限りまだ動いているはずだという。

 自立行動がとれないのは、アルテミスさんのような存在はあのトンネルにある船だけだったから、なんだそうだ。


 「私が居たから、辛くも地上にたどり着けた、という事なんだろうけどね。それはさておきだよ。」

 「要するに、その船の探索機能を活かす、という事か。」

 「そだね。情報のリンクは既にこっちの船を使わなくても、私自身ができるし問題はないかな。」

 「へ、へぇー……」

 「凄い……」

 「何で私、これに気付かなかったかな……」

 「ともあれ、それは直ぐに展開可能なのか?」

 「うーん、大丈夫だとは思う。設定に時間はかかるだろうけどね。今夜で私らの班がオフになるから、その時やってみるよ。」


 それって、アルテミスさんの負担になっちゃうのかな。

 それだと申し訳なくなっちゃうけど、他に良い手立てがない以上、頼るしかないよね。


 「あ、私自身ほとんど労力は使わないよ?」


 それを聞いて少し安心した。




 その日はモンスターもメナスもこちらに出現はしていなかった。

 ネリス公国の南端でモンスターの出現があったらしいけど、サクラお母様一人であっという間に片付けたそうだ。

 サクラお母様、やっぱり凄い。

 

 そうして夕食後、さっそく待機班の交代を経て、アルテミスさんは監視網の設定に着手した。

 

 「さて、やってみるか。」

 「「「「「 ゴクッ…… 」」」」」


 「できたよ!」

 「「「「「 早ッ!! 」」」」」


 ほんの数秒の事だった。

 衛星軌道上の船の機器設定とデータリンクの構築ができた、と言った。


 「でも、残念ながら1隻はダメみたいだね。主要な設備がもう壊れていたよ。」

 「というか、早すぎだな……」

 「あー、外段取りというか下準備は昼間の内に済ませておいたからね。残りはプログラムの転送と設定の開始だけだったんだ。」

 「凄い……」

 「ルナやウリエルも大概ですが、アルテミスも規格外ですね。」

 「もうワシらでは想像がつかない世界じゃな。」

 「ウチにはもう何がなんだか……」

 「えへへー、凄いでしょ?私こういうのって得意なんだよ。じゃ、さっそく見てみようかな……!!」


 突然、アルテミスさんは驚きの表情となった。

 衛星軌道上の船のデータを見たんだろうけど、何か不具合でもあったのかな?


 「……居た…居たよ!」

 「「「「 早ッ! 」」」」


 本当に、何かの冗談のような、ドンピシャのタイミングだったようだ。

 最初の光学カメラ?の映像を見たら、それらしき物体を視認したんだって。

 完全に小型の宇宙船、こちらに向かってきているんだって。

 速度は相対演算がまだできないので予想だけど、光の速さの10000分の1程度、時速10万キロくらい、らしい。

 ちょっとそれがどれだけの速さなのかはわかんないけど。


 「到達場所の演算を始めるね!」

 「シャルル。」

 「うん。」


 私とシャルルは、即座にリンツ、及びイワセ本部へとホットラインを開けた。

 今の内容を伝え、場所が特定でき次第再度報告すると告げた。


 《ディーナ達はそこでそのまま待機していてくれ。今から態勢をアップルジャックとする。》

 「了解!!」


 アップルジャック。

 最大級の警戒態勢へ移行するコードシグナルだ。

 イワセメンバーだけでなく、全世界の対モンスターの兵士さん達が臨戦態勢となる。

 いつでも、どのようにでも動けるように。


 「到達予測場所が判明したよ!」

 「アルテミス、それは!?」

 「ここ。」

 「「「「「 はい? 」」」」」


 事実は小説よりも奇なり。

 まさにそれを地で行くような展開だ。


 「ETAも算出できたよ。明日だね。」

 「いーてぃーえー?」

 「到達予想時刻さ。最速で明日の午前中だよ。」


 本当に。

 何の冗談なんだろう。

 ご都合主義、なんてレベルの展開じゃないよねコレ。


 「よし!備えるぞ。ディーナ。」

 「はい。イワセに報告します。」

 「アタイらはどうするよ?」

 「アルテミスさんの班は対モンスター待機上番を12時間繰り上げてください。私達はこのまま待機しつつ迎撃態勢を構築しましょう!」

 「わかったよシャルル姉!」

 「明日の午前中だろ?交代で休んどこうぜ!」

 「そうだな。即応は2人体制で充分だろう、今からだと6時間交代で寝ておけ。最初はタカ達だ。」


 少し、あわただしくなった臨時待機所内。

 私達はその時、それを知る術はなかったんだけど、そのあわただしさは地球全体で起こっていたようだ。

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