第134話 真の姿

 400体ものモンスター。

 その全てが、これまでとは様相が違っている。

 中でも、獣型に跨っている人型のモンスター。

 いえ、あれはもはやモンスターじゃないような気もする。

 

 「シャルル、ちょっと、ヤバいかも……」

 「何コレ、本当にモンスターなのかな?」


 既に覚醒状態でいるにもかかわらず、処理できたのはまだ20体ほど。

 接敵してもう10分くらいは経過していると思うんだけど、何なんだろう、この強さは。

 群れ自体の進撃は止める事ができたけど、囲まれてしまったみたいだ。

 そうなると群れの端から進撃を再開する個体も出てくるだろうし、ちょっとマズイなぁ。


 「とはいえ、今は片っ端からやるしかないね。」

 「うん。ペアで行こう。」

 「うん、背中は任せたわよ!」


 考えていても変わらない、なら、面倒でも一つ一つ片付けるしかない。

 幸いな事に、群れは私達に集中攻撃をかけるつもりみたいだ。

 なので進撃が再開される事は、今の所ないかも知れない。

 でも、それでも早めに片付けないと。


 とはいえ。

 特に人型がかなり厄介だ。

 こちらの攻撃を受ける事はせず、躱していちいち距離を取る。

 戦い方が、本当に兵士のような感じだ。

 単に力任せの攻撃じゃない。

 私達の動きをよく見て、出ては引いて連携して、確実な戦法を使ってくる。

 その上、ヴァイパーとイーグルが触れるだけで致命的なダメージになるって事に気付いているみたいだ。

 ならば、と。


 フェスタ―様とサラマンダ様の助力で、集団の中へと魔法を放った。

 数体のモンスターが塵と化したが、耐えた個体の方が多い。

 シャルルも同じく魔法を放ったが、結果は同じみたいだ。


 「あれだけの魔法があまり効かない!?」

 「こ、こっちもだよ!」


 少し焦る。

 心なしか、体力も心許ない気がする。

 まる2日以上寝ていなくて食事も摂っていないから、なのかな。


 すると、獣型に跨っていた人型20体程がそこから降りて私達に襲い掛かる。

 尋常ではない迅さと、攻撃の重さ。

 それに加え、何やら光の礫みたいなものを撃ってくる。


 「ちょ!これ!」

 「マジなの?」


 光の礫、それはアーマーのレーザーと同じみたいだ。

 アレの破壊力はあっちの世界で目の当たりにしたから知っている。

 かなり厄介だ。

 剣と槍による攻撃、レーザー、その上あの迅さと力強さ。

 もはやモンスターじゃない。

 と

 攻防を続けるうちに、何時しかシャルルとの間隔が大きく空いてしまった。

 そして、8体が同時に私へと襲い掛かる。

 逃げ場はない、捌くにも数が多い、ならばと光の爆発魔法で吹き飛ばそうとした。

 けれど。


 相手の持つ槍の先端が、さらに細く鋭いものに変化している。

 爆発魔法の発動の、一瞬前に、その槍の穂先が私の眉間へと突き進んでくる。

 スローモーションの世界。

 そして、危機も何も感じない感覚。

 あの時、覚醒した時の様な感覚に包まれる。

 でも

 迫りくる槍の先は止まらない。

 私の眉間に、その先端が触れる。

 冷たかった。

 とても、冷たかった。


 「ディ!ディーナアアァァァ!!!!」


 叫ぶシャルルの声が聞こえる。

 そのシャルルも、敵に囲まれているのが分かる。

 助けないと!

 守らないと!

 敵を、殲滅しないと!!

