第128話 月の欠片のテクニカル・オーダー


 青く光る美しい珠。

 この世界、この星の“月の欠片”だ。

 これでアルテミスさんの延命ができるかも知れないし、そうなれば脅威への対処も変わってくる。

 そう思ったんだけど。


 「ほほう、わっちに条件を出すとな。玉藻よ、ヌシも怖いもの知らずでありんすな……」

 「そそそ、そんな威圧したって駄目だ!ウチだって必死なんだからな!」

 「はー、わかりんす。で、条件とは何ぞや?」

 「え、えーとだな。その、ウ、ウチをあの人の元に連れてって欲しい、かなー……」

 「なるほど、今ここで死にたい、と?」

 「何でそうなる!……というか、え?、それって……」

 「タカヒロ様は既に故人でありんす。」

 「え?……そ、そんな……あの人、もう、逢えない、なんて……ビ…ビエエェーン!!」


 ナイナさん、大声で泣いちゃった。

 あー、まぁ、そうなるんだろうなぁ。

 ようやく逢える機会が巡ってきたと思ったら、既に居ないんだものね。

 ちょっと、その心中は察するに余りあるなぁ。


 それから10分程、ナイナさんは泣きじゃくった。

 あまりにも泣くもんだから、ツクヨミ様は居たたまれずにナイナさんをよしよししてた。


 「ま!それはそれとしてだ!」

 「立ち直った!?」

 「切り替え早すぎ!」

 「どっちにしてもウチを連れてって欲しい。色々と今の世界を見てみたい。」

 「なんだ急に。」

 「見てみたいってお前、そんなん勝手に自分であちこち行けるだろうがよ。」

 「あ、いや、実はあの変な生き物が怖くてねー……あまりこの国から出るって事しなかっんだ……」

 「あー、なるほどな。」

 「んだけどよ、お前モンスターくらい軽くあしらえるだけの強さがあんだろ?」

 「こ奴はの、確かに強いんじゃが気後れというか、相手が強そうだと実力をあまり発揮できんのでありんす。要するにヘタレなのでありんす。」

 「ヘタレって……」

 「だ!だってしょうがないじゃんか!怖いし怪我すると痛いんだよ!」

 「そ、そうなんだろうけど……」


 なんだかんだで結局のところ。

 ナイナさんをイワセに連れて行く事を条件に“月の欠片”は手に入った。 

 でも、この青く光る月の欠片を、どのようにアルテミスさんに使うんだろう。


 「これはの、ウリエルの時はウリエルに吸収させたし、ルナの時は防御を壊しルナを肉体を持つ生命体へと転生させた。

 この珠はな、使う者というよりも使われる対象者の願望に効能がある、という事でありんす。」

 「対象者の想いに対して効果が発揮されるんですか?」

 「うむ。ただ、それは使う者の想い優先じゃがな。で、今回はアルテミスに使う訳じゃが、ひとつ懸念があるのでありんす。」

 「懸念とは、どういう事だ?」

 「ルナや、あの人がおヌシに使った時、何か感じなかったか?」

 「うーん、そう言われてもな。あの時の事は実はあまり憶えていない。」

 「そうかや。まぁ、あの人が普通ではない、というのも有ったんじゃろうが、ルナの時はあの人の意志も付随されておったのでありんす。」

 「ん?どういう事なんだ?」


 ツクヨミ様によると

 ルナ様に使われた時、月の欠片自身は本当に星の力を利用した防御を突破する事だけに注力したんだそうだ。

 ツクヨミ様自身がその時の月の欠片だったので、それは間違いないんだって。

 でも、お父様はルナ様、その時はブルーだけど、ブルー憎しだけで行動していた訳じゃなかったんだそうだ。

 アトモスフィアやラヴァが本当の自由意志を持たず、ブルーそのものも何かの傀儡のように、洗脳されたように行動していたように思ったんだろう。

 そんな呪縛からブルーを解放してあげたい、という気持ちも同時に持っていて、その思いも合わせてブルーに月の欠片をぶつけたんだそうだ。


 なんというか、お父様らしいといえばそうなのかな。


 「そうだったのか……」


 そんな話を聞いたルナ様は、どこか柔らかで嬉しそうな表情を見せた。

 結局、お父様に救われた事に間違いない、と確信し納得できたんだと思う。


 「てことは、だ。」

 「うむ。」

 「それをアルテミスに使うにしても、もう一つなんかこう、付加するものがあるとイイってこったろ?」

 「つまりはそういう事でありんす。が。」

 「が?」

 「それをできるのが誰なのか、という所がいまいちわからないのでありんす。」


 さっきの話を聞く限り、要はアルテミスさんの延命の目的と、その先を見据えた『想い』を持つ者が扱うべき、という事よね。

 私もシャルルも、そんな想いも持ってはいるけど、恥ずかしながら私達の想いは少し方向がちがう。

 私達の目標はコアを何とかしてこの星に住む者全ての安寧と平和の維持なんだもの。

 マクロすぎると言えばそれまでなんだけど、そもそものこの行動の切っ掛けも、そうした漠然とした想いだったし。


 「ってことはだ。この中じゃルナが最適なんじゃねぇか?」

 「そうですね。」

 「言い方はアレですけど、近い存在みたいですし。」

 「だがなぁ。私にそんな事ができるかどうかは、正直自信はないぞ?」

 「ま、いずれにしてもじゃ。それは一旦帰ってから協議すると良いのではないか?」

 「そうだな。残る課題としてはそれだけなのだし、な。」

 「なら、さっさと引き上げようぜ。長居は無用だしな。」

 「そうですね。」

 「帰りましょう。」


 と、話がまとまった所で

 

 「ではの、ナイナ。世話になったでありんす。達者でな。」

 「ありがとう!ナイナさん!」

 「さようなら!」

 「では、またな。」

 「あばよ。元気でな!」


 「ああ、じゃあな!……ってオイ!なんでだよ!」

 「おお、すっかり忘れていたでありんす。」

 「お前、実はウチより性悪なんじゃないのか……」

 「……何かおっしゃりましたでありんすか?」

 「それだよ!それ!」


 それから私達は、ナイナさんを伴なってツクバのイナダの所とミクニ様の所へ報告とお礼をして、イワセへと戻ったんだ。

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