第6章 異星人襲来 編

第119話 変化する脅威達

 ノアの人達の引っ越しは、結局ルシファーさんの転移魔法で実行する事になった。

 その準備の進捗を確認する為に、今日トキワお兄様とキューキさんは一度あのトンネルへと向かう事になったんだ。

 そんな話をしている真っ最中の事。


 通信機のアラームが鳴った。

 数日前に設置完了したばかりの通信機だ。

 その音を聞いた瞬間にヒバリお姉様は通信機の黄色いボタンを押し、私とシャルル、ルナ様、ウリエル様が身構える。

 そして音声が流れた。

 

 《ディアマンテス! 

 リンツ、ベクター290、ディスタンス80、ボギー6、

 スクランブルオーダー!》


 通信機から結花お姉様の声が響いた。

 そして、通信機でヒバリお姉様が内容を反復し「コピー」と回答する。

 それを聞いた私とシャルル、ルナ様、ウリエル様は無言のまますぐさま装備を装着し外へと駆け出し、シャルルが龍になってそのまま北西方向へと飛び立つ。


 ほんの1分程度の出来事だった。

 あっけに取られるキューキさん達とタカとヒロ。


 「何だ今の?」

 「すげえ、あっという間に行っちゃったぜ。」

 『な、何事?』

 「あー、これはね。」


 トキワお兄様が説明した。


 「モンスターに対する緊急出動なんだよ。ここから西北西80キロ地点に6体程出現が確認されたから行けって事さ。」

 「ほう、これがイワセのモンスター対応処置なのですか。」

 「凄いもんじゃの。でも、コイツらは置いてけぼりじゃな、ははは。」

 「そこも今後の課題ですね。元々あの4人体制での対応だから、8人になった今少し考えないとね。」

 「あー、俺ら飛べないしなぁ。」

 「じいちゃんの転移魔法ならいけるけど、あんまりじいちゃんに頼るのもな。」

 「ほッほッほッ。わかっておるではないか。まぁ、今ディーナが習得中の転移魔法、後でお前達にも教えようぞ。」

 「「 ホントか! 」」

 「ま、会得できるかどうかはまた別の話じゃがな、はははは。」

 「じいちゃん……」

 「マジでイケズだな……」


 と、再び通信機から声が響く。


 《ヒバリ姉聞こえる?》

 「どうしたの結花?」

 《リンツ150にも出現だって!もうあの子達行っちゃったよね?》

 「ええ?」

 《どうしよう!?》

 「距離と数は?」

 《えーと、310と2だね》

 「トキワ。」

 「だな。俺が行くよ。」

 「あー、待つがよいぞ、トキワ王。」

 「ルシファーさん?」

 「私達もディアマンテスの一員です。私達が出向きましょう。」

 「「 だな! 」」

 「ちょっと送っていくのが遅れてしまうが、宜しいかの?」

 「そうですか。お願いします。」

 「「「「 任せて。 」」」」


 「ところでじゃ。」

 「はい?」

 「どっちに行けば良いんじゃ?」


 



 飛び立ってから10分弱で接敵予測場所に到着した。

 したんだけど……


 「タカたち置いて来ちゃったね。」

 「仕方ないよねー、私達初動が身体に染み付いちゃってるからね。」

 「そうだな、アイツらに説明してる暇もないしな。」

 「ま、そりゃ後で考えるとしてだ。見えたぞ。」


 モンスターの集団を視認した。

 でも

 6体のうち2体、というか、2人、あれは!


 「ウリエル様、あれ、もしかして!」

 「ああ。ま、こそこそされるよりかは良いけどな。」

 「ねぇ、ディーナ。」

 「うん。迷ってる暇はないね。行こう!」

 「インディビデュアルだ!」

 「「 はい! 」」


 シャルルが人型へ変化すると同時に落下し、私達はモンスターの集団の中に着地する。

 モンスター達は上の警戒が甘かったようで驚いているんだけど、身構える前にヴァイパーとイーグルがモンスターを切り裂き消滅する。

 そして。


 どう見ても人間。

 ただ

 その体からは瘴気が噴出しているし、顔色も悪く眼が尋常じゃない。

 よく見ると体のあちこちに異変が見られる。

 でも


 「シャルル!左!」

 「オッケー!」


 躊躇する事なく、その人を屠った。

 ルナ様とウリエル様も他のモンスターを一掃し終わり、集合したんだ。


 「ウリエル様、例の人達ってこういう行動をするだけなんでしょうか?」

 「どうだろうなぁ……であれば救われるんだけどな、どうも嫌な予感がするんだよ。」

 「もしかしてですけど、獣人型のモンスターって、こういう人達を素に、あるいはモデルに?」

 「良い読みだなシャルル。その方が可能性は高いような気がするな。だが……」

 「ああ、そんな単純な事じゃ終わんねぇだろ。間違いなく戦争の火種になろうって奴も潜伏してるぞ、これ。」

 「どうにかして炙り出したいですよね。」

 「手がかりは今の所瘴気だけ、か。」

 「にしてもよ、お前ら躊躇なく片付けられたな。」

 「はい。だって、こうする事が唯一の救済だって理解しましたから。」

 「悲しい気持ちは残りますけど。」

 「……そうか、成長したんだな。」

 「よし、じゃあ帰るとするか。」


 周囲の警戒もしつつ、私達はリンツへと戻ったんだ。

 拠点へ戻ると、マスミお姉様が帰ってきていた。

 とっっっても上機嫌な、輝く程の笑顔で!