 その想いだけが、心を、身体を支配する。


 槍の先端が眉間に触れ、冷たさと少しチクっとした痛みを感じた瞬間。

 爆発魔法が発動し、私の周囲は爆炎に包まれた。




 「ディーナ……ディーナァァァァ!!」


 複数の槍撃で串刺しにされようとしているディーナが見えた。

 防御も反撃も、その隙も無い状態というのは手に取る様に分かった。

 眉間へと突き出された槍、それがディーナの眉間へと刺さろうとする瞬間を見たんだ。

 鳥肌が立つような感覚、そして恐怖と怒り、何よりディーナを助けないと、という想いが、一度に心を支配する感じがする。

 光の魔法なのか、爆発に包まれるディーナとモンスターは、爆発によって巻き上げられた土煙で見えなくなった。

 そして

 私が、私じゃなくなった。

 それを自覚するのに、時間は掛からなかった。


 これまでにない感情の奔流と静寂。

 これまでにない湧き上がってくる力。

 これまでにない感覚。

 

 私を囲んでいたモンスターを、イーグルの一振りで消滅させている。

 今の今まで苦戦していたモンスターを。


 と、土煙が晴れてきた。

 ディーナは、ディーナは無事なの?

 そんな想いは、土煙と同時に消えていく。

 爆発の中心部だった所に、誰かが立っていた。


 「え?ディ、ディーナ?」

 「あれ?シャルル!?」




 気づくと、周りのモンスターは消滅していた。

 眉間で感じていた冷たい感覚は無かった。

 そして、目の前にとってもカッコイイ女性が立っていた。

 というか、この気配はシャルルだ。


 「シャルル、あんたその姿……」

 「ディーナこそ、それ、何?」


 シャルルは身長が少し、というかだいぶ伸びてた。

 2メートルを超えてる。

 固く滑らかな質感の角、鋭い目つき、背中に生えた龍の羽と強靭そうな尻尾。

 全身が赤っぽい皮膚で覆われているような感じ。

 何よりも闘気が尋常じゃない程溢れている。


 そして、自分を見てみると。

 同じように体が大きくなっているみたいだ。

 青みがかった肌、背中に羽も生えているみたいだ。

 さすがにどんな姿になっているか全貌は把握できないけど、シャルルの驚きようはシャルルと似たような姿になっているんだろう。


 「これってまさか……」

 「ルナ様とウリエル様が言ってた、真の姿ってやつ?」

 「お母様達と同じって事かな?」

 「どうなんだろ。ていうか、まだ途中だった!」

 「そうだった!」


 私達を囲んでいたモンスターの集団は、その動きを止めていた。

 何というか、ドン引きして固まっているかのようだ。

 というよりも、手を出せない程の闘気に圧倒されている感じだ。


 「考えるのは後ね。」

 「そうだね。何というか、力が漲ってる。」

 「私も。じゃ、殲滅しよう。」

 「オッケー。」


 とても体が軽い。

 さっきまでの焦燥感も消えている。

 初めて覚醒して盗賊を屠った時の様な感じだけど、今はその何倍もの感じだ。

 不思議な事に、ヴァイパーは意思を持ったかのように私を導く。

 シャルルのイーグルも同じみたいだ。

 

 あれだけ苦戦していたモンスター。

 さっきまでの苦戦が嘘のように、モンスター達は虚弱に感じる。

 光の礫を放ってくるけど、私もシャルルも肌がそれを弾いている。

 実感する。

 もはやこの程度のモンスターは、私とシャルルの敵じゃない。


 100体程を一瞬で殲滅した。

 それを見たモンスター達は、相手するのを止めて本来の目標へと向かうんだろう、一斉に西方向へと走り出した。

 けど。

 それを見逃す事はしない。

 群れの先頭へと一瞬で回り込み、群れを蹂躙する。

 全滅させるのはもう時間の問題だ。



 ―――――



 「間に合ったかの…んん!?」

 「あ!アレ!」

 「うん?誰か暴れてんな。ディーナ姉とシャルル姉は?」

 「あ、あれはまさか……」

 「ほほう、あの二人、ついに、か。」

 「え?じいちゃん、あの二人って?」

 「まさか、あれ……」

 「そうじゃ。ディーナとシャルルじゃよ。アレが二人の、真の姿だ。」

 「「 ほぇー……かっけぇなー……おっかねーけど。 」」

 「ほッほッほッ、今のあの二人は、お前達より遥かに強いぞ?」

 「マジか!」

 「あー、でも、やっぱあんな姿でも美人なんだな、ディーナ姉とシャルル姉。」

 「タカ、お前はそんな所しか見ておらんのか?」

 「でも、オレもそう思うぜ?」

 「やっぱりお前らはそうなんじゃろうな、まったく。」



 ほどなくして、戦場は静けさが支配した。

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