第103話 リンツにて
リンツの拠点に到着した。
出迎えてくれたマスミお姉様はエプロン姿で玄関から出てきた。
もう、ぱっと見は若妻か主婦か、だ。
「おかえり。疲れたんじゃない?」
「マスミお姉様ただいま。」
「ちょっと疲れたけど、問題ないよ。」
「で、そちらの方がルシファー様ですね?」
「うむ、初めまして、じゃな。なかなかどうしてキミも美しいのぅ。」
「うふふ、ありがとうございます。マスミと言います、よろしくお願いしますね。」
「うむ、厄介になるな、よろしくじゃ。」
ルシファー様によると、あの男の子二人はシャヴィお母様と入れ替わりでここにやってくるらしい。
そして私達と行動を共にする為、ここに滞在するとの事だ。
私達ディアマンテスは、ここリンツをベースにして、あのトンネル探索を実行する。
あのトンネル内にコアが有る、という可能性は非常に高いのは間違いない。
従って、まずしなければならないのはコアを視認しその存在を明らかにする事だ。
封印の手段がない今、それ以上の手は打てない。
精々が新たに排出されるモンスターをその場で殲滅する事。
でも、現状それが一番厄介な事だと思う。
先日の闘いでは、アズライール様達が加勢してくれたことで事なきを得たという側面もある。
私達4人のままだったら、あの闘いもずっと長引いて脱出もままならなかったかも知れないんだ。
まんまと罠に嵌まって引き込まれたっていうのもあるけど、準備は万端にして挑まないとかなり厳しい事になるはず、よね。
「で、あんた達はまたスウィッツランドに行くんでしょ?」
「うん。でも、今回は後から来るルシファー様の仲間と一緒ですけど。」
「とは言っても、色々と準備してから、になりますね。長期戦になりそうだから特に、食料はたんまりと持ってかないと。」
「そんならさ、そっちは私が手配するよ。」
「マスミお姉様が?」
「うん、実はね、この先の街のお店と契約してね、定期的に食料を配達してもらうようになったのよ。」
「定期的に?」
「というかね、買い物行くのも大変だし、私が行くとここは空き家になっちゃうでしょ、だからね。」
「なるほどねー。」
「丁度今日配達してくれる日だからね、あんた達が出発する前に注文して食料を届けてもらうから、何がどんだけ必要かを纏めておいてよ。」
「はーい。」
「殆どの食材は用意できるようだから、その点は心配ないよ。」
と、ドンピシャのタイミングでそのお店の人が来たみたいだ。
「こんちはー!マスミさん。お届けですよー!」
「あ、はーい♪」
……一瞬でいつものマスミお姉様とは違う声色になった。
こんな声を出すお姉様は初めてだ。
なんで?
配達に来たお店の人を見る。
と、年若い、長身で体格のいいイケメンの男の人だった。
で、マスミお姉様はというと……
頬を赤らめて、すっごくお淑やかに笑顔でお話してる。
(ねー、シャルル、あれって。)
(まさか、マスミお姉様……)
「ほう、マスミはあの男に気があるようだな。」
「ルナ様。」
「ま、兄弟姉妹の中で一番最初になるかも知んねぇな、あいつ。」
「ウリエル様?一番最初って?」
「あー、あのなお前らさ、何でそういうトコ果てしなく鈍いんだ?」
「「 え? 」」
「ふふ、二人ともタカヒロの子、という事なんだろうさ。ま、私らは邪魔しないようにしないとな。」
するとマスミお姉様はその男の人を連れてきた。
やっぱり何かウキウキしてるなぁ、お姉様……
「下の街の商店を営んでるエルウッドさんよ。」
「毎度お世話になってます……って、マスミさんの妹さんですか?」
「そうなの。カワイイでしょう?」
「あー、はい。でも……マスミさんも……」
「「 え? 」」
「ああ!いえ、何でもありません!それで食材のご注文ですね!」
エルウッドさんに必要な食材の種類と量を伝えて、明日配達してくれるようにした、んだけど。
エルウッドさんも、何気にマスミお姉様を意識してるのかな?
そこはかとなく、そんな気がする。
笑顔で帰るエルウッドさんと、笑顔で手を振るマスミお姉様。
「あ、あの、お姉様?」
「んふふー、いい男でしょ彼?」
「もしかしてお姉様」
「あー、でもね、彼は奥さんが居るみたいなのよねー、ちょっと残念だわ……」
そういうと物凄く落ち込んだ。
さっきの満面の笑顔とのギャップが激しすぎる。
まぁ、気になった相手が既にアレじゃ、それも仕方がないのかなぁ。
流石に横恋慕はマズイと思うし、ね。
「なんつーかさ、こいつらってこういう縁が薄いんじゃねぇか?」
「そうなのか?私はそういうの全然わからんのだが。」
「まぁ、アタイらはその辺何も手助けできねぇんだけどな。」
ルナ様もウリエル様も、何というか応援したい気持ちがあるみたいなんだけど。
当のお姉様はもう諦めモードなんだろうか。
というか
私達兄弟姉妹って、異性とお付き合いできても、結局素性がバレたら相手は離れちゃうってスペリアお姉様も言ってたしねぇ。
おかげでまだ誰一人としてイイ人と結ばれてないんだけどね。
翌日、エルウッドさんは大量の食材を馬車に乗せて配達に来た。
一人の女性を伴なって。
あの人がたぶん、エルウッドさんの奥さんなのかな?
とっても奇麗な人だ。
「毎度!マスミさん、お届けに来ましたよ!」
「ご苦労様です♪」
お姉様の切替が早い……
でも、表情は昨日ほど晴れやかじゃない、のかな……
「ちょっと今日は量が多いので、義姉さんに手伝ってもらいました。あ、こちらは僕の義姉です。」
「毎度お世話になってます、マスミさんの妹さんですね?エルウッドの義姉のキャリーです。」
「あ、初めまして、今後ともよろしくお願いします……」
……義姉?
エルウッドさん、義姉って言ったよね?
え?じゃ、じゃあ、と、マスミお姉様を見てみると……
満面の笑顔になってた!
積み荷を全部卸すのを手伝ってからお茶を淹れて、エルウッドさんとキャリーさんを交えて一息ついてお話をした。
聞けば、エルウッドさんは兄のジェイクさんっていう人と兄弟でレイ商会を運営しているんだとか。
マコーミックさんからの紹介でウチに来たらしい。
で、一度取引契約の為にマスミお姉様はお店に行ったんだけど、その時にエルウッドさんとキャリーさんが対応したらしい。
それを見て、マスミお姉様は二人が夫婦だと思ったんだって。
ところがどっこい、キャリーさんは兄のジェイクさんの奥さんで、エルウッドさんは独身で恋人もいない、という事だそうだ。
というか
マコーミックさんの紹介ってことは、既に私達の素性は解っている、と見て間違いない、よね?
話をしている最中、もう、お姉様からは何とも言えない“ハッピーオーラ”が放たれていた。
お仕事を終えてエルウッドさんとキャリーさんは帰って行った。
心なしか、エルウッドさんの表情も何というか、明るい気もする。
「あ、あの、お姉様?」
「ん?ああ!なーに?」
「もしかして、エルウッドさんの事……」
「きゃー!そんな事!そんな、ねぇ!もーシバくわよ♪」
「「 なんでよ!? 」」
「ビンゴかよ。」
「そのようだな、良く解らんが。」
「アオハルじゃのう。」
ま、まぁ、これはもう応援するしかないよね。
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