第118話 猶予は1年間


 トキワお兄様はキューキさんを伴って拠点に帰って来た。

 キューキさんの従者という事で、アフラさんと今度はグリペンさんが一緒だ。

 ただ。

 なんだろう。

 トキワお兄様、何だか見たことがない表情をしているし。

 それにキューキさん、あんなにお淑やかな雰囲気だったっけ?

 おまけに、しっかりと手を繋いでたりしてるし……

 微妙な雰囲気を二人で醸し出しているんだけど、なんだかそこに突っ込んではいけないような気がする。


 「おい、ルナ、トキワの奴どうしたんだ?」

 「ん?ああ、まぁ、ひとまず見守ろうか。」

 「あー、そう言う事か……」

 「ウリエル様?」

 「気にすんな、というか、気にしちゃいけない。なるべく触れてもいけない。」

 「「 へ? 」」


 と、とりあえずそこは触れずに置いておこう、うん。


 「キューキさん、いらっしゃいませ。」

 「お疲れでしょう?ゆっくりしてください。アフラさんもグリペンさんも。」

 『すみません、ありがとう。』

 「あ、アフラさんいらっしゃい!」

 「こんちは!」

 『タカ、ヒロ、こんにちは。』


 タカとヒロはすっかりアフラさんに懐いているみたいだ。

 アフラさんからは母性というか何というか、大きな包容力を感じるからなんだろうなぁ。

 というか、あんなに強いのに凄いよね。

 ちょっとうらやましいと思ったのは内緒にしておこう、うん。


 リビングでお茶を用意し、話を伺う事になった。

 トキワお兄様の隣にキューキさんが座る。

 何と言うか、恥じらっているのか、キューキさんがモジモジしている姿はとってもキュートだ……


 「それでお兄様、ノアの方々の受け入れの話はまとまったの?」

 「ん?あ、ああ。ノアの民全てがイワセに移住することに同意してくれたよ。

 聞けば、キューキ様を始めノアの民は少し特殊な存在なんだそうだ。だから地上での生活に馴染む必要があるんだそうだ。それもあって、イワセなら問題なく生活できるからね。」

 「特殊?」

 『先般、あなた達との闘いで見せたものです。この世界に漂う物質に対して抵抗力がないというか、そういうモノが身体に影響を及ぼすのです。』

 「え?じゃあ、あの時魔法を打ち消したのは?」

 『この腕輪によって、その物質を消し去って身に降りかかるのを防いでいるのです。』

 「そ、それじゃその腕輪が無いとキューキさん達は地上で暮らすのが難しいんじゃ?」

 「それがな、そうでもないらしいんだよ。」

 「へ?」


 お兄様によると

 完全に抵抗力が無い訳ではなく、キューキさん達の代ではある程度馴染んでいるはずだという。

 それは他でもないアルテミスさんから聞いたから間違いないだろう、との事だ。


 「アルテミスさん?」

 「誰?それ?」

 「ああ、言い忘れていたが、ノアの民を導く存在が居るんだよ。」

 「それはな、かつてのジーマでの私と似たような存在だ。もっとも、ブルーのような敵性要素はないがな。」

 「そのような方が居たんですねー……」

 「で、話を戻すと、だな。」


 キューキさん達ノアの民全員が多少の差はあれ、完全に地上での生活ができる訳ではないらしい。

 でも、馴染むにはそれほど時間はかからないだろうというのが、そのアルテミスさんの見解なんだって。

 それさえクリアしてしまえば、あとは問題はない、という事らしい。


 「そ、それじゃ、あれですね!例えばですけど!」

 「キューキさんとトキワお兄様との子も問題なくできるってことですよね!」

 「!!」

 『!!』


 (あー、バカ……)

 (ここでそれ言ってしまうか普通……)

 (ディーナ姉達って、すこしアレだよな。)

 (オレたちでもこのくらいの空気は読めるぞ……)


 なぜか、空気が固まった。

 え?

 あれ?私達何か、変な事言っちゃったのかな?

