第140話 ディアマンテス、その絆

 モンスター。

 言うまでも無く、コアによって生成された物体、あるいは生命体。

 それが初めて認識されたのは、実は明確になっていないんだ。


 200年前まで、人間からは魔族の一部と認識されていた。

 かたや魔族としては、人間に仇為す存在として討伐の対象としていた。


 その正体は人間の負の感情、負の面だ。

 様々な悪意、それをコアが搾取し、その負の面を原料としてモンスターを生成、放出していた。

 物質化された悪意は、モンスターとして人間を襲っていたんだ。


 よくよく考えると、モンスターは人間を襲って何がしたいんだろう、とも思える。

 でも、それは人間の負の面全てに言える事、というのも理解できるんだ。

 人間のままその悪意による行動をしていた人々を、私とシャルルはこの目で見てきたから。

 理由なんてないんだ、理不尽そのものなんだ、と。


 と、そんなモンスターが、なぜあのトンネルを目指していたのか。

 そこがタカとヒロが抱いた疑問点だ。

 言われて、私達も疑問に思ったんだ。

 それに加えて、モンスターは確実に進化している、と、お母様達やルナ様達は言う。


 可能性の一つ、と前置きをしてウリエル様は言う。


 「瘴気に中てられた人間、そいつらに交じってメナスがモンスター側に着いた、という線も考えられるな。」

 「スパイか。うーん、だとしても、だ。それがあれらの進化とスタンピードがどういう……ん?」

 「ルナ様?」

 「メナスの個体は、使い捨ての駒とか言ってなかったか?」

 「あ、確かにな。そりゃ要するにモンスターを使ってた、って事じゃねぇのか?」


 スタンピード阻止の時。

 その時モンスターに跨っていた人型のモンスター。

 よくよく考えてみると、それって実はモンスターじゃなくメナスだった、という事なのかな?

 人型、あるいは獣人型。

 以て異なる個体は、モンスターとメナスという別々の存在を知らなければ区別はつかない。

 ただ、それを人間や魔族に知られたところで、メナスとしては関係ない話、になるのかも。

 メナスの標的はあくまでその大悪魔関連なわけで、この星の住人など眼中にない、みたいな感じだったし。


 「モンスターの進化に、メナスが一枚嚙んでいるってのは良い読みだな。」

 「まぁ、その進化のプロセス自体は解んねぇんだけどな。もっとも、問題はそこじゃねぇな。」

 「ウチにはよく解んないけど、要するに全部叩き伏せれば良いって事、だよね?」

 「暴論ですけど、ナイナさんの言う通り、なのかも……」

 「ディーナ?」


 「あの、メナスは少なくともノアの民のような感じじゃなかったと思います。どっちかと言うと、自身の存在のみが優先というか……」

 「そう……かも。私もそんな感じに受け取った、というのが正直な所です。」

 「ディーナとシャルルがそう感じた、という事なら、それはかなりの確率で正解に近いのかもしれないな。」

 「そうだねー。あなた達ってそういう感覚的な所、鋭いみたいだからね。」

 「俺は直接メナスと話はしてないけどさ、ディーナ姉の意見には賛成かな。」

 「そ、それはウチの意見……」


 「てことはだよ?メナスとモンスターは同じって考えりゃいいって事だよな?」

 「そうだな。そもそもの話、モンスターと人間、これは相容れない関係であることは事実だ。その根源が人間だったとしても、だ。」

 「そうなると、モンスターを利用しているメナスも、という事ですね。」

 「その見方もある、ってトコで止めといた方が良いかも知らねぇが、いずれにしてももうちょっと情報は欲しいな。」


 幸いにしてモンスターの出現は現状落ち着いている、と言ってもいい。

 コアからの放出も、先日来変化なく殆ど無いらしい。

 だけど、あれだけの数のモンスターがどこかに潜伏しているっていうのも考えにくいし現実的じゃないと思う。

 となると、真の第三のコア、シヴァ様の言われる構造物がその根本、という結論に行きつく。


 「確証が得られるまでは下手な事はできない、がしかし、だ。」

 「あのさ、それが事実だとしたら、だよ?私らの船が有れば、モンスターとメナスはそっちに注力するってことだよね?」

 「あ!そう言われれば!」

 「てことはね、あの船を囮にしとけば、少なくとも地上の人々への襲撃っていうのは少なくなるんじゃないのかな?」

 「いや、そうなんだろうけどよ、お前らのモノを囮にするってのもなぁ。」

 「ぶっちゃけた話、あの船の存在価値ってエネルギーの発生装置のみ、なんだよ。ノアの民の心の拠り所、故郷っていう面もあるけどさ。」

 「アルテミスさん、あの、私達が大切にしたいのは、その“故郷”とも言える部分なんです。」

 「ディーナ、キミの言いたいことは解るよ。だけどね……」


 「なあ、ディーナ姉。」

 「タカ?」

 「何もあそこを無くしちゃうって事じゃないんだろ?俺達が守ればいいだけの話じゃね?」

 「そ、そうなんだけど……」

 「モンスターやメナス、そいつらはオレらが対処すりゃいいしな。襲ってきたら殲滅すりゃ、それはそのままあそこを守る事になるんだろ?」

 「攻撃は最大の防御、とはよく言ったもんじゃな。ディーナよ、こいつ等の言う通りやもしれんな。」

 「そう……ですね。」

 

 一瞬の静寂が、リビングを支配する。

 たぶん、だけど、私の葛藤は皆も抱いている事だと思う。

 当のアルテミスさんやヌエさん、アフラさんは、私以上にその想いは強いはずだ。

 私が言っている事は確かに第三者のワガママかも知れないけど、事実でもある、と思う。

 だけど。


 「私は、アルテミスさんのあの船を囮にするっていう意見に賛同します。ただ。」

 「ああ。」

 「わかってるって!」

 「あの場所、この星におけるノアの民の故郷は死守します。」


 何というか、みんな私の決意を待っていたみたいな雰囲気だなぁ。

 シャルルも私と同じ意見だったんだろうな。納得してくれたみたいだ。

 意思統一ができれば、事も運びやすいのは何事においても同じだ。

 迷いや戸惑いは、いざという時には隙を、あるいはこちらに損害を出し相手に利する事になってしまう。

 あっちの世界の鉱山村での一件、私が手傷を負ったのは当にその通りだったんだ。


 でも、そういう面も確かにあるんだろうけど。

 何より、ここに居るメンバー全員が、一人一人を尊重しているっていう事が大きいんだと思う。

 ナイナさんもアルテミスさんも、ヌエさん達も出会ってまだ間もないけど。

 確かな絆が築かれた、そう実感できた。


 素直に、涙が出るくらい、それが嬉しかったなぁ。


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