第138話 メナス


 接敵予測ポイントへと到着した。

 さすがにこの周辺は兵士さん達でも滞在するのが困難なので、これ以降は自力で相手を見つけないといけない。

 と思っていたら、わりとすんなり発見できた。

 

 「リンツ、ディアマンテス01。IDしました。」


 無線機でリンツへ情報を送る。

 このままこちらの実況がわかるように、無線機の送信はONのまま固定にした。

 と同時に、メナスの前へと急ぎ展開し行く手を阻む。

 大雪の中、私達とメナスは対峙したんだ。


 「この前の個体とは明らかに違いますね。」

 「ああ、コイツ等、メナスの中でも上位の存在、なのかもな。」

 「パッと見は完全に人、ですね。」

 「ああ、だけどよ、アーマーだと言われりゃそうとも見えるな。」


 お互いの距離は20メートル程、もうこの距離は私達にとっては間合いの範囲だ。

 私はヴァイパーを構え、シャルルがイーグルを構える。

 ルナ様とウリエル様はその後ろで、って、あれ?


 「ルナ様?それは?」

 「ああ、創った。」

 「創ったって……」

 「ウリエル様も?」

 「ああ。こりゃワールドのコピー、だな。」


 二人は剣を持っていた。

 形状はヴァイパー、イーグルと似ているけど、その前身のファントムに近い。


 「さしずめ“ファントム改”ってとこか。ま、気にすんな。」


 そうして4人で剣を構えて相手の出方をみる。

 5体のメナス。

 歩みを止め、こちらを睨みつつ同じように武器を構えている。

 この段階で、猪突猛進なモンスターとは一線を画す、という事が理解できる。

 つまり、高度な知恵を持っている、という事だ。

 

 5体は1体を前衛に、4体がその後ろに一列に並ぶ隊形を取っている。

 その後ろの1体が、光の礫、つまりレーザーを放ってきた。

 光の速さのレーザー、聞けばこの手のものは光そのものなので光と近い速度というのも当たり前なんだろうな。

 けど

 それはヴァイパーとイーグルで受け、そのまま霧散する。


 前衛に立っているメナスが、それを驚愕の表情で見ていた。

 というか、能面みたいだと思ったけど、ちゃんと表情も作れるのね……

 すると、そのメナスは構えを少し緩め、こちらに数歩寄って来た、と思ったら


 「そうか、オマエラが報告にあったエネミーか。」

 「えねみー?」

 「敵ってこった。」

 「っていうか……」

 「言葉を?」

 「ワレラはこの先に用がある。邪魔だ、どけ。」


 驚いた。

 というか、信じられなかった。

 知恵どころか、意思疎通ができるなんて……

 やはり、モンスターとはその生態系というか、存在そのものが違うって事なんだろうか。


 「この先に何の用だ。こちらはここを守る為に居る。お前達は何なんだ。」

 「ワレラはワレラの障害となるソンザイを消滅する。オマエラこの星の生命体など使い捨ての駒でしかない。抵抗する者は消す。」

 「お前達の障害、だと?」

 「オマエラは何故ワレラの邪魔をするか?」

 「言った通りだ。ここを守るためだ。」

 「ソウか。オマエラはアレの仲間か。なら、ココで消えろ。」


 そう言って5体は一足飛びに襲い掛かってきた。

 やはり、相当な強さと速さだ。

 けど


 「ムウ……」

 「オマエラは……」


 覚醒状態の私とシャルル、完全体となったルナ様とウリエル様、そんな私達にとってこの程度なら問題ない。

 再び間を空けてお互いが構えて対峙する。


 「お前達に聞きたい事がある。」

 「……」

 「アレ、とは何だ?」

 「オマエラのナカマ、惑星に来ては生物を狩り取り尽くす存在。」

 「何だと?」

 「おい、てめぇらこそがこの星の生命体を襲ってるんじゃねぇのかよ?」

 「ワレラはそんなモノに用はない。オマエラの言っている事も理解できない。」

 

 これって、ちょっと話というか、状況がかなり複雑な感じになってきたんじゃないかな?

 これらはメナスで間違いはない。

 モンスターと違って、襲撃の目的は聞く限り自分達の脅威に対して攻撃を仕掛けている、って事だよね。

 でも、ノアの民の船が脅威って、どういう事なんだろう?


 「オマエラが敵性存在だと理解した。排除する。消えろ。」


 そう言うと、さっきと同じように襲い掛かってきた。

 それに呼応しこちらも攻撃に出る、んだけど……


 「ルナ様。」

 「ああ、せめて1体でいい。情報が聞ければいい。」

 「はい。」


 メナス側の思惑、意思疎通のできる存在、何某かの生命体のようでもある個体。

 この星の生命体に用はない、とは言っていたものの、すでに人的被害をもたらしているだろうことは間違いない。

 つまり、人間、魔族、ノアの民にとっては脅威であることに変わりはない。

 であれば、脅威は排除するだけだ。

 でも


 「何という事だ……」

 「残りはお前だけだ。話を聞かせてもらおう。」

 「ハナシだと?」

 「お前は、何処から来た。お前の拠点は何処だ?」


 もはや満足に動く事もできない状態のメナス。

 ルナ様とウリエル様が、引き出せるであろう情報をこれでもかと聞きだしている。

 その情報の核心部分に触れようとしたその時。

 そのメナスのボディは変な音とともにあちこちが光り出し、メナスは蹲った。

 

 「みんな離れて!」


 私はとっさに空間魔法で防御壁を展開した。

 フェスタ―様も手伝ってくれたので瞬時に3重の防御壁が、私達とメナスの間にできた。

 と同時。

 メナスは爆発した。


 爆発はかなり大規模で、衝撃波と爆風と爆砕したメナスの破片だろうか、それらで防御壁は2枚粉々に砕かれた。

 防御壁を回り込んだ爆風が私達にまでかかったけど、少し熱かっただけで済んだみたいだ。


 「おおー、怖ぇ怖ぇ。」

 「自爆、か。」

 「自爆っていうより、何か処分されたって感じですね。」

 「でも、よく気づいたねディーナ。助かったよ。」


 ひとまず5体は処理した、事になったのよね。

 でも、おかしなことを言ってたな。


 「聞いた限りじゃ、な。」

 「ああ、こいつ等はどうやらアルテミス達に用があるみたいだな。」

 「アルテミスは何か知ってんのかな?」

 「どうだろうな。一旦戻ってその辺りを聞いてみるか。」

 「あ、でも『後続が』どうのこうのって言ってませんでした?」

 「恐らくはこいつ等の後続部隊って事だろう。そうなると、だ。ディーナ。」

 「はい。」

 「すまない、負担になるがリードとベルをここに配置して、移動も頼めるか。」

 「わかりました、すぐに展開しますね。」


 リードとベルには、このトンネル入り口を中心に半径50キロの範囲で警戒にあたってもらう。

 そして

 私達は、新たに知り得た情報を携えて、リンツへと引き上げたんだ。

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