第133話 勇ましき者、タカとヒロ

 ディーナ達がモンスターの集団を発見したのと同じころ。

 タカ達はモンスターの群れを阻止しようと奮闘していた。


 モンスターの集団は、80体程の獣型、そして20体程の人型のモンスターらしきものがそれに跨っている。

 騎馬隊、という感じだ。

 タカ、ヒロ、アズライールがその騎馬に攻撃を加えるが、防御と反撃がこれまでとは段違いのレベルだった。

 これまでのモンスターとは、中身が全く違う、という事なんだろう。


 「じいちゃん!なんだよコイツら!?」

 「ハンパねぇ強さだぜコレ?」

 「二人とも相手をよく見て!脅威は人型のみです。そっちに注力して!」

 「集団の足はワシが押さえておくぞ。横に広がっていくでの、漏らすなよ。」

 「ああ!」

 「わかった!」


 タカとヒロはお互いをカバーするようにペアで戦っている。

 防御の薄さは先日のディーナ達との手合いで明らかになった課題だ。

 そこをカバーする為の戦術だ。


 ヒロが人型のモンスターへと斬りかかる、が。

 跨っている獣型のモンスターの動きが尋常ではない速さだ。

 あんな動きをしたら、普通は乗っている者は振り落とされるだろう。

 が、人型はそんな物理法則を無視したように何事も無いように跨ったままだ。

 しかも


 「あちぃッ!」

 「マジかよ!?」


 何やら魔法らしきものまで使ってきた。

 人型の指先から光の線が放たれ、ヒロのお尻を焼いた。


 「熱かった!なんだよアレ!」

 「魔法、じゃねぇな、魔術でも無さそうだけど。」

 「お前ら、それには気を付けるんじゃ!なるべく避けるようにな!」

 「ああ。わかったよじいちゃん。」

 「少し、オレらも遊びが過ぎたかな、じゃあ!」

 「ああ、いくぜ!」


 タカとヒロの気配が変化する。

 顔つきが変わり、体が少し大きくなった感じがする。 

 身に纏う闘気に至っては倍増どころではない程大きくなった。


 ペアで行動していたが、そこからは別行動を始める。

 もはやディーナ達でさえ動きを追うのが困難なほど、その動きは迅かった。

 人型のモンスターはその動きに驚いたようだったが、すぐに戦闘態勢に戻る。

 が、だからと言ってそれに対処する術がなかったようだ。

 防御する間もなく、一陣の風が去ったと思ったら切り刻まれていた。


 不明な事ばかりの今回のモンスター、もはやこれまでとは全く違うとルシファーもアズライールも認識したのだろう。

 ルシファーは老人の姿から本来の姿へと変化し、アズラもまた戦闘に適した姿へと変化した。


 「じいちゃん、アズラさん、残骸を頼むよ!」

 「俺らはとにかく切り倒す!」

 「任せておけ!」

 「塵すら残さず、ですね。」


 既に20体の人型は、タカとヒロに切り刻まれた。

 あれだけ強敵と思われた、未知の強さのモンスターらしき新たな脅威ではある。

 しかし

 本気を出した二人の前には、それも意味のない事らしい。

 タカとヒロの二人は、それ程の境地に達しているのだ。

 

 時間にして40分程だろうか、初動で手こずったので時間はかかったが群れは全滅できた。


 「疲れたぜー、てか、コイツ等やっぱおかしいよな。」

 「ああ、オレらが本気ださないとダメなレベルって相当だぞ?」

 「バカ者。普段から本気を出せ。とはいえ、そうじゃな。これは……」

 「あ、そういや後続ってシャルル姉達が当たったんだよな?」

 「ディーナ姉達って、今二人だけだろ?相手がコレだとヤバいよな!」

 「ああ、シャルル姉ちゃん達寝てないし、疲れもあるんだしな。」

 「ふむ、心配じゃな。早速応援に向かおうぞ。」

 「ベースにはその旨連絡しておきます。」

 「行こうぜ、じいちゃん!」



 ―――――


 時を同じくして、リンツの東方。



 「トキワ、あれは何?我はあんなのは見たことはない……」

 「…少し、厄介だな。」

 

