第102話 出撃前夜
あまりゆっくりもしていられないんだけど。
結局会議は夜まで続いたので、本格始動は明日朝からとなった。
モンスターの出現も落ち着いている今、せっかくなので今夜はゆっくり休むこととなったんだ。
一応警戒と監視は必要ってことで、ベルとリードには出張ってもらっている。
まあ、様子をみて何もなければ帰還させよう。
ラミウス様は、私とシャルル、ルナ様、ウリエル様、ルシファー様に高級宿の一室を手配してくれた。
この宿は大統領府の一角にあり、各国首脳が来国した際に使われる宿なんだって。
見るからに豪奢な建物で、少し気おくれしちゃうなぁ。
もっとも、ラミウス様曰く、私達こそ国家的な来賓だからって言っていたな。
とはいえ、ね。
そうなんだろうけど、やっぱり分不相応な気はしちゃうよね。
「とはいえな、なぜワシがお前達と同室なんじゃ?」
「ん?なんだ、私達と一緒じゃ不満なのか?」
「ジジイ、贅沢いってんじゃねぇよ。というかむしろ喜べよ。」
「むーん、お前らな、そういう不躾けなトコをディーナとシャルルに見せるんじゃないわバカ者。」
「あん?何をいまさら。アタイらはいつもこんなだよ。なぁ、二人とも。」
「そうですねー、確かに。」
「えへへ、もう馴れっこです。」
「キミらは本当に擦れずに育ってよかったな。まぁ、あの方と母親たちがあれじゃからいい娘に育ったんじゃな。今後こいつらに毒されることもないだろうな。」
「ひでぇ言い方だなジジイ、それ。」
「というか、どっちかと言うとお前を見ているとあの二人の方が心配だがな。」
「ああ、あ奴らは至って素直で優しくすくすく育っておる。多少ガサツなのは男の子じゃからな。けしてワシのせいじゃないぞ?」
「どうだかなぁ。」
「ところで、あいつはどうした?」
「ん?アズラの事か?」
アズライール様は、ルシファー様の代わりに今あの男の子達と一緒にいるらしい。
シャヴィお母様の代わりに南米大陸のモンスター討伐に従事しているあの子達の保護者として。
明日以降、シャヴィお母様が任地に到着次第、こっちに帰ってくるとか。
「ところでルシファー様、あの二人は勇者なのですか?」
「そういえば、この前そう言ってましたね。」
「あー、正確にはまだ勇者ではない、だな。その素質は充分にあるんじゃが、いかんせんまだガキなんじゃ。」
「年齢が若いって事ですか?」
「ああ、アイツらは双子でな、歳はまだ80じゃ。」
「80歳って、結構な歳だと思いますけど……」
「まぁ、キミらと似たようなものでな、人間ではあるが人間とはその成長過程が異なる。普通の人間の歳に換算するとまだ15かそこいらじゃな。」
「そ、そうなんですか。それなのにあれ程の力を……」
「ま、あ奴らもキミらと同じでな、まだ成長途中なんじゃよ。キミらもそうじゃが、もっともっと強くなる。」
「「 …… 」」
私達ももっと強くなる?
そう言えばルナ様もウリエル様もそんな事を言っていたけど、それってまだ伸びしろがあるっていう事なのかな?
ウリエル様とアズライール様は確か『その先』とか言っていたけど……
「あ奴らは強いがな、それでもまだ足りないと言えるじゃろう。
キミら二人と合わせて4人で事に臨む方が、あ奴らにとってもキミらにとっても負担を軽くし成長も促進されると思う。」
「4人で、ですか?」
「うむ、はっきり言うとだな、あ奴ら同様、ディーナとシャルル、キミら二人も勇者としての素質は充分にある。
下手をすれば、同世代に4人の勇者が、なんてこともあるかも知れんな。」
「「 私達が勇者だなんて…… 」」
たぶんだけど。
それは無い、と思う。
私がそんな大それた存在になんて、なれないというか、なっちゃいけない気がする。
シャルルも同じように思ったみたいで、私を見て両手を上にむけ首を傾げ、ため息をついた。
「まぁ、”勇者”という存在の定義すら曖昧じゃからな、それはおいおい話して行こう。それよりも今はルナとウリエルの事じゃ。」
「あん?」
「私達の事だと?」
「うむ、今その姿は変化したてでな、馴染んでくればその羽は自在に収納展開できるし、肉体も性別自由になる。」
「要するに元の体に戻るって事か?」
「その認識でよかろうが、決定的に違うのは基礎的な性別は女性で固定されている、という事じゃな。」
「元々性別が無かった私達が、なぜよりにもよって女性なんだ?」
「まーアタイは別にどっちでもいいんだけどな。」
「うん、まぁ、それはじゃな。お前達自信が一番良く解るのではないか?」
「「 あー…… 」」
