第123話 そこに天狗は居た!

 昨夜はミクニ様が歓迎の酒宴を開いてくれた。

 久しぶりに和食を堪能できてとっても楽しかったな。

 そして今は早朝、まだ陽も登り切っていない時間だ。

 私達はこれから、あの島へと飛ぶ。

 

 「それじゃミクニ様、行ってきますね。」

 「お気をつけて。お帰りをお待ちしてますよ。」

 「うふふ、ありがとうございます。」


 城を飛び立ち東へと向かう。

 右側に見える大きな山は、ジパングで一番高い山、フジだ。

 形も美しく、今の時期は山頂に雪を頂いていて景観も美しい山で、この国のシンボルなんだって。

 

 「シャルル、場所は大丈夫か?」

 「はい。あっちの世界とは地形も変わってますけど、位置は完全に把握できてます。」

 「なぁ、それって地磁気かなんかで分かんのか?」

 「そうです。でも、あっちの世界とは変わってますけどね。」

 「それ、地味に凄いよねー。シャルル凄い。」

 「えへへ、そう言われるとちょっと嬉しいかも。」


 ゆっくりと、風を感じながら飛んでいく。

 冬とはいえそれ程寒いとは感じないのは不思議に思う。

 スウィッツランドはあんなに寒かったのに、ここは緯度が低いからなんだろうね、きっと。


 かつて首都だったというトウキョウという所の上空に来た。

 すっかり水没していて高い建物の上部だけが顔を出している。

 水没後に人の手が触れられていないからなんだろうな、スウィッツランドのトンネル内と同じで12,000前の姿を維持しているみたい。

 崩壊している物が殆どだけど、こういう光景を見ると、大昔はやっぱり文明も含め栄えていたんだなあと実感する。

 

 その先に、島が見えた。 

 あれが、ツクバという山だった島だ。

 その島の北端、カバという山だった場所に着陸する。

 あっちの世界でシャルルが墜落したのとまったく同じ場所だ。

 何かの鉄塔があり、その下の方にはかつて神社と言われた建物が残っていて、その間にある開けた場所が、あの時キャンプした場所だ。


 「さて、着いたのは良いが、何一つ手掛かりがないな。ツクヨミ。」

 「よっと。うーん、ここは空気が美味しいのぅ。」

 「何を呑気な。で、どうなんだ、ここに在りそうなのか?」

 「せっかく来たんじゃがなぁ、気配はありんせん。」

 「何だよ、早くも残念賞かよ。」

 「何か手がかりみたいなものはないんでしょうか?」

 「うーん、森の中を探索してみようか?」


 ツクヨミ様が探知できないという事は、ここには存在していない事は間違いないよね。

 とはいえ、かつてここに存在していた可能性は高い、とはツクヨミ様の話だ。

 であれば何か残滓のような、あるいはほんの少しでも手がかりが残っているかも知れない。

 となると


 「手がかりといってもな。何をもって手がかりとするかもわからんな。」

 「ツクヨミ様は何かわかりますか?」

 「そうじゃのぅ。直近であれば力の残滓もあるやも知れぬが、遥か以前にココからは消えているようでありんす。」

 「となると、ここに居ても手がかりも見つけられねぇって事かよ。」

 「じゃあ、この近辺の住民に話を聞くっていう所から始めるべき、ですか?」

 「時間はかかるが、そこに突破口はあるかも知れないな。なら、」


 「誰だ!お前達は!」

 「はぇ?」

 「ん?」

 「誰?」

 「何だこのちんまいのは?」

 「誰だと聞いている!」


 突然現れた、少女?

 というか、人間じゃない、よね?

 何でこんな所に一人で?


