第135話 デブリーフィング

 「っと、あれ?終わってたのか?」

 「トキワ、あれ、何?」

 「ん?あ、あれは!」

 「何だあれ、こ、怖ぇ……」


 「おお、トキワ殿も来たか。」

 「ルシファーさん、あれって、」

 「うむ、あの二人じゃよ。」


 少し離れた所に、トキワお兄様達、タカ達が来ていた。

 どうやら他のメンバーも討伐が完了してこちらに来てくれたみたいだ。

 でも、もう終わっちゃった。

 

 と、みんながこちらに走ってくる、んだけど。

 キューキさんとナイナさんは、ちょっと微妙に怖がっている気がする。

 一様に驚いているというか、珍しいモノをみているような感じだ。

 それってやっぱり、間違いなくこの姿、だよね。

 私達の元に来たトキワお兄様は、嬉しそうな、それでいて少し悲哀を感じさせる表情だった。


 「ディーナ、シャルル……ご苦労様だったね。」

 「お兄様、来てくれたのね。」

 「みんなも、ありがとう。」

 「お前達のその姿、アルチナ母さんとシャヴィ母さんの真の姿そのものだね。凄いよ。」

 「あー、でも……」

 「自分じゃどんな姿なのかちょっとわかんない……」

 「もしかして、凄く変な姿なのかな?」

 「アンタを見る限り、そうは思わないんだけど……」

 

 シャルルの姿は、私としては凄く凛々しく力強く、カッコいいと思う。

 シャルルも私をみて同じ事を言ってくれたけど、キューキさんとナイナさんの反応を見る限り、微妙な感じなのかもしれない。

 お兄様の反応も気になるし。

 そう思っていたら


 「ディーナ姉!シャルル姉!凄ぇ!凄ぇカッコいい!」

 「オレ、ヤバい、姉ちゃん達好きになっちまうかも!」


 タカとヒロは、目を輝かせて私とシャルルを見ている。

 えーと、これは喜んで良いんだろうか。


 「ともかく、お疲れだねディーナ、シャルル。さ、もう終わったんだ、元の姿に戻っても大丈夫だろ?」

 「あー、お兄様、その、それが……」

 「元にって、どうやって戻るの?」

 「お、お前達……」


 真の姿、であるのは間違いないんだと思う。

 というか、普段の姿も、私達の本当の姿であることは間違いないんだけど。

 でも、この姿はたぶん異形すぎるし、普通の人間や魔族から見れば、やっぱり少し怖いんじゃないかな。

 で、この姿になったのは良いとして、戻るにはどうすれば良いのか、皆目見当もつかないのも事実なんだ。

 もしかして、ずっとこのまま?


 「ふむ、まぁ、何となくこうなるとは思っていたでありんすが。」

 「「 あ、ツクヨミ様。 」」

 「ツクヨミさん、来てたんですね。」

 「トキワよ、ひとまず引き上げるでありんす。二人の件については大丈夫だと思いんす。最悪、戻る術はアルチナかシャヴォンヌに聞けばよい。」

 「そうです、ね。じゃあ、帰るか。色々は帰ってから話そう。」

 

