第144話 メナス、そしてモンスター

 待機所へと戻った。

 私達の会話や行動内容は全て無線機によって待機メンバーの耳に入っていた。


 「えーっと、これって要するに、だよ?あの大悪魔が全ての元凶、って事で良いのかな?」

 「アルテミスの意見は極論ではあるが、それは真理の様な気もする。」

 「ねー、ルナ。あっちの世界に居た時に、アイツらの事は解らなかったって事なの?」

 「そうだな。ただ、いくつかのアーマーが謎の失踪をした、という報告は何度かあったとは思う。」

 「どっちにしてもだ。ルナやジーマでさえ知り得なかったって事は、コア以上に狡猾で厄介な存在なんだろうさ。」

 「それで、だ。まずはいくつか採取できた情報を整理していこう。」


 あの5体から抽出した情報。

 その中で新たに解った事が幾つかある、とルナ様とウリエル様が言う。

 それによると、


 まずメナスは元々ジーマの世界に飛来して、星の統合によりこの世界に移った。

 ジーマへと来た理由はあの大悪魔から逃走してきたから。

 メナスの個体はアーマー、モンスター、それから人間を基に“開発”された。

 人間や魔族、モンスターの事などは意に介さず眼中にない。

 メナスの存在自体は有機体とも精神体ともいえず謎の生物というか物体らしく、メナス自身それを自覚していない。

 メナスは組織として1,000体を超える個体を抱えていて追加量産もできる。

 その手先として、既存のモンスターを捕獲し改造、増産した。

 そして

 シヴァ様が言っていた構造物は、メナスの宇宙船で間違いない。


 「この情報の確度は完璧に近い。なので直ぐにでもイワセに報告すべきだな。」

 「はい。」

 「関連するであろう、考えられる事云々はまた別で詰めるとして、だ。」

 「そうじゃな。ワシらとしてはここで待機を続けるほかはあるまい。」

 「あ、返信です。追ってトキワお兄様から連絡がくる、という事です。」

 「そうか。これはもはや地球規模で対応する事案だな。もっとも、今までもそうだったがな。」


 今の話を整理すると。

 モンスターは2種類存在する、という事よね。

 コアから排出された元々のモンスターと。

 メナスが改造し増産したモンスターと。

 どちらがどちらかは解らないけれど、時折出現していた弱いモンスターはコアからの個体で間違いない、と思う。

 ただ、メナスが改造した個体の情報も、コア、というかモンスターへと影響を与えていた可能性もある。

 その情報の経路や進化のプロセスは未だ不明、なんだけど。

 モンスターそのものの進化は、やはりメナスの影響で間違いない、と思う。

 

 「何というか、ですけど、メナス側は何か焦っているようにも思えますね。」

 「そうだな。もしかすると、大悪魔とかいうのが来るのが近い、という事かもしれん。が、だ。」

 「アタイらが今すべきことは変わんねぇな。仮にそれがきた所で殲滅するだけだしな。」

 「アルテミス、その大悪魔っていうのはやはり目的は不明なのか?」

 「うん。何がしたいのかは解んないな。もっとも、今の所メナスの目的も明確じゃないけどね。」

 「ん?メナスは大悪魔と戦う事が目的……あ!」

 「ね?じゃあ、戦ってどうすんの?という所がね。解んないというか、それは目的じゃない気がするんだよ。」


 そう、よね。

 ノアという惑星に逃げてきた別の星の住人は、生きる為にノアに逃げてきたんだっけ。

 ノアの民にしても、対象は流星群だったけど、ノアの民としての存続の為にここに来たんだし。

 かたやメナスは、長い間大悪魔らしきモノと戦争をしていたって言ってた。

 住んでいた星に侵攻してきたから、という事も考えられるけど、メナス自身が滅ぶ事はない、と明言してたし。

 一体、何が目的なんだろう?


