第121話 ノアの民 in イワセ温泉郷
アルテミスさんとの話を終えて、ひとまずルナ様だけを残して私達はグリペンさんの家で一休みする事にした。
グリペンさんはキューキさんの同族で、従妹にあたるんだそうだ。
ちなみにヌエさんはキューキさんの妹さんなんだって。
『こんな狭苦しい所で申し訳ない。』
「あ、お気になさらないで下さい。それにお気遣いなく。」
「お前はキューキと一緒に暮らしているって訳じゃねぇんだな。」
『そうだね。キューキ様は一応我らの主だから、従妹とはいえ、ね。』
「そういえば、キューキさんは200年ほど前に生まれたって言ってましたけど、グリペンさんはお幾つなんですか?」
『我はね、確か160年前に産まれたんだ。』
「え?じゃあ、私達と同じ年齢なんですね!」
『あなた達もか。え、ディーナとシャルル二人とも?』
「はい。2か月ほど違うだけで同じ歳です。」
『そうなんだ、見た目は凄く若々しいよね。』
「え?それを言ったらグリペンさんだって、ね?」
「そうですよねー、私達より若々しく見えるよねー、ちょっと羨ましいかな……」
そんな他愛のない話で盛り上がっているその一方で。
ルナ様とツクヨミ様、アルテミスさんが話していた。
「結局は“月の欠片”でお前は問題が無くなるのか?」
《うーん、その“月の欠片”というのが良く解らないから何とも言えないねー。》
「とはいえ、少しでも良くなればそれは試してみるべきだと思うが。それで一つ、お前に聞きたかった事がある。」
《何?》
「お前は実体化はできないのか?」
《実体化?》
「ああ。例えば私で言えば人工生命体を依り代として一応の実体化をしていたんだ。昔の話だがな。」
《考えた事もなかったなー。要するに物質化って事だよね、それって。》
「そうだな。」
《体を構成する物質っていうのが此処にはないからね。君たち人間、まぁ、ルナやツクヨミが人間かどうかはさておき、体の構造自体は完全把握しているけどね。》
「この星にはの、物質ではない存在もいるのでありんす。例えばウリエルやルシファー、まぁ、わっちもそうじゃが、いわゆる精神生命体という手もあるのではないかや?」
《精神生命体?》
「それはの、人間とは物質的な構造は全く違うものでありんす。この星で“幽霊”とかいうものもそれに等しいの。」
《そういう存在もあるんだねー。でも、それって結局はこの本体ありきの事だよね?》
「あー、その辺は正直私は何とも言えなくて申し訳ないんだが、ただ、実体化できれば本体の負担は少なくなる可能性もあるかと思ってな。」
「そうじゃの。いわゆる“ミラー”あるいは“コピー”とでもいう存在でありんすな。」
《実際の行動とかをその分身みたいのでって事か。なんか面白そうだねそれ。ちょっと調べてみるよ。》
「もっとも、月の欠片はどのみち探すし、それ以外の方法も色々と検討してみる。いずれにしてもお前を何とかしないといけないしな。」
《何というか、ありがとうね、ルナ、ツクヨミ。でもなんでキミ達はそこまで私を?》
「あの迫りくる脅威に備え対処するのに必要だから、だ。それ以外の理由はない。」
「くふふ、そういう事にしてくりゃれ。」
《こう言っちゃなんだけど、ルナ、キミって素直じゃない所があるんだねー。》
「な、何を言う。本当にそれだけだぞ?」
《あはは、わかった。でも、本当にありがとうね。》
一段落ついたところで、私達はリンツに戻った。
帰りの転移では、グリペンさんは特に体調に違和感はなかったみたいだ。
ただ、帰り際にとても怖がって青ざめていたっていうのは内緒だ。
で、今後の事なんだけど。
「それでは、私達は引き続きリンツで待機ですね。」
「ここはワシらが踏ん張っておくでの、そっちは月の欠片とやらを早く見つけてくるんじゃな。」
「すまないな、アズラ、ルシファー。」
「なるべく早く帰ってくるからよ。まぁ、見つけられればの話だけどな。」
「俺も行ってみたい気はするけどなー。」
