第132話 スタンピード再び
あれから丸一日と半。
ルナ様とウリエル様は眠り続けていた。
寝汗が凄かったので体を拭いて着替えも何度かしたんだけど、それでも目を覚まさなかった。
ちょっと不安になったけど、アズライール様が大丈夫だと言ってくれたのでその不安は押し殺していたんだ。
昨日作った食事も置いておけないので、それは皆に食べてもらった。
意外にもナイナさんはニンニクがダメみたいで、キューキさんは好物らしかった。
リンゴすりおろし和えフルーツはみんなに好評だったな。
私とシャルルは一睡もせずに二人の看病をしていたんだけど。
夜が明けるころ、気づかないうちにウトウトと船を漕いでいたみたいだ。
と
ルナ様とウリエル様が目を覚ました。
「ディーナ、シャルル……」
「お前ら……」
「うーん…はッ!ルナ様、ウリエル様!」
「お、きた、目が覚めたんですね!?」
「よ……よかったぁ……うう」
「ルナ様ぁ、ウリエル様ぁ……」
「あー、済まなかったな、うん。」
「ほら、大丈夫だからよ、泣くんじゃねぇよもー。」
「だ、だって……」
「ううう……」
「あは、ごめんな二人とも。でも、もう心配いらないぜ。」
「ありがとう、ディーナ、シャルル。もう、大丈夫だよ。」
「グスッ。はい!それじゃ!」
「食事、持ってきますから食べてください。」
私とシャルルはキッチンへと走って行った。
「なんつーか、いらん心配かけちまったようだな。」
「そうだな。あの子ら、心配ないと分かっていてもああいう感じになるな。」
「もう、あれだな。あの優しさや色々はもう父親云々ってことじゃない、あの二人自ら持っている優しさや輝きみたいなモンだな。」
「ああ、あの子達が持つ心、いや魂、なんだろうな。そう考えるとな。」
「はは、アタイらは、いや、二人のの周りにいる奴らってのはよ。」
「幸せ、というやつなんだろうな。まさかあの子達がそんな想いを抱かせてくれるなんてな。」
「もう、アイツの子っていう形容詞は要らねぇな。」
「そうだな。」
キッチンから温め直したお粥を持ってきた。
まだ体も怠いだろうから、私達が口に運んであげるんだ。
「おとっつぁん、お粥ができたわよ。」
「ディーナや、いつもすまないねぇ。」
「おとっつぁん、それは言わない約束でしょー。」
「……お前ら、どこでそんなの覚えてくんだよ?」
「あはは、これ、お父様直伝のジョークです。なんでもこういう時の“様式美”なんだとか。」
「ふふ、まぁ、よく覚えてたなディーナも。」
「さ、先を越された……」
「シャルル、お前もかよ。」
そんな感じで食事も終わり、着替えもして再びベッドで横になってもらった。
ルナ様もウリエル様も大丈夫だとは言っていたけど、やっぱりまだ心配だものね。
二人が横になったので私達もリビングへと戻った。
気が付いたという事を皆に報告したところで、私もシャルルもソファーに身を沈めた。
気を抜くとすぐに眠れそうな感じだ。
「お疲れだったな、二人とも。寝てないんだろ?」
「安心して寝てなさいね。食事の用意が出来たら起こすからさ。」
「ありがとう、トキワお兄様。」
「ありがとう、マスミお姉様。」
どっと安堵感が押し寄せてきて、私達は半分ほど夢の世界へと沈んでいった。
でも。
こちらの事情などお構いなしに、世界は動いている。
通信機のブザーが、気を抜くなと言わんばかりに鳴り響く。
《ディアマンテス!
リンツ、ベクター270、ディスタンス450、ボギー……80!チャンネルコンタクト02、01ホットスクランブル!》
「は、80!?」
「これ!まさか!」
「私達が向かいます。タカ、ヒロ。」
「ああ、姉ちゃん達は休んでなよ。」
「すぐに片付けてくるぜ。」
「では、行くかの。」
タカ達が向かってくれる。
少し看病疲れも感じるのでありがたい、かな。
がしかし、そうは問屋が卸さないようだ。
続いてブザーが鳴った。
事態は急雲風を告げる、まさにそんな感じだ。
《ディアマンテス!
リンツ、ベクター180、ディスタンス300、ボギー200!チャンネルオープン!02ホット!》
「コピー!」
「シャルル。」
「うん。」
と、またブザーが鳴る。
《ちょ!? 追加追加!
リンツ……090、ディスタンス200、ボギー80!こっちもチャンネルオープン!てか、誰か行けるの!?》
「コピー、トキワ兄がいるわ、行けるよね?」
「ああ、任せておけ。結花、ノーザンライツ発動だ。」
《了解、ノーザンライツ発動、全小隊へ通達、データ開示します!》
「トキワ、我も行く。」
「うん。頼む。」
「ここはウチも行かなきゃ、だな!」
「私も手助けくらいはできるでしょう、転移の魔法は使えるからね。同行するよ。」
「ありがとう、ナイナさん、アルテミスさん。」
タカ達、私達、そしてトキワお兄様の3つの組が、それぞれに対処に出撃する。
“ノーザンライツ”というのは、もし対処する者が全部出払った場合にその補填をする為の作戦コード名だ。
発動した場合、最寄りの手すきの小隊がこちらのバックアップ待機に入る事になる。
というか、それよりも。
これは間違いなくスタンピード、よね。
モンスターの集団が目指すのは、やっぱりあのトンネル、というかあの居住区なんだろうか。
ともかく行くしかないんだけど、私達はルナ様とウリエル様抜き、二人での対処だ。
この前のレベル相手なら何とかなる、と思う。
そんな慌ただしい様子は、2階にも伝わったみたいだ。
「ふむ、何やら騒がしくなったのでありんす。」
「こんな時に、かよ。」
「ディーナとシャルルなら大丈夫だとは思うが、何か、な。」
「ああ、イヤな予感がするぜ。」
「そうでありんすが、でも、ルナ達は安静にしているほかないであろう。」
「そんな事も言ってられまい。少し怠いが私らも……」
「よい。ぬしらは寝てるがよいぞ。わっちが赴くでの。」
「お前が?」
「サポートくらいはできるぞ。任せてくりゃれ。ではの。」
それだけ言い残してツクヨミ様は消えたそうだ。
「というか、そんな事もできるのか、アイツは。」
「物の怪ってのは底が知れねえな。ま、とはいえ、だ。」
「ああ、備えておく必要はあるな。」
そう言ってルナ様とウリエル様は、起き上がってリビングで待機していたんだって。
―――――
「ディアマンテス02、目標ポイント付近まであと20、どなたか情報を!」
《リーマ01です! ターゲットは依然ヘディング270で驀進中!この先の都市まで100を切っています!》
「コピー!あ!見えた!ID!ありがとうリーマ01」
《姫様!お気をつけて!》
「シャルル、あれって……」
「マジ?」
あのトンネルへと向かっているモンスターの集団。
200体くらいの獣型の全てに、人型が跨っている。
つまり、数は400体以上、ってことだ。
これはちょっと骨が折れそうだけど、止められない事は無いはず。
「よし!行こう!」
「うん!」
わき目も振らず驀進するモンスター集団の真正面に、私達は降り立ったんだ。
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