 「あ、マスミお姉様おかえり!」

 「あなた達もおかえり!」

 

 (どうしたんだコイツ?メチャクチャテンション高いな。)

 (あれだろ、野暮用が充実してたってこったろ。)

 (ふ、二人とも、悪いけどそこはサイレントでお願いね……)

 (ああ。)

 (わかってるよヒバリ。)


 「お姉様何処に行ってたんですか?」

 「えーとね、レイ商会にちょっとお手伝いにねー。」

 「あ!エルウッドさんの所!」

 「それでご機嫌なのね!」

 「キャー!なんでわかったの!?もーシバくわよ♪」

 「「 だから、なんでよ!? 」」


 (け、結局ダイレクトに聞いちゃうのね、この子達……)

 (アホか……)

 (わからいでか。)

 

 ルナ様とウリエル様は、微笑みながら、というかちょっと変わったアルカイックスマイルでそんな事をぼそっと呟いた。

 でも、今マスミお姉様とっても嬉しそうだから良いのかな、うん。

 そんな一幕もあったんだけど、気が付くとタカとヒロ達がいない。


 「ああ、彼らはもう一方に出現したモンスターの対処に行ったわよ。」

 「もう一方?」

 「ええ、あなた達が出て直ぐに追加の情報が来てね、ルシファーさんの転移魔法で。」


 そうなんだ。

 こんな事も、今後多発するんだろうなぁと思うと、対処の方法を改善する必要があるよね。

 そう考えいると、トキワお兄様が同じ事を言った。


 「モンスターの規模にもよるけどな、ディアマンテスは2班に分かれて緊急出動の対応をしないといけないな。」

 「そうだな。アイツらはルシファーの転移魔法がある、私達はシャルルの飛行で急行できる、と言う事は。」

 「班分けはそれで問題ないと思う。私もルシファーさんに転移の事を教えてもらったし。」

 「あっちの負担も軽くしないといけねぇがな。」

 

 ただ、そうなると月の欠片探しは他の人に依頼しないといけない、のかな?

 今日のモンスター出現は実に数か月ぶりの事だ。

 おまけに瘴気によって変貌した人間も加わっていたし。

 でも、戦力としては数年前のレベルだったね、そういえば。


 「そうだな。結局お前達も覚醒することなく処理したな。」

 「アタイらも殆ど力を出してなかったしな。」

 「と言う事は、だ。」

 「トキワお兄様?」

 「ここにはしばらく俺が駐留するよ。お前達には月の欠片を探してもらうとするかな。」

 「え?でも、お兄様だけで対処を?」

 「まー、ヒバリも居るし、それにさ。」

 『あ、あの。我も、トキワ王につ、追従する……』

 「キューキさんが!?」

 「キューキさんがいてくれれば心強いけど……」

 「良いんですか?その、移転の事とか。」

 「ああ、それは早急に済ませるよ。その後でって事だ。」

 「ああ、なるほど……」


 と、タカとヒロ達が帰ってきた。


 「ただいまー。」

 「疲れたー。」

 「嘘をつけバカ者。お前達遊んでいたじゃろうが。」

 「ただいま。モンスターは6体処理してきましたよ。」


 「え?」と驚くヒバリお姉様。

 トキワお兄様も「どういう事?」と驚いている。


 「恐らくですが、発見した時の2体というのは獣型のモンスターの事だと推測されますね。」

 「でもさ、行ったらモンスター化した人間が4人いたんだよ。残念だけど楽にしてやったんだ。」

 「だから都合6体ってことさ。ちょっと、不気味な人間だったぜ?」

 「この前ウリエルから聞いたアレの事じゃと思うぞ?」

 「そ、そっちも、ですか!?」

 「と言う事は、そちらにも人間が?」

 「はい。」


 たぶん、だけど。

 瘴気にやられた人間は、モンスターの集団に組み込まれた、という感じかもしれない。

 そして、よくよく考えると。

 私達が対処した6体、タカたちが対処した6体、いずれもスウィッツランド方向へと進んでいた。

 これって、やっぱりあの洞窟内のコアもどきを、と言う事だよね。


 「あのよ、もしもの話だけどよ、アタイらがキューキ達と邂逅してなかったら、そいつらってそのままあの洞窟内にって事だよな。」

 「そう、だな。そしてキューキ達の認識があのままだったら……」

 「ま、間違いなく人間が襲って来たってなりますね。」

 「そうなると……」


 そんな話を聞いて青ざめるキューキさんとアフラさん、グリペンさん。

 少なくとも、そうなっていたらキューキさん達は完全に人間と魔族を敵と認定するはず。

 状況も状況なだけに、下手をすれば地上の人達との和解の可能性は完全に無くなり、全面戦争っていう可能性だってあった、と言う事。

 その先にあるのは、間違いなくキューキさん達ノアの民の消滅、という筋書きだって……


 「ま、幸いな事に今現在そのもしも、は可能性すら無くなったからな。安心して良いと思うぜキューキ。」

 『は、はい。でも、本当に恐ろしい話だ……』


 「モンスターに、それほどの知恵がついたという事なのか?」

 「これももしもの話だけどよ、瘴気に中てられた人間は兵士が殆どだろ?中には戦略を学んだ奴もいたかも知れねぇし。」

 「コアが、人間の知恵までも吸い込んでいるって事?」

 「いや、コアじゃないかもな。」

 「そうじゃな、コアが、と言う事ならそんなまどろっこしい面倒な真似はせんじゃろう。」


 いずれにしても、そこも調べる必要がある、わよね。

 それと同時進行で月の欠片探しか。

 やっぱり大変な事になってきたなぁ。

 

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