第136話 新たなモンスターは“メナス”


 モンスターに係わる現状は、若干の複雑さを孕みつつ変化している事は確実だ。

 ただ、依然人々にとって脅威であることに変わりはない。

 なので、私達の行動指針としては今のまま、という事にしておく。

 でも、戦力の増強は必要、かもしれないね。

 ただ、トキワお兄様はいつまでもここに滞在しているわけにもいかない。

 国王が国を長く空けておく事もできないからだ。

 

 「という事で、だ。ここにはあと2小隊を駐在させた方がいいな。」

 「そうですね。お兄様はイワセに戻るし、となるとキューキさんとナイナさんも、よね?」

 「我はここに留まっても良いけど、どうしようかトキワ?」

 「そうだなぁ。」

 「ウチはここに残る。トキワの傍に居たいけど、なんとなくその方が良いような気がするし!」


 結論として、ここリンツにはディアマンテスとナイナさん、ヌエさん、グリペンさん、アフラさんの4人組が待機することになった。

 これで3組の討伐隊が配備された事になる。


 「もう一組は後で考えるとして、当面はそのメンバーで対応してくれ。」

 「はい。」

 「ひとまず、イワセ王国としての方針は少し修正も必要になるからな。国でその議題を詰める事にする。」

 「会議、ですか?」

 「そうだね。ここのメンバーはこのままここで待機していてほしいんだ。会議の内容は逐一こちらへ報告、その後書面で議事録として送る。」

 「わかりました、お兄様。ところで、あの変なモンスターと今までのモンスターの区別って、どうしよう?」

 「うん、考えてたんだけど、もはやモンスターって一括りにできないしな。さっきの話だと、明確な外見上の違いは明確じゃないけど、識別はしないとな。」

 「モンスターとは別の呼称、よね?」

 「ああ。新たな敵性存在だし、そうだなぁ……メナス、って呼称にしよう。」

 「メナス……」


 モンスターとメナス。

 その最大の違いは、あの人型の個体だ。

 外見上はパッと見判別は難しいけど、思い出してみれば明らかに違う点もあった。

 顔だ。

 今までの獣人型とは違い、能面のような感情が乗っていない人間の顔。

 しかし、瘴気に中てられ変化した人間とも違う、鋭い活きた眼。

 あっちの世界では気付かなかったけど、あっちで見た人型アーマーと類似しているような気もする。

 そして何より。

 もはやモンスターとは格段に違う強さだ。


 翌日、お兄様はイワセへと帰っていった。

 アルテミスさんが転移を行い、こちらへ戻る時にはヌエさんとグリペンさん、アフラさんが一緒だった。

 私とシャルルの姿を見た3人は


 「あなた、まさか……」

 「ディーナとシャルル、なのか?」

 「す、凄い。我の戦闘形より、何というか……」


 と、一様に驚いていたけど、どうやら納得してくれたみたいだ。

 こうして私達は、待機に着いたんだ。


 「なぁ、ルナ。ジーマの人型アーマーってかアレ、アトモスフィアやラヴァに近いよな?」

 「ああ。ただ、無機質な感じはするが、明らかに有機体だ。アーマーではない事は確か、なんだが……」

 「可能性の話、なんだけどよ……」

 「ウリエル様?」


 ウリエル様が感じた事。

 それは、このメナスはジーマのアーマーを基にしているんじゃないか、という事だ。

 今の所、メナスはコアから出現した物体ではないという可能性が高い。

 さっきの話、コアとは別の何か、があるのではないかという推察と合わせ、それらはモンスターと違うという推測の根拠にもなる。

 それに加え、前回のスタンピードの時には存在していなかった。

 進軍の仕方や、獣型に跨り騎馬隊のような振舞は同じに思えるけど、戦術というか、闘い方はまるで違っていたし。

 それらはアーマー、つまり軍隊の行動や戦闘技術に則したものに思える、という事だ。

 だけど。


 「でも、ジーマはすでに存在していないし、ルナ様と共にこちらに来たアーマーは全て処分されたんですよね?」

 「ああ。だからそこから何某かが流出した、という線は無いと思う。しかし、だ。」

 「アイツが言ってたんだけどよ、それ以前には何か繋がりはあったかも知んねぇ、って事なんだ。」

 「それが何かは判らんが、ジーマとの関連、という可能性はゼロじゃない。」


 「そういえば、ですけど。」

 「ん?」

 「そもそもコアが出来たのって何時なんでしょう?」

 「うーん、考えたことも無かったな……」

 「あの、それが例えば数千年レベルの昔だったとして、ですけど。」

 「あ、それってもしかして……」

 「うん、なぜ今になってメナスみたいな存在が現れたのかなーって。