 「ねね、目的っていうか、メナスってのはその大悪魔が来たら戦うのかな?また逃げるのかな?」

 「「「 あ!! 」」」

 「ナイナ……お前、時々鋭い所突いてくるな。」

 「え?」

 「これも想像の域を出ないが、メナスの本体、これはたぶん物質化していない可能性もある。」

 「物質化?」

 「これまで接触してきたメナスにしろ進化したモンスターにしろ、奴らが造った物体に入り込んでいただけなんじゃないか?」

 「そういやよ、あいつら体が消えても存在は消えないとか言ってたしな。」

 「となると、だ。一つの仮説としてだが、あの個体やモンスターを大悪魔をぶつけた上で、自分たちはトンズラするつもりなのかも知れない。」

 「要は足止め、か。」

 「んでもだよ?遁走するにしても行く充てってのはあるのかな?」

 「それは解らないな。何せ私達はこの星以外で生命が存続できる星があるっていうのはつい最近知った事だしな。」

 「大体アルテミスでさえそうなら、そこは完全に解らない領域じゃろうて。」

 「あの、そこにもう一つの可能性が……」

 「ディーナ?」

 「何もメナスは、宇宙船を1隻だけしかって言う事は無いんじゃないかと……」

 「なるほどな、その可能性も考えられるな……」

 「ん?どゆこと?」


 何分スケールが大きすぎて失念していた点でもある。

 ここ、というかジーマに来たのは単なる先遣隊か、あるいは私達の様な遊撃隊、という可能性もある。

 とすると、逃走先というのは既に別動隊が発見、あるいは当初から知っていた可能性もある。

 この星は、単に大悪魔をおびき寄せ足止めさせる事だけが目的、つまり囮とも取れる。


 「それは、私達としてはいい迷惑以外の何物でもないですね。」

 「となると、じゃ。」

 「ええ、私としてはもはや自己の存在云々を考慮している場合ではないですね。」

 「ア、アズラ、それは……」

 「まぁ、アズラもワシも、じゃ。この世界に直接肩入れする事は出来ない、というのは禁則事項だから、じゃ。」

 「以前にも言いましたが、それを実行すると存在そのものを消されるんです。

 でも、現状はそんな私の都合など些事と思えるほど切迫しているのです。

 むしろ、このまま私とルシファーが何もしない、という事の方がよほどその存在価値を失う事でしょう。」

 「いや、しかしアズラ、お前が直接何かを主導したら、お前は……」

 「じじいだって消えちまうんだろうよ……」

 「それでも、です。少なくとも私は、この星、それにこの星に住む人々の為にならば…」


 「「 ダメです!! 」」


 「ディーナ?シャルル?」

 「それはダメです!」

 「アズライール様やルシファー様が居なくなったら、タカとヒロは家族を失う事になっちゃうんです!」

 「お、おい、お前ら……」

 「二人とも……」

 「私もシャルルも!誰もそういう悲しい事が起きないように!今まで頑張って来たんです!」

 「全部が全部、というのは傲慢な考えだっていうのも解っています!でも、だから!!」


 自分でも不思議なくらい、感情的になっていた。

 気が付くと、涙も流れていた。

 なぜ、ここまでヒステリックに声を荒げて意見したのかも、自分でも良く解らないんだ。

 でも。

 アズライール様やルシファー様だけじゃない。

 ルナ様もウリエル様も、アルテミスさんもタカもヒロも。

 ここに居る全員、いえ、全ての人達に、そんな事をして欲しくないし、そんな悲劇に遭って欲しくないんだ。

 

 「だから!…だから……そんなこと……」

 「言わないでください……」

 「も、申し訳ありません、二人とも……」

 「あ……い、いいえ、ごめんなさい、勝手な事を言ってしまって……」

 「いや、二人の想いは理解しているつもりです。私こそ、謝らなければいけませんね。」


 何とも言えない雰囲気に包まれた待機所内。

 そんな雰囲気の中で、ルナは思う。


 きっとディーナとシャルルは、アズラの発言にアイツの事やカルロの事、先日の私達の事をも重ねてしまったのだろう。

 二人がこれほどまでに激情にかられるのは初めての事だ。

 一つ一つの事が明らかになるにつれ問題が増えていく中で、この子達自身もいろんな想いが巡って焦りを感じているのだろうか。

 だが、しかし、それ以上に。

 誰も悲しんで欲しくないという、普通に考えれば偽善か夢物語としか受け取られかねない事を、この子達は本心から、その魂から願っているんだ。

 その悲しみを、知っているから。


 思えば、あの時。

 私が知らずに涙したのは、同じ想いを抱いたからなのではないかと今になって思う。

 アイツが、自らの破滅を覚悟してまで皆を守ろうとした、あの時だ。

 そう考えると、この子達の気持ちは痛い程理解できる。


 ただ、少し気になる事がある。

 日に日に、ディーナとシャルルはその存在が不安定というか、変化しているような気がする。

 それに気づいているのは、私とウリエルとアルテミスだけ、なんだが……


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