第141話 罠

 あの話の後。

 リンツにはシャヴィお母様と私のお母様が来た。

 私達に少し用事ができた事で、こちらのアラート対処に付く為に。

 カルメンとデミアンでのモンスター出現が極端に減少したことで、配置換えも行ったらしい。

 カルメンには今ハーグお兄様が就いている。

 デミアンはエイダム叔父様達魔王軍だ。

 共に規模は縮小したものの、現状それで充分対応できると踏んだようだ。


 お母様達はリンツに来るなり


 「お前達、真の姿に成れたんだってな!」

 「その姿、見てみたいですわねー。」


 とても嬉しそうにそう言ってた。

 お母様達にすれば、それはとても喜ばしい事なんだろうか。

 ただ


 「でも、ね、ディーナ、シャルル。注意しなければいけませんよ?」

 「ああ、そうだな。これはとても重要な事だからな。」

 「「 ?? 」」

 「もし、意中の殿方が出来たら、その姿は見せてはいけません。」

 「たぶんな、殆どの男はその姿を見たら卒倒するだろうな。」

 「そ、そうなの?」

 「私はカッコいいと思うんだけど……」

 「あはは、そういう男ってのは極々稀な存在だ。お前達の父親みたいにな。」

 「うふふ、そうですね。あのように見てくれる男性は、きっとあなた達の運命の人ですよ?」


 え、えーと……

 確かに、普通の人があの姿を見たら絶対に恐怖に慄くと思う。

 だけど、トキワお兄様もタカもヒロも、そんな感じじゃなかったように思うんだけど。

 え?

 じゃあ、まさか運命の人って……タカとヒロ?


 「ディーナ…そ、それは無いと思う。」

 「そ、そうよね、たぶん。」


 確かにあの子達はカワイイとこもあるしカッコいいし優しいし強いけど。

 そういう対象とは思えないんだよねぇ。

 なんというか、姉弟みたいな感じだし、戦友とも言える感じだし。

 確かに優しくてカッコいい所もあるんだけど。

 でも……


 と、そんな様子を見ていたルナ様とツクヨミ様とウリエル様とアズライール様とアルテミスさん。

 皆並んで私達を見て、ほんのり微笑んでいるのは何故だろう?

 ルシファー様に至っては


 「ほッほッほッ、ここは乾杯じゃな!」


 と嫌いなハズのワインをゴクゴクと飲んでいた。



 そんな事が昨日あったんだけど。

 今私達が居るのは、あのトンネルの入り口だ。

 とある作戦の準備の為だ。


 「トラップ、ですね。」

 「ああ。こういう小細工に関しちゃ、アタイとジジイはもってこいだろ。」

 「何でワシが……」

 「あら、ルシファーはこういうの得意なはずでしたよね?」

 「そうなのか?」

 「遥か昔、私と戦った時はそれにかなりムカついてましたよ。」

 「……ジジイ、何やったんだよ……」

 「あー、うん、まぁ、ちょっとしたお茶目なイタズラじゃ。トラップなどという大袈裟なモンじゃないんじゃがなぁ。」


 それはともかく、だ。

 そのトラップはトンネル入り口周辺を重点的に、さらにトンネル内にも張り巡らせる。

 この近辺に人間や魔族の人達が住んでいないっていうのは、これに関しては大きなメリットだ。

 大規模なトラップを遠慮なく仕掛けられるものね。

 そしてトンネルにしても。

 歴史的な遺構というのは貴重だけど、極論ある程度崩壊しても問題はないんだ。

 何故なら、理由は解らないけどあの居住空間は崩壊しないらしいし、もしあの空間に用事があれば転移魔法で事足りるから。

 それができる者は、今やルシファー様とアルテミスさん、お母様、ネージュ、そして曲がりなりにも私もできる。

 ルナ様、ウリエル様も、やろうと思えばできるらしいしね。

 その内タカかヒロも出来るようになるだろうとルシファー様も言ってた。


 で、まずはトンネルの奥の方から仕掛けを作っていく。

 トラップを仕掛けた場所は、もう誰も近づけなくなるからだ。

 で、そのトラップというのはどういうモノなんだろう?