 モンスターの群れを発見したはいいけど、これは何か今までとは違う。

 進軍の仕方、感じられる闘気。

 もはやモンスターとは別物のような感じだ。

 俺で阻止できるんだろうか。

 とはいえ、やるしかない、か。


 「キューキ、ごめんな、こんな事に付き合わせて。」

 「何を言う、何処までも付き合うにきまっているでしょう。」

 「ありがとう。じゃ、久々に本気を出すか。」

 「え?」


 父さんから教えてもらった、自己の能力を最大限に引き出し、なおかつ倍増させる術。

 かつて“羅象門”と呼ばれていた術の、真の使い方だ。

 これを展開すると、その力は父さんをも凌ぐんだ。

 もっとも、スタミナが増えるわけではなく、力も覚醒したディーナとシャルルには及ばないんだろうけどな。


 「トキワ、凄い……なら、我も真の姿に!」


 と、キューキの身体が変化した。

 体が一回り大きくなったと思ったら、人型のまま全身がトラの毛に覆われ、牙も伸びて目つきも鋭くなった。

 全身から放電していて、力強さも普段とは全く違って感じる。


 「あまりこの姿はトキワには見せたくなかった。醜いから。でも、そうも言っていられない……」

 「キュ、キューキ……」

 「あ、あまり見ないでくれ……」

 「か、カワイイしカッコいい……」

 「へ?」

 「あ!いや、うん!醜くなんてない。というか、いい!それ、好きだ!」

 「ト、トキワ?……」

 「よし!行くぞ!」


 「……ウチ、なんか空気だな……」

 「ふふ、何を言ってんのさ。ここはチャンスなんじゃないの?逆に。」

 「ア、アルテミスぅー……」

 「まずは、行きますよ。」

 「そうだな!よし、暴れるぞ!」


 そう言うと、ナイナさんも九尾の狐本来の姿へと戻った。

 その身体は3メートルを超え、黄金色に輝く体からは感じた事もないような気と力が感じられる。


 「トキワ!一緒に行くよ!」

 「ナイナさん!それって!?」

 「ウチもあんまり見ないで欲しいかな。これがウチのほんとうの姿なんだよ。」

 「も、もふもふ……」

 「は?」

 「あ、いや、ありがとうナイナさん。じゃ、片付けるかぁ!!」


 アルテミスさんはそんな俺達に向けて、防御の術なのか魔法なのか、そんなモノを施したようだ。

 一足飛びにモンスターの群れに飛び込む。

 先頭にいる騎馬、というか騎獣か、どっちでもいいけど、それに襲い掛かる。


 俺の剣は安物の普通の剣だけど、それは問題にならないんだ。

 家族の皆は不思議に思っていたようだけど、俺はこれで充分なんだ。俺にとって剣は体の延長でしかない。 

 剣には精神力を纏わせているから、俺が使うとそれは普通の剣ではなくなる、みたいなんだ。


 獣型に跨る人型を集中的に攻撃する。

 流石に今までとは違う、少し手こずるな。

 防御も反撃も、とても堅く鋭い。

 俺一人ではたぶん数体を処理するのも困難だろうな。

 けど。


 人型に向かってキューキは素手で殴りかかる。

 というよりも、その大きな手に生えている鋭い爪で引き裂くような感じだ。

 おまけに、電撃を纏っていてさらに個体に向けて放電する。

 動きが鈍くなった人型は、そうなるともう敵ではないんだ。

 

 斬った個体は、業火に包まれる。

 ナイナさんの魔法?みたいだな。


 三位一体で確実にモンスター達を片付けていく。

 体力が持つかどうかが不安要素だけど、何とか行けそうな気はする。

 というか、キューキもナイナさんも、俺より遥かに強いだろうし体力もあるはずだ。

 

 格闘する事1時間ほど。

 何とか全滅する事ができたようだ。

 とはいえ


 「キューキ、ナイナさん、アルテミスさん、ありがとう。だけど」

 「うん、急がないとね。」

 「ささ!早く行こう。ディーナとシャルルが心配だよ!」

 「そうだね、行こうか。アズラ達も向かったみたいだし、場所も判明してるし、じゃあ送るよ!?」

 「お願いします、アルテミスさん!」


 残るはリンツの南に出現した群れ、つまりディーナとシャルルの援護だ。


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