第126話 マウントフジと玉藻前

 翌朝、イナダとツツジさんにお礼を言ってツクバを後にした。

 朝食に頂いた“納豆”は不思議な香りと糸を引くのがびっくりしたけど、白米にとても合って美味しかったなぁ。

 ねばねばに苦戦しながら食べるのも面白いと思っちゃった。

 ちなみにウリエル様はこれがダイスキなんだそうだ。

 初めて食べたけど美味しかったし、また食べにジパングに来よう。


 富士山にはすぐに到着した。

 けど、山の何処にその玉藻前という妖怪さんが居るのかが判らない。

 富士山に連なる山々は広く、虱潰しに探すにも骨が折れそうだなぁ。


 「あ奴はの、どこか広めの風穴か洞窟あたりに潜んでいると思いんす。」

 「そうは言っても、それすら何処にあるのかはわからんぞ?」

 「シャルルは何か判るかよ?」

 「地理学と地質学は微妙に違いますからねぇ。ちょっと難しいです。」

 「ツクヨミ様、月の欠片の気配とかで方角だけでも掴めませんか?」

 「うーん、近ければ判るのでありんすが、今の所その気配は感じられないのでありんす。」

 「とにかく、探すしかないですね。」


 あまり標高が高い所には住処として設けないと思う。

 根拠はないけど。

 そして、山影になる北面も、なんとなく避ける様な気はする。

 となると、南側から探していくのがベストかも知れない。


 という事で、一旦山頂から南側の麓付近まで移動した。

 民家が密集する所ではなく、深い森林と岩肌がむき出しになっている、あまり人が寄り付きそうにない場所だ。


 「闇雲に歩いた所で見つける事はできんな。」

 「アタイらじゃちょっと無理っぽいな。おい、グノーメ。」

 「どしたん?」

 「地形のおかしなトコとか、お前なら判るんじゃねぇの?」

 「あたいも正確には判んないけど、風穴や洞窟、鍾乳洞なんかは何となく判別できるかなー、ね、シルフィード?」

 「わたしとグノーメの力を合わせればなんとかイケるかな!」

 「そうか、地形の変化と空気の流れ、か。ちょっと頼めるか?」

 「「 やってみるよ。 」」


 グノーメ様とシルフィード様、二人の精霊の力で洞窟を探してみる。

 この山々も、やはり特別な場所らしくお二人の力も充分には発揮できないらしい、けど、探索するだけならできるみたいだ。

 シャルルは魔法で展開したこの周辺の地図に、グノーメ様が示したポイントをマーキングしていく。

 徐々にその数は増えて、富士山南側だけで80個程の洞窟が感知された。


 「こっち側だとこんなモンかなー。これ以上はあたいらでは判別できないな。」

 「ま、上出来だろ。足で探すよりは早く探索できるしな。ありがとよグノーメ、シルフィード。」

 「と言う事は、これらの中で大きな、広い所から探索と言う事だな。」

 「わりと近場に集中していますね。」

 「リードとベルにも探索をしてもらいましょう。いい?リード、ベル?」

 《いいよ。どのポイントへ行くかだけ教えて。》

 《位置はわかるから大丈夫だよ。》


 こうしてまずは風穴洞窟の探索を開始した。

 取っ掛かりとして、私達はここから一番近い、一番大きな空間を持つ洞窟へと向かう。

 もはやジャングルと化している道なき道を切り開き進んでいく。


 「こんだけ人が入ってこれないような場所なら、アタリっぽいけどな。」

 「どうだろう、その玉藻前っていうのも動けないんじゃ逆に、っていう事もありそうだな。」

 「まぁ、あ奴は歩くよりも飛んで移動する事が多いでの。何とも言えないでありんす。」

 「少し開けてきましたね。」

 「木々も何だか少なくなってきた、のかなぁコレ。」

 

 洞窟らしきポイントの手前100メートル程まで来た。

 洞窟前は開けていて、此処だけ何か木や草が極端に少ない。

 それに何より。

 洞窟の奥から何かの気配がする……


 「えーと……」

 「まさか……」

 「これは……」

 「一発目でビンゴか?もしかして。」

 「どうやらそのようでありんす。月の欠片の気配も感じるの……」


 まだ確定ではない、んだけど、どうもそれっぽい。

 無駄足を取らせない為にもリードとベルには戻ってもらった。

 とにかく、洞窟に入って確かめよう。


 「私が先行します。」

 「あ、私も。」

 「ディーナとシャルルが先頭、私達はその後に続くか。」

 「フェスター、また頼むぜ。」

 (オッケー、任せてくれ。)


 わりと大きく口を空けている洞窟。

 中から地下水脈なんだろうな、それが沢になって流れ出している。

 と、地面をよく見てみると


 「これ、動物の毛?」

 「ああ、金色の毛、だな。」

 「もう間違いなさそうですね。」


 入口には抜け毛なんだろうな、少し毛が散らばっていた。

 と、思った所で。


 「ほほう、こんな所まで来る者がいるとはな。どうやら死にたいらしいな!」


 突然声がした。

 声のする洞窟の奥の方を見てみると、誰かがこっちに歩いてくる。

 私達は入り口でその誰かが出てくるのを待った。


 と、奥から出てきたのは9本の尾を持つ、大きな狐だった。

 若干禍々しさを纏いつつ、闘気を放っているみたいだ。

 どうやら縄張りを荒らしに来たと思われたんだろうな。


 「ここを知られたからには貴様達には死んでもら……うん?」

 「ここに居ったかや。どうやら息災なようでありんすな。」

 「ま!まままままままさか!」

 「久しぶりじゃのう、玉藻前。」

 「ツ、ツクヨミー!!」


 何か、ツクヨミ様を見た途端に慌てふためき始めたよ。


 「なななな、何だ、ウ、ウチに何の用なんだ!ウチはお前になんぞ用はない、ないぞ!悪さもしてないからな!」

 「わかっておるわ。わっちらもおヌシそのものに用が有る訳じゃありんせん。落ち着け。」

 「落ち着いていられるか!またウチを閉じ込めるつもりだろ!ふざけんな!」


 どうやら、何か因縁があるんだろうなぁと思った。

 結界に閉じ込めたのって、天狗のおっちゃん様じゃなくてツクヨミ様なんだろうか。

 と、狐さんはこっちを見て動きを止めた。


 「う、うん?こいつらは……人間、じゃないのか?妖怪でもない?」

 「初めまして、あの、ディーナと言います。」

 「私はシャルルと言います。」

 「私らはとある物を探しにここまで来たのだ。」

 「お前が玉藻前ってヤツか。」

 「…………」


 何というか、冷や汗をダラダラと流している。

 狐さんなのに。


 「なな、何なんだこいつら…このとてつもない力は……まままま、まさかウチを滅ぼしに!?」

 「あ、違います違います。本当に探し物をしているんです。」

 「嘘つけ!騙されない、ぞ……というか、お前らのその雰囲気って……」

 「「「「「 ん? 」」」」」


 狐さん、固まった。

 というか、何か考えているというか、私達を見て何かを感じたようだ。


 「な、なんでお前らからあの人の気配が?」

 「え?」

 「あの人って?」

 「というか、その二人、どこか面影が、もしかしてあの人の……子供!?」

 「は?」

 「お前、まさかタカヒロを知ってるのか?」

 「その名を知っているとは!お前らはあの人の関係者か!?」

 「まぁ、関係者も何も、アタイらは家族みたいなもんだぞ?」

 「な!なんだとーーー!」


 狐さん、何故か卒倒してしまった。

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