「ちなみに、じゃ。ワシもアズラも性別はない。ワシら階層の存在で性別が確定している、というのは現状お前達だけなんじゃ。」
「そ、そうなのか?でもよ、マコーミックは? あいつは男で固定だろ?」
「いんや、アイツも性別は無いぞ。」
「そ、そうなのか。」
「ま、お前達二人はあのお方に愛されておる。あのお方が男である以上こうなるのは明白ではある、が、それはな、過去にも例がない特別な事なんじゃ。」
「た、確かにそうかもしんねぇ……」
「もっとも、だ。もとよりルナの場合はツクヨミ殿と同化したっていうのも理由の一つじゃな。」
聞けば、ツクヨミ様はルシファー様やアズライール様とはまた別の世界の存在らしい。
その出自はサダコお母様と同じで、あの国、ジパングの昔の名である日本という国独自のものなんだとか。
確か“妖怪”と言っていたけど、それは精霊様や妖精とはまた違う生命体なんだって。
月の欠片があの国にしかなかったというのは、そういう事らしい。
その妖怪という存在については、本当の所はルシファー様もアズライール様も知らない、というか知る術がないそうだ。
当のサダコお母様も知らないらしい、とはルシファー様の言葉だ。
「ツクヨミ殿はな、れっきとした女性じゃ。同化したのであれば、その影響が大きい、という事でもあるんじゃろう。」
「なるほど、な……」
「あれ?でも、ちょっと待てよ。じゃあ、アタイらと同じ存在になっているサクラは何なんだ?」
そうだった。
サクラお母様は、蘇った時には既に人間ではなく今のウリエル様達と同じ存在となっていた事になる。
てことは、性別が固定されているっていうのは前例がある、ってことじゃないのかな?
正しくはどんな存在なのかはわからないけど、天使って言ってたしね。
「そこはじゃな、ワシらにも本気で分からない領域の話じゃ。
サクラ様はな、もはや誰もその存在を正しく認識できるような方ではないんじゃ。
それはな、あの方と同じ、という事なんじゃよ。」
「どういう事なんだ?」
「まぁ、これは本来は言うべきではないんじゃがな、サクラ様は遠からずあのお方の元へと行く事になる。」
「え?」
「そ、それって、サクラお母様が死んじゃうって事、なのですか?」
「いや、死ぬわけではないんだよ。そもそもサクラ様は寿命がないんじゃ。今のルナとウリエルと同じでな。」
「と、言う事は……」
「うむ、あのお方と、果てない時を共に過ごす事になるんじゃろうな。ワシら階層の者としては、羨ましい事この上ない事じゃ。
だがな、それは即ち、あのお方もサクラ様も、それが許されるだけの事を成し遂げたって事、あるいはそれは、本当の愛、というものなんじゃろうな、きっと。」
それはもはや、私達が理解できる範疇を大きく超えている事なんだろうなぁ。
でも、愛する人と共に悠久の時を生きていくっていうのは、とても素敵な事だと思うなぁ。
「ところで、じゃ。」
「はい?」
「喉が渇いたな、飲み物でも調達してくるかの。」
「あ、じゃあ、私が貰ってきます。」
「うむ、すまぬの。ただ、我儘になるがワインだけは勘弁してくれ。」
「ワイン、ダメなんですか?」
「あまり好かんのだよ。」
「ジジイ、ホントにワガママだな……」
私とシャルルは宿のフロントでお酒を貰ってきた。
ラミウス様がわざわざ用意してくれた、これ、ジュネヴァだ。
こっちでは“ジン”と呼んでいるみたいだけど、間違いなくナムルの食堂で頂いた、あの蒸留酒だ。
ストレートで飲んでも美味しいんだけど、ここはカクテルするべきだよね。
と、そんな所も見越していたのか、ライムを絞った果汁も付いていた。
「おお、でかした二人とも!」
「おし!じゃあアタイがとっておきのカクテルを作ってやるぜ!」
ウリエル様はジュネヴァを3割ほどコップに入れてライムの果汁をその半分ほど注ぐ。
そこに水に重曹を入れた炭酸水を加えて軽くステアしライムの輪切りを一つ放り込むと、ジンライムっていうカクテルになった。
「こいつはな、アイツも好きだっていってたカクテルだ。
もっとも、アイツはそんなに量は飲めなかったけどな。」
「おお、これは!」
「美味い、しかし味音痴のお前にこんな特技があったとはな。」
「だからそりゃ違うっつってんだろ!」
「美味しー!!」
「ライムの香りとジュネヴァの芳香がバッチリ合いますね!」
結局6本あったジュネヴァの大半は、ルシファー様が全部飲んじゃったのであった。
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