 だって、同じ時期に発生したという事なら、昔からメナスのような存在が居たはずだし、だけどメナスが確認されたのはつい最近です。

 そうなると、メナスの出現っていうのは、変化点としては200年前の星の統合あたり、になるのかなーって。」

 「うーん、もはや、私達では想像すらつかない何か、が起こっていたのかも知れないな。」

 「アズラやアルテミスが言ってた“末期”ってのも、何か関係してんのかもな。」

 「こうなると、シヴァ様やエルデ様くらいの存在でないと理解できない事なのかも知れませんね。」

 「ちょっと、シヴァに相談してみるか、とはいえ、今はココを離れられないな。」


 「そうじゃないかと思ってな、こっそり来てみたぞ。」

 「シヴァ様!?」

 「マスミよ、わらわは甘いコーヒーが良い。」

 「は、はい、すぐに!」


 シヴァ様が来た。

 突然に。


 「あまり長居はできぬのでな。早速じゃが、話は理解した。」

 「理解したってお前……」

 「第三のコアの事じゃ。それはの、あのトンネルにあるモノとは違うのじゃ。」

 「「 はい? 」」

 「何だと?」

 「うむ、ここ最近わらわと姫神子、エルデでな、その辺の調査は行っておったのじゃ。んんーこのコーヒー、美味じゃ!でかしたマスミ!」

 「うふふ、ありがとうございます。」


 シヴァ様によると


 そもそもコア自体、シヴァ様やエルデ様ですらその存在は察知できていなかった、というのは聞いていた事だ。

 でも、それが明らかになった今、近似した存在というのを探すのは可能だという。

 そうしてシヴァ様は独自に星全体の調査をしていたらしい。

 その中で、ユラシア大陸の北西にある氷の島に、コアに似た“構造物”があったらしい。

 

 「発見して数日後、その構造物をな、再度調べようとしたのじゃ。すると、その構造物は消えておったのじゃ。」

 「消えていた?」

 「うむ。それ以降、再発見はできておらぬ。」

 「それって……」

 「でな、エルデが言うには、じゃ。それはこの世界の物体ではないかも知れぬ、という事じゃ。」

 「この世界、というと、やはりジーマか?」

 「そこが判らぬらしいの。ただ、エルデが言うには、じゃ。仮にそれがジーマからのモノだったとして、ブルーなしで稼働させることはできぬのではないか、という事らしい。」

 「確かに、あそこの兵器全てはブルー、つまり私の指揮管理下にあった。アトモスフィアやラヴァが独断で行動したとしても、それは直に私の元へ報告が入る仕組みになっていたんだ。」

 「という事は、だ。結局はメナスとジーマの関りってのは無いって事か?」

 「そこもまだ何とも言えぬな。ただ、じゃ。今わらわから伝えられるこ事はただ一つ、その構造物とそのメナスとやらは繋がっておる、という事じゃな。」

 

 ちょっと、かなり入り組んだ話になってきた。

 大雑把にまとめてみると、モンスターは今までの通り、メナスはモンスターとは別物、そのメナスは従来のコアとは無関係、という事だね。

 ただ、モンスターは元々人間を襲う事がその存在意義みたいなところがあった。

 けど、少なくともメナスは、人間や魔族は眼中になく、あくまであのトンネルに用がある、という事なんだろうか。

 

 「さて、もう戻らねばならぬな。ディーナ、シャルルや。」

 「「 はい。 」」

 「凛々しい姿じゃな。が、その姿では何かと難儀じゃろう。戻る術を教えようぞ。」

 「え?」

 「シヴァ様、解るのですか?」

 「うむ、簡単じゃ。気を静め、精神的な衝撃を加えればよい。」

 「それって、どういう?」

 「マスミ、アレはまだ有ったであろう?」

 「アレって、もしかして……」

 「あ奴特製のドリンクじゃ。半分も飲めば元に戻ろう。」

 「「「「 …… 」」」」


 私もシャルルも、固まった。

 ルナ様とウリエル様は、またうげーっていう表情で固まった。

 けど、このままだと困るのも事実なので、マスミお姉様が持ってきてくれたドリンクを半分こして飲んだんだ。

 と


 「あ、戻った……」

 「マジで?」


 戻ったは良いけど、素っ裸だ。

 ちょっと、恥ずかしい。

 でも、元に戻れて一安心だよね。

 

 「ね、姉ちゃん、とりあえずコレ。」

 「ちょっと、汗臭えけどさ……」


 タカとヒロはマントと上着を渡してくれた。

 この子たち、意外と紳士よね。


 「因みにじゃが、何度か変化するうちに自然と自分の意志だけで戻ることはできよう。それまではソレで戻るがよいぞ、ふふ。」


 そう言ってシヴァ様は帰っていった。

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