 キューキさん、顔が真っ赤になっちゃったけど……


 「そ!それはともかく、だ!」

 『……』

 

 「キューキ様達ノアの民はイワセへ移住する事は決定だよ。今ノアの人たちは引っ越しの準備を始めたところなんだ。」

 「じゃぁ、イワセの方でも準備しないといけませんね。」

 「ああ、ただ、そんな事もあるかと思ってね、住居や仕事なんかは既に受け入れ体制は整っているんだよ。」

 「そうなの?」

 「ああ。元々はモンスターによる難民対策でもあったんだけどね。という事でこの先、生活の事は何の心配もないんだよ。な、ヒバリ。」

 「ええ、そうね。既に事のあらましはイワセへと報告済ですから、こちらも準備は始まっています。」

 「とはいえ、だ。ノアの民の移住とはまた別に、大きな問題が判明したんだよ。」

 「大きな?」

 「問題?」

 

 トキワお兄様が話したその問題。

 到底信じられないモノだった。


 一つの惑星を壊滅させるほどの脅威が差し迫っているだなんて……

 聞いた限りじゃ、それってモンスターの比じゃないほどの大きな脅威って事だよね。


 「悪魔、じゃと?」

 「それはルシファーとはまた別の存在なのですか?」

 「聞いた話じゃそうみたいだね。それは昔父さんが言っていた、人間が認識する悪魔そのものって言ったところだね。」

 「うーむ、悪魔を騙るとはのう。ワシらにゃ迷惑な話じゃ。が。」

 「そうですね。私達はモンスターとコアに加えて、それにも備えなきゃいけないって事ですよね。」

 「ディアマンテスには更なる苦労を掛けてしまう事になるけど、俺達もできる限り加勢するつもりだ。」

 『それについては、トキワ王ともお話しましたが、我らノアの戦士たちも加わろうと思います。』

 「ホントに申し訳ありません、キューキ様。」

 『い、いいえ、こんな事でしかお返しできない我らですから……』

 「キューキ様……」

 『トキワ王……』


 見つめ合ってるお兄様とキューキさん。

 な、なんだろう、この空気は?


 「あー、オホン。とにかく、だ。」

 「はッ!」

 『あ!』

 「そ、その脅威は一年くらいでやってくるらしい。その対策の要となる情報体アルテミスさんも、あと一年程しか持たないとの事だ。」

 「じゃ、じゃあ……」

 「あと一年以内にモンスターとコアは何とかしないといけないって事?」

 「ま、まぁ、早く解決するに越した事はないといえるけど、焦ってもいけないと思うぞ。」

 「そ、そうですね。」

  

 ちょっと新たな情報を得られた。

 そのアルテミスさんって、言ってみれば私達にとってのルナ様やウリエル様のような存在なんじゃないかな。

 だとしたら、そんな大きな存在が無くなるっていうのは、キューキさん達にとってどれ程の痛手になるんだろう。

 それに、対策の要、とも言った。

 もし、その脅威がやってくるのが遅れたら、その時にアルテミスさんが居ないとなると、その脅威への対応も後手に回るのかも知れない。

 となると……


 「キューキさん、アルテミスさんを生き永らえさせる方法は、手立てはないのでしょうか?」

 『現状はない、のかも……』

 「俺が聞いた話じゃ、老朽化した部品の交換で少しは伸ばせるかもしれないが、その部品の交換ができる者がいないんだ。」

 「ルナ様でも無理なのですか?」

 「ああ、残念だが無理だ。構造の概念からして異質だ。地球の科学力など遠く及ばないんだよ。」

 「まー、アイツだったら何とかできそうだけど、さすがになぁ」


 「できない事はない、かも知れぬなぁ。」

 「ツ、ツクヨミ様!」

 「お、お前また!」

 「可能性はある、という程度でありんすが。」

 「それってもしかして!」

 「察しがいいのシャルルや。そう、“月の欠片”が使えると思いんす。」

 「月の欠片!」

 「で、でも月の欠片はもう」

 「存在しない、という事はないと思いんす。微かにじゃが、その波動は感じるのでありんす。」

 「じゃあ、月の欠片を見つけられれば!」

 「しかし、月の欠片にそんな力もあるのか?」

 「うむ、手前味噌になるがの、月の欠片は事そっち方面では万能なのじゃ。一方、だからと言ってその悪魔とやらに有効という訳でもないのであるがな。」

 「でも、月の欠片っていったい何処に……」

 「おおよその方向は東でありんす。」

 「というとやっぱり」

 「日本……いえ、ジパング……」


 多数の脅威に晒された今、一つの光明が見えたと言っていいのかな、これ。

 ノアの民の救済が確実になった今、取れる手立ては全て取って皆を救わないと。

 でも。


 モンスターとコアの処理。

 惑星をも滅ぼす脅威。

 それの対抗手段であるアルテミスさんの延命、つまり月の欠片の探索。


 これだけの大仕事を、一年以内、いえ、もっと短期間で、という事だよね。

 さらに難易度が上がったなぁ。

 でも、私達が頑張らないと!


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