第125話 竹取物語、とは?

 竹取物語。

 遥か太古の神話としてジパングで語り継がれているお伽噺だ。

 イナダも知っているみたいで、イナダからその物語を聞くことができた。

 イナダが語ってくれたその物語とは。


 ―――――


 むかーしむかし、とある田舎でのお話。


 タケノコ採取と竹細工を生業にしている、長年連れ添っているとても仲の良いお爺さんとお婆さんがいた。

 真面目に暮らしているその老夫婦が、山へタケノコを採りに行った帰りの事だ。


 川沿いを歩いていると、上流から大きな竹筒がどんぶらこと流れてきた。

 その竹筒は、不思議な事に黄金色に光っていたという。

 老夫婦は何故かその不思議な竹筒を川から拾い上げ、家に持ち帰った。


 家でその不思議な竹筒を割ってみると、中には可愛らしい女の子の赤子が眠っていたという。

 子供が居なかった老夫婦は、神様からの贈り物だと思い、その女の子をここで育てる事にしたんだ。

 目が覚めたその女の子は泣くでもなくほほ笑んだそうで、その笑顔は二人の心をも溶かす程の可愛さのまぶしい笑顔だったそうだ。

 老夫婦はこの子に“カグヤ”と名付け、育てる事にした。


 それほど裕福でもない老夫婦は、それでも愛情たっぷりに何不自由させる事なくその子を育てた。

 すると赤子だったカグヤはすくすくと、いや竹のようにぐんぐんと半年も経たずに美しい大人の女性に育った。

 

 ある日、カグヤが海辺で地元の子供にいじめられている亀を助けた。

 亀は是非ともお礼を、と言ったが、カグヤはこれを頑なに固辞し、亀は何度もお礼を言って海に帰っていった。

 その翌日、どうしてもお礼がしたい亀は、主人の乙姫と共にカグヤの元を訪れ、大きなつづらと小さなつづらを謝礼として置いて行った。

 両方のつづらには、金銀財宝が山ほど入っていたんだそうだ。


 それを見ていた地元の大人たちはカグヤの美しさと心優しさに感銘し、その亀助けの顛末を町中で広め、その話は都にまで広がったという。

 それが評判となりカグヤの元には結婚を申し込む男が沢山やって来たけど、カグヤは老夫婦の元を去ることはできないと全て断っていた。


 ひっきりなしに訪れる求婚者に辟易する日々が続き、老夫婦にも疲労の色が濃く出てきた。

 しまいには力づくでカグヤを娶ろうとする者まで現れた事で、ブチ切れたカグヤは一つの策を弄した。

 およそ達成不可能な無理難題を求婚者全員にふっかけ、それを達成できた者とは結婚を前提としたようなお付き合いまでは考えても良い、という事らしい。


 当然、そんな難題を達成できたものはおらず、達成できなかった罰則としてその男たちから財産全てを巻き上げた挙句しばき倒したそうだ。

 そしてカグヤは、巻き上げた金品全てを老夫婦へと渡し、


 「私は実は月よりの使者なのです。このような騒動を起こした上は、私は月に帰らなければなりません。」


 と老夫婦に自分の正体を明かし、これまで育ててくれたお礼として玉手箱を置いて老夫婦の元を去ったんだ。

 去り際にカグヤは老夫婦に


「その玉手箱は開けてはいけません。しかし、もし開けてしまったら……その時は運命を受け入れてください。」


 と意味不明な事を言い残したという。

 老夫婦は、せっかくカグヤが置いて行った物だからと、結局その玉手箱を空けてしまった、と。

 すると、箱からは煙が溢れ、その煙に包まれた老夫婦は20代くらいにまで若返り、カグヤが置いていった金銀財宝のお陰で、その後二人で幸せに暮らして天寿を全うしたんだそうだ。

 かたや、カグヤに言い寄ってきていた男達は全員、厄災に見舞われ、苦難に苛まれ、死ぬことも許されず苦しみながら残りの人生を生きて行ったそうだ。


 当のカグヤは老夫婦の元を去った後日本一高い山の頂へと昇り、何やら光る空飛ぶ馬車に乗って空高くへと消えて行ったんだそうだ。


 ―――――


 「……え、えーっと、だな。」

 「ツッコミどころ満載でありんすが……」

 「それ、何か色々と混ざってねぇか?」

 「あの、どういう?」

 「これが竹取物語……」


 何と言うか、ルナ様、ウリエル様、ツクヨミ様の知っている竹取物語とは微妙に違うようだ。

 そもそもが私もシャルルも、竹取物語、というお伽噺は聞いたことがないのでその辺はわからない、かな。

 ただ……


 「と、とにかくだ。そのカグヤとやらはツクヨミ、お前がモデルだと言っていたな。」

 「そのバージョンはわっちとは違うと思いんす……」

 「この一帯で伝えられている話は概ねこんな感じです。でも、他の地域に行くとまた変わってくると思います。多かれ少なかれ、この手のお伽噺は地方によって違っていますので。」