「ま、オレらはオレらのやる事をやるだけだな。」
『我も力になりますよ、タカ、ヒロ。』
「アフラさんが居てくれれば心強いな。でも、なぁ。」
「うん、なるべくアフラさんに危ない事してもらいたくねぇな。」
『あなた達……』
と言う事で、私達は一旦イワセへと戻る事にした。
そこから情報の整理や準備を整えジパングへと向かうんだ。
「ごめんね、タカ、ヒロ。無理させちゃうかもしれないし。」
「良いんだって。ディーナ姉こそ大変なんだからさ。」
「シャル姉も頑張ってな。ここはオレらに任せおけよ。」
「ふふ、ありがとう、ヒロ。お土産持って帰るからね。」
「お土産って?」
「うーん、何にしようかなぁー……」
「ま、楽しみに待っててよ。」
「「 ああ。わかったよ。 」」
こうしてシャルルに乗ってイワセへと向かう。
シャルルならイワセまでは時間がかからないけど、転移魔法って言う手もあったな、そういえば。
「あはは、偶には遊覧飛行もいいんじゃないの?」
「そうかもねー。まったりとね。」
とか話している間にイワセに到着した。
ダイレクトに領主邸の中庭に降りたんだ。
と
「おかえりなさい、ディーナ、シャルル。それにルナとウリエルも。」
「お母様、ただいま。」
「アルチナお母様、ただいま。」
「おや、お前デミアンに居たんじゃないのか?」
「昨日まで、ですよ。せっかくこの子達が帰ってくるんですもの。ちょっとの間だけ兄に踏ん張ってもらおうかと、ね。」
「そうだな。今んとこアレらも静かなもんだしな。」
「さ、一休みしなさいな。その後で情報整理ですね。フランさんやサダコさんも色々と奔走してくれましたよ。」
お母様は昼食も用意してくれていた。
しかも、久しぶりのお母様の手料理だ。
牛肉を煮込んだシチュー、お母様とシャヴォンヌお母様の得意料理なんだ。
でも、全く同じ食材、分量なのに、二人のシチューは微妙に味が違う。
何でだろうと以前お母様達に聞いたら
「料理っていうのはね、そういうモノなのですよ。」
「うむ、お前達もその内わかると思うぞ。ちなみに、私とアルチの違いは“隠し味”の違いだな。」
だって。
そうしてダイニングに向かう途中で、見てしまった。
トキワお兄様とキューキさんが、テラスで仲睦まじく寄り添いながらお茶を飲んでいるところを。
なんとなーく、そうなのかなーとは思ってたんだけど。
なんだろう、お互い一目惚れなんだろうか。
「これ、ディーナ。そういうのはガン見してはいけませんよ。こっそり陰で見るのがマナーです。」
お母様に窘められてしまった。
そのマナーはどうかと思うけど。
というか、お母様達はもう納得してるのね。
ノアの民がイワセに移転して、今日で7日だ。
すでに全員が住居を得て、今は地上の空気に慣れるようにゆっくりと過ごしているんだそうだ。
それには温泉の効果も絶大らしく、すでに完全に馴染んだ人もいるんだって。
そんな中でも、すでにお仕事を始めている人もいたり、街中に繰り出し挨拶して回っている人もいるそうで、ノアの民はあっという間にこの街の人たちに受け入れられたんだって。
で、そのまとめ役としてキューキさんは領事館、つまり王宮だね。
そこに詰める事になったんだって。
その話を聞いて、その光景が見られて、私達は一安心したんだ。
ルナ様もウリエル様も、ほんのり笑顔でその光景を見ていたなぁ。
そして、食事を終えた私達は領事館の会議室に集まった。
さっきまでテラスにいたトキワお兄様とキューキさんも来てくれた。
そしてサダコお母様、フランお母様、カスミお母様が来てくれて、今後の為の情報整理を行うんだ。
「うむ、全員集まったかの。では、だ。」
「現状集まった情報の整理をする。」
ジパングの情報。
考えてみれば、私達はそれほどあの島国の情報を持っていなかったな。
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