第142話 臨時待機所を造ろう!

 トンネルへの罠は仕掛け終わったけど。

 すべてをトラップで済ますわけには行かないと思う。

 トラップはあくまで最終的な阻止装置なんだ。

 なので


 「まぁ、この辺りが手頃じゃないか?」

 「そうですね。ここなら即応も可能でしょう。」

 「じゃあ、さっきのトコとここ、2か所だな。」

 「うむ、酒が切れた。誰か持っておらんか?」

 「「「 …… 」」」


 よ、要するに、私達の臨時の待機場所を選定しているんだ。

 モンスターやメナスがここへ向かってきた場合にいち早く迎撃する為だ。

 

 場所の選定が終わった所で、アズライール様は簡単な小屋を建てた。

 あっという間だった。

 どんな魔法を使ったんだろう?


 「ああ、これはですね、“ぷれはぶ小屋”という出来合いの仮設小屋を転移させただけですよ。」


 ぷれはぶ小屋、というのが解らないけど、要するに小屋を転移させただけ、だったみたいだ。

 小屋の中は広く、10人がしばらく生活するには問題ないと言えるものだ。

 小さなキッチン、簡易ベッド、テーブルに椅子、ソファー。

 トイレとその浄化設備、おまけに発電機も付いている。


 「残念ながらシャワーはありません。流石にそれだけの水を蓄えておくのは難しいので。」

 「充分ですよね!」

 「問題ありません!」

 「そうだな。風呂なら外の雪を使って何とかできるだろうしな。」

 「あー、そんじゃドラム缶が要るな。」

 「ドラム缶?」

 「これだ!」


 と、ウリエル様はそのドラム缶とやらを出現させた。


 「ま、今作ったんだがな。ちゃんと鉄でできた44ガロンドラム缶だぜ?」


 そのドラム缶は上部を開け湯抜き用の栓を付け、岩で作った竈のような土台に固定する。

 これに水を張って湯にして、底板を準備すればお風呂の完成だ。


 「ディーナの魔法でも作れるよね、カルメンでやったみたいにさ。」

 「うん。でも、こっちの方が何となく気持ちよさそう……」

 「というか、面白そうだね。」


 魔力を使わないっていうのは有り難いかな。

 準備するのは大変だけどね。

 

 こうして待機場所は確保できた。

 あとは常駐のローテーションや処置の手順などを決めるだけだ。

 ひとまずこのトンネル防衛のメンバーは、私達ディアマンテスとナイナさん、アルテミスさん、ヌエさん、グリペンさん、アフラさんの総勢13名だ。

 班分けは自然と私達、タカ達、アルテミスさん達になったんだけど。


 「ローテーションは必要ないんじゃないか?」

 「んだな。全員ココに詰めりゃ良いだろうよ。」

 「でも、ここだと少し手狭になりませんか?」

 「そうですね。小屋がもう一つ必要になりますね。ならば!」


 と、またまたあっという間に隣に小屋ができた、というかアズライール様が再び運んだ。


 「そちらは休息場所兼寝室専用としましょう。そうすれば待機部屋は広く使えますからね。」

 「おおー!」

 

 

 こうして臨時の拠点を儲け、一旦リンツに戻り資材を調達、運搬した。

 これだけの人数で、ひとまず10日間は待機できるだけの食材、小物を揃えたんだ。

 そして、対メナス、モンスターへの緊急対応処置を開始した。

 リンツとの連絡は一応無線機で、という事になったんだ。

 あまり考えたくはないけど、万が一私の使い魔を使った通信が出来なくなることを考えての事。

 それはつまり、そう言う事なんだけど、もちろん私にそのつもりはないけどね。

 

 待機には2班が当たる。もう1班は休息になるんだ。

 幸いにも、モンスターもメナスも、今の所夜間での行動は無い。

 ただ、メナスに関しては未知数の部分もあるので、一応24時間待機、となる。

 なので、班ごとに1日交替としたんだ。


 そうして落ち着いたところで、お食事タイムとなった。

 なんと、ヌエさん、グリペンさん、アフラさんが作ってくれると言う。

 3人ともマスミお姉様とヒバリお姉様に料理を教えてもらったので、その腕前を確認して欲しい、との事だった。


 「我はな、ヒバリに“カレーライス”なるものを教えてもらったのだ。」

 「我はマスミにチキンサラダを教えてもらった。姉のキューキは美味しいと言ってくれたが。」

 「我は“デザート”ですね。ここならジェラートというモノが簡単に作れるみたいですからね。」


 今日は発足会もかねて、という事で贅沢な食卓になった。

 グリペンさん謹製のカレーライスは、というと……


 「お、美味しい……」

 「これ、今までで一番美味しいカレーかも……」

 「すげー!初めて喰った!旨いよコレ!」

 「グリペンさんすげー!ってか、これがカレーライスか!」

 「アイツともヒバリとも違う味だな、確かにこれは美味しいな。」

 「アタイでもわかるぜ、これはまた違う旨さだな。」

 「ほほう、これがカレーライスというものか、美味じゃの。」

 「ウチニンニクダメだけど、これならイケるな。というか、辛さもちょうど良い!」

 「スパイスの割合が絶妙ですね。とても美味しい。」

 「ほぇー、グリペン凄いねー。ホントに美味しい!」


 大絶賛だった。

 というか、お父様やヒバリお姉様のカレーとはまた違う美味しさだ。

 これはつまり、カレーライスを作れる人が増えた、という事よね。

 これは一つの大事件だね!


 ヌエさんのサラダも、手作りのドレッシングがまたカレーとよく合って美味しい。

 アフラさんが作ったデザートのジェラートに至っては、葡萄の風味がこれまたさっぱりして食後にピッタリだった。

 結局、私とシャルルは3杯おかわりし、タカとヒロに至っては5杯も食べた。 


 「美味しかったー!」

 「もしかして、ノアの人たちって皆料理が得意なのかな?」

 「確かにな、これはいっぱしの料理人も脱帽レベルだろうな。」

 「いや、ヒバリの教え方が上手だったんだと思う。カレーを作ったのはこれで2度目だし。」

 「へー……」

 「カレーって旨いな。俺の大好物になったよ。」

 「オレも。あんなに旨いもん初めてだよ。」

 「ただ、な。」


 そう。

 13人分、という事で。

 作る分量の具合が判らなかったようで、寸胴鍋に半分以上残っている。

 という事は。


 「ま、3日はカレー三昧、という事だな!」

 「ぃやったー!明日もカレーが食えるのか!」

 「オレ、ずっとカレーでもいいかも!」


 この子達はまだ知らない。

 いかに絶品のカレーでも、3食3日以上続くと飽きてしまう事を。

 そして

 二日目のカレーはさらにコクが深まり美味しくなり、またカレーを使った料理のバリエーションは多く飽きさせない手段がある、という事を。

 なので、せっかくのグリペンさんの絶品カレーは思う存分堪能すべきだよね。


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