第130話 ディアマンテスベースにて
アルテミスさんを無事に延命、というか消失しない存在にする事ができた。
アルテミスさんの変化に伴い、ノアの民の話し声がエコーがかったような響きから、普通の声に聞こえるようになった。
どういう理屈なのかはわからないけど、アルテミスさんもよく分かんない、とか言っていた。
そして、もはや洞窟内に留まることのないアルテミスさんは、しばらくの間ここリンツで暮らす事になった。
最終的にはイワセへ移住するんだけど、私達ディアマンテスの活動を見てみたい、という事らしい。
それに
「まぁ、あの船にはまだまだエネルギーが有り余っているからね。それを何とかするまで管理も必要だしね。」
「エネルギー?」
「ああ、そうだよ。この星にも似たようなモノが存在するようだけど、あの船の動力源はまた特殊なんだよ。」
「単なる発電機ではない、という事か?」
「タキサイクルっていう、この世界でいう核融合システムに近いかな。暴走するとあの辺一体吹き飛ぶかも知れないんだよ。」
「何だそりゃ。核爆弾と同じかよ、危ねぇな。」
「もっとも、そういう事例は過去一度もないけどね。でも管理しつつ機能停止にはしないといけないのは確かだからね。」
「なるほどな。そういう所は核融合と同じか。しかし、それはかなり時間がかかるのではないか?」
「そーだね、2年程かかるかな。だからあのままだったら強制終了させるしかなかったんだよ。そうなるとあの子たちは生活がままならなくなってしまうんだ。」
「そうなんだ……」
「だから、色々な、というか全てにおいてキミ達はあの子達の救世主という訳さ。感謝してもしきれないよ。」
そう言われちゃうと、なんだかくすぐったいような、畏れ多い様な気持ちになっちゃうなぁ。
でも、そう聞くと本当に良かったと思う。
知らないまま、出会わないままだったら、キューキさん達ノアの民は滅んでいた可能性もあるし、別の惑星からの脅威にも気づかなかったんだからね。
「ところでさ、皆はここで暮らしてるのかな?」
「えと、ここは実は借り物なんです。」
「借り物?」
「知り合いの家で、私達モンスター討伐隊の拠点に使わせていただいているんです。」
「俺は基本本国、イワセに居るんだ。ここにはディーナ達ディアマンテスが常駐しているだけだね。」
「ディアマンテス?」
「ディーナ達の討伐チームの名前だよ。そう言えば。」
「お兄様?」
「タカとヒロはまだイワセに来たことがないね?」
「俺達?」
「まぁ、落ち着いてからとは思ってたけど、今丁度落ち着いてるんだし、一度イワセに来るといいよ、歓迎するよ。」
「そうだね。二人ともイワセの国民になった訳だし、その時は私とシャルルが案内するよ?」
「イワセってあれだろ、温泉で有名なとこだろ?」
「温泉いいなー、メシも美味そうだしな。」
「あはは、それは保証するよ。ウチのもう一つの存在価値といっていい。ま、ウチの家族にも紹介したいしね、二人とアズラさんをさ。」
「そうじゃな。ワシはもう会っとるからの、ディアマンテスの一員なんじゃからそういう義理も通さんとな。」
「そうですね、私もこの姿ではまだ会っていませんし、お世話になってるしね。」
「そっかー、俺らはイワセの国民になれたんだよな。」
「なんつーかさ、ディーナ姉とシャルル姉には感謝しないとなー。」
「何言ってんのよ。私達はそんな、ねぇ。」
「そだよ。感謝なんて、くすぐったいよ。」
「ま、そういうのって意外と慣れないもんだよな。照れちゃうというか、な。」
「トキワでもそうなんだな。」
「あはは、そうだね。」
何と言うか、久しぶりのゆったりとした時間が流れている気がする。
気を抜いちゃいけないのはその通りなんだけど、たまにはこういう時もないといけないんじゃないかなーとも思う。
大きな課題の一つが解決した今、次の課題に向けて英気を養うっていうのは大切だよね。
と、そんな事を想っていた矢先の事だ。
通信機のアラームが鳴り響いた。
《ディアマンテス!