 こうして二度目と思われるスタンピードを制圧し、私達はリンツへと戻ったんだ。

 で、リンツに戻ると

 マスミお姉様が、何とも言えないすんごい表情で出迎えてくれたんだけど。


 「はぁー…アンタ達、カッコいい……」

 「へ?」

 「お姉様?」

 「あ!いやいや、というか、その姿はアレなのね!?」

 「お姉様も知っていたの?」

 「私もアルチナ母さんとシャヴィ母さんのその姿知ってるもの。私すんごく憧れてたんだよ。」


 と、リビングからルナ様とウリエル様もやって来た。


 「ご苦労だったな、二人とも。」

 「ほぇー。お前らついに、か。こりゃすげぇな。」

 「ルナ様、ウリエル様、起きていて大丈夫なんですか?」

 「ま、まだ横になっていた方が?」

 「何言ってやがる。お前らのその姿を見たら、寝てなんていられねぇって。」

 「あはは、そうだな。ある意味ここは祝うべきだろう、な、ウリエル、ツクヨミ。」

 「ああ、お祝いだな!」

 「むふふ、そうでありんすな。まぁ、当の二人は困惑しておるようでありんすが。」


 全員がリビングに集結して、今回の出動の情報共有とまとめを行う事にした。

 私とシャルルは体が大きくなったのでソファーに座らず、というか座れず立ったままだ。


 「てことで、だ。ディーナとシャルルの状態については後ほど、という事で。」

 「そうですね。私達の所、トキワ殿の所、そしてディーナ達の所、それぞれが今までとは完全に一線を画す相手だったようですね。」

 「もはやアレらはモンスターという認識では追いつかぬじゃろう。コイツ等がディーナ達同様、本気の姿になってようやく相手できたレベルじゃ。」

 「俺達の所もそんな感じでした。キューキとナイナさんのお陰で処理はできたけど。」

 「その中でも、だよ。私が感じた限りじゃディーナとシャルルが相手した集団は断トツでヤバい感じだったね。」


 まずもって、モンスターが集団戦で、なおかつ人型のアレは訓練された戦士のような動きのような感じだったというのが異様なんだ。

 それに、武器を使いこなすし、光の礫、たぶんレーザーとかいう奴だろうけど、そんな術も使ってきた。

 雰囲気としては、あっちの世界の人型アーマーといった感じだ。

 何より、その強さはもはや魔族の兵が多対1でも到底太刀打ちできないくらいだ。


 「元人間、つまり瘴気に中てられ変化した人間、という線は無い、と思います。」

 「そう、だね。ディーナに襲い掛かった個体って、人型ではあるけど根本的な部分が人間とは異質な気がしました。」

 「俺たちが相手したのも、確かに人型だけど人間じゃねぇのは解ったよな?」

 「ああ、それにあの光る攻撃ってのは、魔法とも違うみたいだしな。」

 「というかさ、タカとヒロは何でディーナとシャルルと並んで立ってんの?」

 「へ?」

 「何でって言われても。」


 「あははは。ま、そこはまた後で突っ込もう。それよりもだ。聞いている限りだと、それはもはやアーマーだな。」

 「光の云々ってのは、レーザーというよりビーム、だな。どう違うかってのは置いとくが、機械的なモンじゃねぇんだろう。」

 「ルナ、それってフォトンみたいなもの?」

 「ああ、アルテミスなら理解はできるだろうが、それを機械無しで活用できる、という点で異質なんだ。」

 「という事は、その実態は光子力ではない、と?」

 「非物理的、非化学的な現象、と言えるな。ただ、それに類するものは魔法の類にも存在するが、それを使える者は限られているな。」

 「あの、ちょっと良いかな?」

 「ん?どうしたのナイナさん?」

 「それってさ、ウチらも似たような事できるよ?」

 「へ?」

 「あ!そうでありんす。わっちの父様、ナイナ、他にも少数ではあるが、その手の攻撃手法を使えたはず。」


 何というか、謎がどんどん深くなっていっている気がする。

 あのモンスターの光の礫、あれは間違いなく光りを収束して攻撃として放ったものだ。

 この身に直接受けたから、それはたぶん合っていると思う。

 でも、科学的なモノであるにしろ非科学的なモノであるにしろ、それはこれまでにない大きな脅威でしかない。

 もちろん、そんなモノに対抗する手段もない。

 私とシャルルはこの体が弾いてくれたから大丈夫だとは思う。けど。

 あの攻撃に関してだけ言えば、完全に手詰まり、って事よね。


 「まぁ、手はない事もない、とは思うけどな。」

 「ウリエル、何かわかるのか?」

 「ジーマに行った時だけどな、カスミやサダコが身に着けていた防具はよ、レーザーを防いでたぜ。」

 「そうなの?」

 「ただな、限界はあったみてぇだけどな。」

 「ウリエルさん、それってどういう防具なんですか?」

 「何でもな、マリューが“龍の鱗”で作ったらしいぜ。」

 「龍の鱗……」

 「まぁ、その龍の鱗自体、貴重なモンだし現存するかも判らねえけど、今残っているそれを解析すりゃ類似効果の術は導き出せるかもな。」

 「それってまだウチに有るんですか?」

 「たぶんな。カスミ達にとっても想い出の品だろうからな、あると思う。」


 それが可能なら、対レーザーらしきものへの手段は何とかできる事になる。

 となると、残る問題はモンスターそのもの、よね。


 一回目のスタンピードから今回まで、コアからのモンスター出現は確認できていないのは事実。

 もっとも、海底のコアは実の所はわからないけど。

 そうなると、あれだけの数のモンスター、それに突然変異ともいえるあの人型のモンスターは、一体どこから来たんだろう。

 先日話に出たみたいに、自ら分裂行動をして数を増やしたんだろうか。

 でも、それだと人型のあの強さはそれとは関係ない話ではある。


 「どうも、な。」

 「うむ、ワシらも薄々思っている事なんじゃがな。」

 「コアとは別の何か、が……ある、という事なんでしょうか?」

 「そういう答えに辿り着きますね。」


 事実として、コアの存在は200年前までは誰も知らなかった事だ。

 シヴァ様でさえ、エルデ様でさえ、だ。

 似たような存在、あるいはシステムが他にもあるとしても、不思議じゃないし可能性はあると思う。

 なにせ事態の辻褄が全く合わないんだもの。

 むしろ、そう考えると全ての辻褄がカッチリと嵌る。

 それに


 「例えそうだとしても、コア、そしてそれ以外から排出されたモンスターが、あのトンネルを目指す理由って……」

 「まさにそこが問題、という事だな。アルテミス、あの居住区のコアもどきはまだ稼働状態にあるのか?」

 「うーん、あると言えばあるけど、ディーナ達が来た一件以来、兵の生成は実行してないし、あの変な気、瘴気だったっけ、あれも廃棄したしね。」


 謎が謎を呼ぶ、モンスターの現状。

 情報集めも必要になると思うけど、残された時間も少ない。

 今、私達にできる事と言えば、だ。

 発見した時点で対処する以外に無い。


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