 「そ、そうなのか。」

 「んでよ、そのお伽噺とその玉藻前、だったか、それがどう関係してくんだよ?」

 「うむ、この話の中にな、ヒントが多数存在するのでありんす。」


 ツクヨミ様の説明によると

 寄る辺を求め色々な手を使って誰かに寄生する、というのは玉藻前の常套手段だと言う事だ。

 笑顔で人間を誑かす、というのも、玉藻前の得意技なんだとか。

 人間の色々な感情に聡く敏感で、それを利用し金銀財宝をかすめ取る、というのも良く使う手らしい。

 そして自分に優しくしてくれた者には際限なく愛情を注ぎ守護し続けるらしい。

 もっとも、敵対したり蔑ろにされると激怒し容赦なく相手を苦しめるらしいけど。

 そして、最大の合致点といえるのが


 「高い山の頂から輝いて天高く消えていく、というのがの、あ奴のお馴染みの雲隠れの方法なのでありんす。」

 「へぇー……」

 「なるほどな。まぁ、そのお伽噺の内容はともかく、その山、というのは実在するんだな。」

 「それが、富士山なのでありんす。あ奴はの、あの山に長く住み着いておるはずじゃ。」

 「そんな大古の昔から、ですか?」

 「それがの……」


 玉藻前という妖怪は、またの名を九尾の狐と言い人々から恐れられていた存在なんだそうだ。

 もっとも、モンスターの様な人間に仇成す悪しき存在という訳ではないらしい。

 元々は大陸で誕生した妖怪の類の存在らしく、不思議な力をもつこの島国に興味をもってやってきたんだそうだ。

 やって来たはいいけど、物珍しさも手伝ってこの島国でヒャッハーしちゃったらしい。

 でも、その度にこの国の妖怪さん達に叱られコテンパンにどつかれて度々身を隠したんだって。

 物語にあるのは、そうした身をひそめる為の行動のひとつでもあった、と。


 「での、あまりにも迷惑するのでな、一頃あ奴を結界に閉じ込めて反省させたのじゃ。その時間は数千年以上にもなるのでありんす。」

 「最悪ってのはそういう事か。だけどよ、今は解放されてんだろ?」

 「反省したか否かは不明でありんすが、解放後は大人しくしているのではないかと思いんす。

 もっとも、閉じ込められている間に世界がすっかり変貌していた訳なので、本当の所はわかりんせん。」

 「うーむ。まぁ、いずれにしてもその玉藻前が月の欠片を預かっていて、その山に居る、と言う事なんだな。」

 「間違いあるまい。なにせ玉藻前が唯一心を許した妖怪というのが、ここの天狗なのでありんす。」

 「その、天狗のおっちゃん様はなぜ玉藻前さんを?」

 「まぁ、あ奴は妖怪の中でも戦闘力に関しては頂点にいたのでありんすが、優しさも同時に深く面倒見も良かったのでありんす。

 仲間もおらず、勝手も判らぬまま自由に、それでいて寂しさも抱いていた玉藻前を不憫に思ったのやも知れぬ。

 タカヒロ様とよく遊んでいた、というのは、そういう面もあったから、なんじゃろうと思いんす。

 もっとも、本当の所は良く解らぬがの。」

 「お爺様は本当にお優しい方だったそうです。恐らくですが、その玉藻前を封印したのもお爺様で、その後のフォローもきちんとしていたのではないかと。」

 「曾お爺様からその話は聞いたことはありませんけど、母様の言う通りかと思います。」

 「そうなのか。」


 ともあれ、手がかりは掴めた、のかな。

 私達はその富士山に行かなくちゃならない、と言う事なんだよね。

 ここに来る途中に見た、あの美しい山だ。


 「では、その富士山とやらへ行くとするか。」

 「そうですね。そこに行けばツクヨミ様も気配が分かるんですよね?」

 「そうじゃな、存在すれば、の話でありんすが。」

 「んじゃあよ、早速……」


 「あ、あの!」

 「どうしたのイナダ?」

 「せっかくですので今日はここでゆっくりして行ってはどうでしょうか?」

 「そう、だな。うん。」

 「くふふ、イナダよ、なかなか気が利く提案でありんすなぁ。」

 「アタイはどっちでもいいけどよ、お前らせっかくなんだ。色々とこの島には縁があるみたいだしな。散策するってのも良い気分転換になるぜ?」

 「そう言われれば……」

 「何か不思議な感じですね、それって。」

 「まぁ、そうだな。手がかりは掴めたんだ。急ぐに越したことはないが、こういう時も必要だろう。」

 「もっとも、ツツジとイナダが迷惑でなければ、の話でありんすがの。」

 「迷惑だなんて、逆に歓迎します。」

 「私はディーナとシャルルと、色々とお話もしたい……」


 お父様所縁の地でもあり、色々と節目節目で立ち寄った地、それにこの紋章のモチーフ。

 たしかに不思議な感じがする。

 こうして私達は、イナダの家に一泊させてもらう事になったんだ。

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