リンツ、ベクター090、ディスタンス100、ボギーシングル、コンタクトチャンネル13、01ホット!》
「コピー!」
久々の緊急出動だ。
私とシャルル、ルナ様、ウリエル様は外へ駆け出してそのまま飛んで現地へ向かった。
「相変わらず早いな、姉ちゃん達。」
「つかさ、よくあれだけでどこ行くかとか判るよな。」
「まぁ、ああいうのは慣れだね。でも。そういうキミ達だって反応は速いよ?」
「あれだよ、マスミ姉の復唱する声は聞き取りやすいんだよ。」
「ま!キミ達は正直ね!」
シャルルに乗って低空飛行でリンツの東100キロ地点へと急行する。
少し雪が降っていて視界が悪いけど、飛行には支障はないそうだ。
モンスター1体という事は発見するのが少し時間がかかる。
広大な地で1体を探すからなんだけど、監視者からの情報が逐次入るようになってからはそれも短縮できるようになったんだ。
ただ、そのかわり監視してくれている各国の兵士さんの負担が増えてしまったと思うのは申し訳ないかな。
《ディアマンテス01、エコー21です。視認しました。ボギーは10時方向です!》
「居た!」
「ID!ありがとう、エコー21!」
《ご健闘を!》
ジパングで開発された簡易携帯通信機で、監視者へ報告する。
エコー21っていうのはこの監視者の識別コールサインだ。
発見したモンスターの前に飛び降りた。
発見されたモンスター。
ここ最近見られるようになった獣人型の個体だ。
けど
「このモンスターって。」
「やっぱりそうよね。」
「とにかく片づけるほかあるまい。行くぞ。」
「ワールドに入るぞ。」
たった1体のモンスター。
でも、間違いない、この個体は、元人間だ。
時間経過とともに、その姿が変貌していっているんだろう。
この前の元人間よりも、その姿はより異形に寄っている。
ともあれ、すべきことは一つだ。
―――――
「ところで、なんだけどさ。」
「ん?」
「キューキはどうしたいの?」
「え?マザー、それは何を……」
「いや、あなたトキワと」
「わわわわ!そそそそれは!」
何となくだけど、アルテミスさんは俺とキューキの事を感じ取ったみたいだ。
というか、ディーナとシャルルも気づいて聞いてきたんだけどね。
まぁ、あれだけべったり一緒にいれば気付くよな。
他ならぬアルテミスさんだし、ここはきちんと言っておくべき、なんだろうなぁ。
「あー、キューキ。いいかな?」
「ト、トキワが良いなら……」
「アルテミスさん、俺はキューキさんを妻に迎えたいと考えています。」
「へー!そうなのか!あ、や、そんな気はしてたんだけどさ。そうか。」
「あ、あの、マザー……」
「キューキ、これはノアの民にとって未来への第一歩だよ。ちょっと気が早いけど、ノアの血が続くって事だからね。」
「は、はい。」
「ていうか、トキワは何でキューキの事を?」
「え、えーとね。正直言うと、一目見て……」
「わ、我も……」
「ちょっと待ったー!」
「は?」
「え?」
「ウ、ウウウウチも!ウチも一目見て、なんだが!」
「ナイナさん?」
「というか!トキワはその、王だったな!王は複数の妃を持つよな?な!?」
「い、いや、俺は……」
「そ、その、あの、せ、席は開けておいてちょうだい!」
「えーっと、そう言われても……な、キューキ。」
「わ、我は…トキワに任せます……」
アルテミスはそんな様子を見て思う。
トキワは何となくだけど、確かに不思議な魅力を持っている。
先日ルナから、トキワの父親の話をチラッと聞いたけど、その人物も妻が12人も居たって言ってたし。
きっとこれは遺伝なんだろうなぁ。
でも、父親譲り云々よりも、トキワを見ていればそれも納得のような気がする。
世襲とはいえ国の王で、強く優しい、なにより他人への気遣いも普通じゃないし。
何よりも、不思議な魅力を持っているんだ。
カリスマなんてレベルじゃない、天性の誑し、というのは失礼かな。
ルナもウリエルも認めている数少ない人間だと言ってたしね。
聞いちゃったのはちょっと野暮だったかなぁ、と少し後悔する気もするけど……
ま。ここは二人の気持ちも明らかになったんだし、応援することにしよう。
(なぁじいちゃん。トキワって人、女誑しなのか?)
(確かに好感がある男って感じだけどなー。)
(まー、あのお方のご子息じゃからなぁ。血は争えんって所じゃろうな。)
(無自覚じゃないって所はあの人とは違うみたいですけどね。)
木枯らし吹く冬のリンツベース。
家の中は、少し熱くて暑かった。
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