第117話 宇宙の闇、本当の悪魔
ノアの民受け入れに関してはほぼ話はまとまった。
キューキさんの住居で一泊した翌日、アルテミスさんと話をすることになった。
というか、驚いたのはここは地底にもかかわらず昼と夜がきちんとあるって事だった。
光は単なる光を発する植物の類なんだろうけど、時間で明滅するってのがとても不思議だった。
ちなみに、昨夜はキューキさん達に歓迎の酒盛りをしてもらったんだけど。
彼女たちが普段摂取している食事も、これまた美味しかったんだ。
基本肉は無いらしいけど、豆が主食らしくてそのバリエーションが豊富だった。
酒も美味しかったんだけど、お酒はここでは貴重なものみたいなのでちょっと気が引けた。
そう思っていたら、フラっとルシファーさんとディーナが空間移動で現れ、お酒を差し入れてくれた。
ディーナ達はそのまますぐに帰ったんだけど、聞くと今回の空間移動はディーナが実行したんだとか。
その練習も兼ねてなんだろうけど、気が利く妹で助かったよ。
キューキさんの案内で、アルテミスさんがいる部屋へと歩く。
『じ、地面がデコボコで危険なので……』
といってキューキさんは俺の手をとって補助してくれてるんだけど……
手を繋いで歩く俺とキューキさん。
そんな様子を、ルナさんとツクヨミさんはアルカイックスマイルでじっと見てる……
というか、キューキさん、ルナさんとツクヨミさんには補助無しなの?
まぁ、俺も含めてそれは必要ないと思うけどさ。
と、やってきたのは鉄らしき素材でできた厳つい船みたいな乗り物だ。
かつてカスミ母さんが言っていた、UFOとかいうモノみたいだな。
中に入り、中央部分だという所にその部屋はあった。
それを見たルナさんは
「やはり、な。しかしこれはもはやコンピュータなどと呼べる代物ではないな……」
「ルナさん、これって?」
「ブルー時代の物より遥かに進んだ文明のモノだな。おそらく地球人では開発どころか、概念すら生まれないだろうな……」
「と言うかじゃの、見ただけでそれと判るルナも大概じゃと思うのでありんす。」
「並列量子コンピューターをはるかに超えた性能、メモリ容量は無限大、処理速度はかつての私の数百倍、予測とは違う想像という思考と感情……これはもはや人間を超えているのでは……」
《ようこそ。これが私の母体だよ。ルナ良い読みしてるねぇ。実はね、これは単なるメカじゃないんだよ。》
「機械じゃない、だと?」
《機械の部分はね、代謝による劣化や老化の対策ってところさ。基本構成はそのまんま有機体の“脳”と同じだよ。素になったのは数十人分の脳なんだよ。》
「なんと……」
「ど、どういう事?」
「トキワ、やはりノアの文明は地球に比べてはるか先を行っている、という事だ。もはや説明も理解も追い付かないレベルだな。」
「要するに地球の人間じゃ不可能って事?」
「そうだな。そこのレベルに到達できる可能性は、現状ゼロに近いだろな。」
「はぇー……」
《とはいえ、だよ。ノアとて純粋な進化だけでそこまでの文明が発達した訳じゃないんだよ。》
「え?」
「何だと?」
《それが、さっきまでこの子達に言えなかった事が関係しているのさ。》
アルテミスさんは、そのまま事実を話してくれた。
ノアの文明は元々、流星群衝突前の地球とそれほど変わらなかったんだそうだ。
それが、あるきっかけを境に一気に文明は進化、変貌していったそうだ。
未知の概念、技術が、外部よりもたらされた、という事らしい。
その外部というのが
《私達とは別の惑星から逃げてきた異星人によって持ち込まれたモノだね。》
「まだ他にもそういう星があるという事か。」
《そう。幾つ程存在するのかは私でもわかんないけどね。ただ、その時逃げてきた異星人っていうのは……》
ノアに逃れてきた異星人。
それはほぼこの地球の人間の姿そのままだったらしい。
その異星人が乗っていた乗り物には10数名が乗っていて、その人達が科学力を飛躍的に進化させたそうだ。
が、しかし。
気になったのはそこじゃなく、逃げてきたって所だ。
「アルテミスさん、その人たちって、何から逃げてきたんですか?」
《そこが問題の本質なのさ。いいかい、そんな高度な文明をもつ星の住人が逃げるほどの出来事があった、という事なんだよ。》
「出来事、ですか?」
《その星はね、突然現れた、たった一つの存在によって蹂躙されたんだってさ。》
「蹂躙?」
《簡単に言うと、片っ端から殺されたって事だよ。その存在は出現してから数日で、星の人口の半分を惨殺したんだってさ。》
「そんな、でも、何のために?」
《理由はわからないし、もしかすると理由は無いのかも知れないね。ただ、その星の人たちには抗う術は無かった、という話だよ。》
「理由がないって、そんな馬鹿な……」
《まぁ、意思の疎通を図るヒマもなかったんだろうけどね。その存在はの事は“悪魔”と呼んでいたそうだよ。》
「悪魔って……」
