第127話 発見!月の欠片!

 ショックのあまりなのか何なのかはわからないけど。

 気を失った狐さんをそのままにして気づくまで待つ事にしたんだ。

 どうも、話した内容から察するに、お父様を知っているみたいだ。

 なんで?


 「ふむぅ。わっちもそれはわかりんせん。」

 「どういう事だ。コイツはアイツと知り合いなのか?」

 「アタイは知らねえけど、あの天狗と仲が良いんだろコイツ?その線で、って事か?」

 「でも、それにしては時系列が合わないような……」

 「と、とにかく知り合いというか、お父様を知っているんだよね?」


 お父様やお母様達から、そんな話は聞いたことがない。

 もしかすると、あの天狗のおっちゃん様と同時期に会っていたって事なのかな?

 でも、それだとその頃はまだ狐さんは結界に閉じ込められていたはずだけど。

 うーん、謎だ。

 とにかく、真相を聞くには目を覚ますのを待つしかないね。


 「う、うーん……」

 「お?気が付いたみたいだぜ?」

 「はッ!わッ!ツ、ツクヨミ!」

 「それはもうよい。」

 「そうか、夢じゃなかったのか……」

 「あの、狐さん?」

 「やっぱり……あの人の匂いがする……」

 「あの人というのは、お父様、タカヒロの事で間違いないのですか?」

 「お父様、か。そうか。お前とそっちの子は、やはりあの人の子なのか……」

 「というかだな、何でお前はタカヒロを知っているんだ?」

 「あ、あれ?お前はどっかで……ヒッ!ア、アトモスフィア!」

 「ん?それも知ってるのか?」

 「なんでこんな所に!というか……違う、のか?」

 「それは過去、というか別世界の話だぞ?何でお前がそれも知っているんだ?」

 「もう何がなんだかわかんない……ま!それは置いといて! で、お前らはウチに何の用なのよ?」

 「き、切替が早い……」


 ここで立って話すのも何なので、とりあえずバッグから簡易チェアーとティーセットを出してお話の場を設ける事にした。

 幸いにも好天だ。

 お日様の下でお話するのもたまにはいいかもね。

 狐さんはそのままだとお茶も啜れないので、人間の姿へと変化した。

 変化した狐さんは……


 「へぇー、可愛いもんだなおい。」

 「「 カワイイ…… 」」

 「これは、アイツも呆けるというか見惚れるんじゃないか?」

 「ムフフー、もっと褒めると良い!」

 「調子に乗るでない、たわけめ。」


 で、狐さんに紅茶を進めると、狐さんは恐る恐る飲んだ。


 「お、美味しい……」

 「お口に合って幸いです。」

 「毒じゃないよなコレ。ま、ウチには毒は効かないけどね。」

 「そんな事は良いのでありんす。と、まずはこっちの紹介をせねばの。」


 狐さんには私達の素性を明かした。

 紹介していくうちに、狐さんは顔を青ざめつつ徐々に固まっていった。

 そして、はッと我に返ると、こんどは狐さんが自己紹介をしてくれたんだ。


 「ウチの今の名は“ナイナ”という。以前は玉藻前とか妲己とか色々と名乗ってたけどね。カグヤとか言われた事もあったな、そういえば。」


 ナイナさんの話によると

 結界から解放されたら世界がすっかり変わっていて途方に暮れていたんだって。

 しばらくはジパングでそのまま暮らしていたんだけど、ある日自分の体に異変が起こったんだそうだ。

 それは200年ほど前、突然別の自分が融合したような感じで、知らない記憶が頭に入って来たんだそうだ。

 その知らない記憶の中に、アトモスフィアという人がいたらしい。

 どうやらそれはジーマの記憶、と言う事だよね、きっと。

 つまり、200ほど前の体の異変は、あっちのナイナさんとの融合によるものってことだね。

 で、その後にすっかり変わった世界の、自分の生まれ故郷を見たくなって大陸へと行ってみたんだって。

 だけど、その頃はモンスターがちょくちょく出現していた時期で、ナイナさんはモンスターに襲撃されて手傷を負ったと。

 丁度その時に、傷ついたナイナさんと遭遇し傷を治してくれたのがお父様らしい。


 「タカヒロ様は優しかった。ウチはたかが人間であるあの人に心を奪われたんだ……」


 どこかポワーっと、空中に目をやりうっとりしているナイナさん。

 ツクヨミ様に小突かれて我に返り、説明を再開した。


 結局お父様とは3日程一緒に居たけど、それっきりだったらしい。

 でも、相手を魅了する力、私達が持っているものと同じみたいだけど、それがお父様には通用しなかったというのがさらに興味を持つ理由になったらしい。

 でも、その時一緒に居た狼が怖かったのとモンスターが居るような場所にはいられなかったので泣く泣く富士山に帰って来たんだって。


 「その狼って、リサお母様よね、きっと。」

 「あー、モンスター討伐してる時か。たまたまアタイを装備してなかった時だな、それ。」

 「ちなみに、ナイナ、という名はその時あの人が付けてくれたんだ。」

 「へぇー……でも、どういう意味なんだろ?」

 「あの人が言うには、九つの尾を持っているから、なんだって。」

 「へぇー……」

 「で、じゃ。わっちらがココに来たのは“月の欠片”を求めて来たのじゃ。ぬし、天狗から預かっておろう?」

 「天狗?あ、ああ!あの光る珠の事か!」

 「それをわっちに返せ。」

 「んふふーどうしよっかなー。というか、それが人にお願いする態度なのかなー?」

 「ん?聞こえなんだか?わっちはお願いなどしておらぬぞ?返せと命令しているのでありんす。」


 ちょっとツクヨミ様の雰囲気が変わった。

 その途端、ナイナさんはビクっと固まり冷や汗をだらだら流し引きつった笑みになった。


 「じょ、ジョーダンじゃないかー。本気にしないでくれよーもー……」

 (こ、怖い……相変わらずツクヨミ怖い……)


 そして、ナイナさんは懐から光る珠、月の欠片を取り出した。


 「これが……」

 「月の欠片……」

 「私が見たものとは色が違うな。」

 「アタイのとも違うぜ。」

 「まぁ、間違いなく月の欠片じゃな、この世界の。」


 ナイナさんは月の欠片を持ったまま


 「これが天狗から預かった珠だ。返せというなら返す。でも、だ!」

 「何でありんすか?」

 「かっかか、返すには、じょ条件がある!」


 ちょっと震えながら、何と言うか意を決したような言い方でツクヨミ様にそう言い放った。

 

 ともあれ、何とか月の欠片は発見できたんだ。


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