 「ふむ、ここが最終防衛ラインになるわけじゃ。という事で、ここに最大のトラップを置いとくんじゃ。」

 「最大の?」

 「トラップ?」

 「まぁ、見ておくがよいぞ。」


 そう言って、ルシファー様は壁面に多くの魔法陣を張り付ける。

 魔法陣って、あんまり使う人っていないんだよね。

 だから、何か新鮮な感じがするなぁ。


 「ま、わざわざ魔法陣を描くというのはな、既に発動している魔法を格納する為なんじゃ。」

 「既に発動しているっていうのは?」

 「うむ、例えば、じゃ。この魔法陣には氷鏃の魔法が仕込んである。すでにそれは発動しているんじゃ。」

 「あー、なるほどな。結局はあれだ、アタイがあの山で対盗賊に使ったトラップと同じってことか。」

 「お前のトラップは見てないからわからんが、その認識で良いと思うぞ。」

 「しかし、だ。ウリエルのモノよりもかなり大規模だな。」

 「ま、このトラップの利点でもあり難点でもあるんじゃが……」


 魔法トラップの起動には、幾つもの魔法による連鎖が必要なんだって。

 大まかに言うと、対象の感知、起動する魔法の選択、解除、発動、というシーケンスを経るんだそうだ。

 なので、一つの魔法トラップを仕掛けるには最低でも3つの関連魔法を展開する必要がるんだって。

 その魔力の維持の為の魔法も必要になるんだよね、たぶん。


 「まぁ、本命以外の魔法など、大した魔力は使わぬからのぅ。」

 「はぁー、単純に凄い……」


 そして、ここには火と氷と風と土の攻撃魔法、さらに重力魔法と空間転移が仕込まれた。

 その範囲は100メートルくらいの長さだ。

 空間転移は、ここまで来た敵を入り口まで飛ばす為だそうだ。

 

 この先にはノアの民の居住空間だった場所へ通じるダンジョンがある。

 万が一、何かの間違いでそこからこちらへ来ることが無いように、そのダンジョンには看板を立てておいた。

 その看板にはノアの民の言語、そして私達の言語で

 『罠あり〼。危険なので立ち入り禁止です。』

 と書いておいた。


 最終防衛ラインとルシファー様が言っていたこの場所。

 ここへの仕掛けは済んだみたいだ。

 結局、ルシファー様とアズライール様、ルナ様、ウリエル様4人分の極大魔法を仕込んだみたい。

 というか、それだけでこのトンネルは崩壊するよね、きっと。


 「そうならないようにな、壁に結界魔法も張り付けておくんじゃよ。」

 「へぇー……凄く緻密な仕掛けなんですね。」

 「ほッほッほッ。こういうのはな、仕掛けている時が楽しいんじゃ。」

 「ジジイ、ホントろくなもんじゃねぇな……」

 「なーにを言うか。お前もそう思うじゃろ?」

 「あー、否定はしねぇけどな。」


 と、トラップを張り終えたところで


 「さて、ではセーフティを解除するぞ。解除したらもはやここには足を踏み入れられないのでな。注意じゃ。」


 と、トラップが完成、機能開始したらしい。

 そんな感じで、入り口までに10か所のトラップを仕掛けていった。

 ウリエル様曰く、どれもこれもえげつない罠らしい。

 ルシファー様、まさに悪魔だ。


 そして入り口に来た。

 幸いにも、居住空間へのアクセスポイントはここしかない。

 なので、モンスターにしろメナスにしろ、目指す場所はこの入り口だ。

 ルシファー様は、ここに大規模な罠を仕掛ける、と言った。


 「まぁ、単純なトラップでの、いわゆる落とし穴じゃな。」


 単純とは言うものの、かなり大規模で複雑なものだった。

 直径にして1,000メートル程、深さに至っては500メートル以上の穴。 

 これを、アズライール様、ルナ様、ウリエル様、そして私達が一緒になって作った、というか魔法で掘った。

 その奈落の途中途中に、攻撃魔法や結界魔法、重力魔法等々を仕掛け、最後は蓋、といって岩盤を落とし込む為の転移魔法をセットしたそうだ。

 そして、


 「これがワシのトラップの真骨頂でな。」

 

 そう言うと、その穴は魔法により見えない幕が張られ、穴がないように隠された。

 この膜は魔法でも物理的な感知機能でも発見できないシロモノらしい。

 折しも大雪の中、その幕には雪が積もり完全に見えなくなる。


 「しかしな、これ雪の重みで垂れるんじゃないのか?」

 「その心配はないんじゃよ。一定の重みになるよう細工をしてある。しかも、周囲の積雪と高さは同じになるようにな。」

 「へー……」

 「それに、じゃ。ワシらがその幕の上に立っても、穴に落ちないよう識別魔法を付加した。」

 「識別魔法?」

 「初めて聞く魔法ですけど、それって?」

 「要するに、対象外の者はこのトラップにかからない、つまりこの幕自体が敵か味方かを判断するんじゃ。」


 凄い、としか言いようがない、よね、コレ。

 でも、敵と味方ってどう判断するんだろう?


 「何、簡単な事じゃ。モンスターとメナス以外は全て味方、としたんじゃよ。」

 「確かに、単純だが明解な区別だな。」

 「すでにそれらの見分けはできるからな、簡単ではあったな。」


 これで、モンスター、あるいはメナスのトンネル侵入阻止の罠は出来上がった。

 

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