「ここにも悪魔は居るぞ。ルシファーやマコーミックなんかは本物の悪魔だぞ?」
『トキワ王、ここにも悪魔が!?』
「あ、はい。先般のルシファーさんは悪魔ですよ?」
『この星の民は、そんな危険な存在と共存しているのですか?』
「いえ、キューキ様、この星の悪魔はたぶん、その話の者とは別だと思います。ですので、心配はしないで下さい。」
『あ……はい。トキワ王……』
《あー、存在への呼称は同じだけど、その存在そのものは全くの別物で間違いないよ。》
その“悪魔”という存在の詳細は判らないけど、でもそれは少なくとも13,000年以上前の遠い星の出来事だ。
この星でそういう存在の話は聞いたことがないし、それほど気にしなくても良いんだろうか……
でも、そんな存在がこの星に出現する可能性というのはゼロではないとも思う。
ルナさんも同じ事を思ったのか、難しい顔をして考え込んでいるな。
《で、ここからが本題だよ。その存在はね、遠からずこの星にもやってくるかも知れないんだよ。》
とんでもない爆弾発言だった。
たった今その可能性の事を考えていた俺とルナさんは思わず顔を見合わせ、少しの間固まってしまった。
「ア、アルテミスさん、それって間違いない事なのですか?」
《可能性はとても高いね。私のデータにあるのは、似たような事例で滅んだ有人惑星は複数存在するって事なんだ。
そのデータを元に数億回のシミュレーションをしたんだけど、10日前までのその結果は一年以内という結果が多かったな。
実際、その星への襲撃の後は私達ノアに向かってくるかも知れなかったんだけど、その前に流星群によって滅んじゃったんだけどね。
ただ、その星から逃げてきた人達は、その星は“末期”だったので結局は自滅する可能性もあった、という話もしていたみたいだね。》
末期?
何の末期なんだろう、それ?
「末期、だと?」
「ルナさん?」
「いや、先日アズライールもそんな事を言っていた。今この世界は末期に差し掛かっている、とな。それが何なのかは詳しくは聞いていないが。」
《末期というのはね、言い方を変えれば過渡期というか転換期という奴だね。ここでの末期がそれを指すのかはわからないけど、この星でも過去幾度かそういう事があったはずだよ。
例えば氷河期によって大型生物が絶えたとか、神と崇められる者が出現したとか、直近で言えば流星群衝突で星が二つに分かれたとか、ね。》
要するに、歴史の大きな節目がそうなんだろうか。
でも、氷河期とか神と崇められるとか、それって何なんだろう?
「なるほどな。つまり大きな厄災がもうすぐ起こるかも知れない、という事か。」
「ルナさん、それって何なの?」
「ああ、遥か太古の、この星の出来事だよ。それこそ人間云々関係なしの、この星そのものの歴史だ。」
「へ、へぇー……」
『……』
キューキさんは話を聞いている内に、何とも切ない表情に変化していった。
もしかして、とは思うけど、この事にキューキさんは一切関与していないのは明白だ。
だから
「キューキ様、大丈夫ですよ。」
『トキワ王……で、でも……』
「あなた達がそんな厄災を持ち込んだ、なんてことは全くありません。ルナさんの言う通り、この星そのものの過渡期と言うだけの話なんですから。」
『な、なぜ私の考えが?』
「ん?あれ、何でだろう?いや、何となくそうかなって思ったんです。僕にもわかりませんよ、あはは。」
「ところで、だ。今私達はそれ以前にモンスターという脅威に晒されているんだ。まずはそれを何とかしないと新たな脅威になど対処できないだろうな。」
《そうみたいだね。でもさ、それはたぶんだけど解決できると思うよ。この前来たルナの仲間が何とかするんじゃないの?》
「何とかって?」
《何とか、さ。》
モンスター、いや、コア、だな。
目の前にあるその脅威に対しても手をこまねいている現状で、新たな脅威が差し迫ろうとしているって事だ。
だけど、焦ったところで事態は好転しないようにも思う。
ルナさんもそう考えたんだろうな。
「わかった。アルテミスとやら、話は分かった。が、実際お前はあとどれくらい稼働可能なのだ。色々と情報は聞きたいんだが。」
《うーん、そうだね、持ってあと1年ちょっとくらい、かな。保守部品もあるけどそれを手掛けられる者はいないからね、どこか機能不全になったらそこで、ってなるかもね。》
「そうなのか。では、1年以内にモンスターとコアを何とかするしかない、という事なのだな。」
「あ、でも保守部品っていうのは?」
「壊れた部分を新しいものに交換して正常な状態にする部品の事だな。私もある程度ならわかるが、アルテミスは私もしらない未知の構造だし……」
ともあれ、ゆっくりはしていられないって事だよな、これ。
というか、元々ゆっくりしていられる状況でもないんだけどさ。
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