 「えーっと、私達はここに探し物をしに来たんですけど。」

 「あのー、将軍様の上陸許可は頂いていますよ?」

 「そんな事は聞いていない。何者かと聞いているんだ!」


 そう言うや否や、少女はいきなり斬りかかってきた。

 咄嗟に私とシャルルが前にでて剣を受け止める。

 一度離れ、再び剣戟を繰り出す少女。

 動きは良さそうだけどそれ程速くなく、剣が軽すぎる。

 筋は良さそうだけど、これは勇猛というより無茶、という感じだ。

 何と言うか、あの時のアフラさん達みたいな、何かを守る為に必死になっているような感じでかかってきている。

 と、

 再び間を取り対峙する。

 すでに少女は息が上がっているみたいだ。


 「んん?おんしゃはもしや、天狗の子でありんすか?」

 「はぁ、はぁ、…え?な、何?この気配は!?」

 「わっちらは怪しいモノではありんせん。たぶん。」

 「なぜアタシを、というか、貴女は?」

 「わっちはおんしゃと同類じゃ。して、この者達は前勇者縁の者達でありんす。」

 「タ、タカヒロ様の縁者!?」

 「え?お父様を知ってる?」

 「な…なんで?」

 「というか、天狗、だと?」

 「それって、サダコが言ってたアイツの知り合いの妖怪ってやつか?」


 すると少女は剣を収め、こちらに向き直った。


 「タカヒロ様の縁者、という事は、こちらの二人はご息女様、ですか?」

 「え、ああ、はい。ディーナと言います。」

 「私はシャルルです。」

 「そうなのですか。そ、その、失礼しました……」

 「お前が、天狗、なのか?」

 「はい。アタシはこの地を守護する天狗族の生き残りです。」

 「生き残りだって?」

 

 その少女は完全に敵意を無くし、私達の話を聞く事にしたようだ。

 そして、少女は自分の事を説明してくれた。


 「アタシの名はイナダと言います。タカヒロ様の事は曾お爺様からよく聞かされていました。」

 「曾お爺様?」

 「曾お爺様は12000年程前に、幼少期のタカヒロ様とよく遊んでいたと聞いています。」

 「じゃあ!曾お爺様があの天狗のおっちゃん様!?」

 「あの、そのおっちゃん様、いえ、曾お爺様は?」

 「5,000年前に亡くなりました。」

 「え?5,000年前?え?」

 「えっと、じゃあ、よく聞かされてって?」

 「あ、それはですね、つい数年前までは体を持たず勾玉の中で消滅を待っていたので。」

 「はい?」


 聞くと、妖怪の一部の者は体が滅んだ後は結界の一部となるまで精神だけが残りその時を待つんだそうだ。

 その勾玉とは直径4センチ程の光る珠で、次代の身近な者の生誕時にその者へと受け継がれるんだそうだ。

 そして極々稀に、その珠は強力な力を持つ物質へと変質し、あり得ない現象をもたらす珠へと進化するのだと言う。

 

 あれ?

 それって……

 もしかして、サダコお母様が持っていた珠で、サクラお母様を生還させてくれた、あの珠?

 そ、それは後で詳しく聞いてみよう、うん。


 「それであなたはお父様、タカヒロ様を知っていたのね。」

 「実際にお会いしたことはありません。だけど、曾お爺様はタカヒロ様がこの時代へと来たことは理解していました。

 勾玉となっていたため、この時代に来たタカヒロ様とは会えなかった事は残念だと言っていましたが。

 アタシは曾お爺様からタカヒロ様の話を聞いて、勇者としての活躍も聞いていたのでタカヒロ様を尊敬しているんです。」

 「へぇー……」

 「ところで、じゃ、イナダよ。」

 「あ、そう言えばツクヨミ様、失礼をお許しください。知らなかったとはいえ、我ら妖怪の大先輩に剣を向けるなど。」

 「あー、それは気にするでない。わっちはもう忘れた。で、じゃ。おぬしは一人でここにおるのかや?」

 「アタシの住居はツクバにあります。そこで母様と暮らしています。」

 「そうか。ではおぬしの母と話はできるのでありんすか?」

 「はい、大丈夫だと思います。」


 結局はこの山に月の欠片、あるいはその手がかりとなるモノは無かった、という事になるかな。

 でも、手がかりとなるかどうかは判らないけど、おっちゃん様のお孫さん、イナダがそれに繋がる可能性はある、という事だよね。

 なにしろ、月の欠片を持っていたのはイナダのお爺様、おっちゃん様なんだもの。

 もっとも、それはサダコお母様が居た世界と、あっちの世界の話なんだけどね。


 私達は、それからイナダの案内でツクバにあるというイナダの家へと向かったんだ。

 

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